BMW F900R

◆F850GSをベースにアップグレード

BMWモトラッドの最新モデル、『F900R』と『F900XR』の国際メディア試乗会がスペインで開催された。「R」はロードスター、「XR」はアドベンチャースポーツの位置づけだ。エンジンと車体のベースは2018年に登場した『F850GS』で、水冷並列2気筒のボアを2mm広げて895ccへ排気量を拡大。鍛造ピストンの採用などで最高出力は10psアップの105psへと向上している。

フレームもF850GS由来のスチール製ブリッジフレームを採用。電子制御も進化し、ABS、ASC(トラコン)に加え「レイン」「ロード」の2つのライディング・モードを標準装備。さらに上級グレードにはコーナリングにも対応したABSプロとDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)に加え、急激なシフトダウンによる後輪スリップを低減するMSR(いわゆるエンジンブレーキコントロール)を備えるなど安全装備が充実した。またアダプティブ・ヘッドライトやキーレス・ライド、2輪初となる軽量プラスチック溶接タンクなどBMWの最新技術が投入されている。

◆見た目も走りもフルチェンジ


ロードスターとしてのF900Rの先代モデルとなると2015年登場の『F800R』ということになる。ただ、新型のベースはF850GSに移行したため先代とは大きく異なるマシンになった。エンジンは同じ水冷並列2気筒でもF800Rの360度クランクから新型F900Rでは不等間隔爆発の270度クランクとなり鼓動感もアップ。

最高出力もF800Rから15psも上乗せされ、ワイルドな排気音とともに加速も明らかに力強く。先代のシンプルで素直な乗り味から、よりエモーショナルでガッツ溢れる走りへと個性を主張するようになった。見た目も水平対向エンジン搭載の兄貴分、R1250Rと共通イメージ化されるなどBMWロードスターファミリーとしての統一感が出てきた。

◆積極的にスポーツを楽しめる


ハンドリングも激変。フレームが従来のアルミツインスパータイプからGS由来のスチール鋼管タイプへと変更されたことも大きいと思うが、バイクからのインフォメーションが豊富に感じ取れるようになった。

また、従来モデルは着座位置がやや後方にあってリヤステアでバイクなりに曲がっていく感じだったが、新型でスイングアーム長が伸びて路面追従性が向上するとともに、フロント荷重が増したことで初期旋回力も向上。軽量プラスチックタンクや車体の低位置に配されたコンパクト化された新型エキゾーストシステムの恩恵によりフットワークも軽快さを増している。

実際に乗ってみると分かるが、シート形状もフラットになり前後移動の自由度が増してライポジにゆとりが生まれるなど、より積極的にスポーツライディングを楽しめるようにデザインされているのだ。ちなみに標準シート高は815mmと従来モデルより若干高くなったが、並列2気筒ならではの車体のスリムさも手伝って足着きも良好。さらにオプションで6段階のシート高が選べるのも嬉しい。

◆4輪BMWを思わせる機能性と驚きのコスパ


電子制御の進化も著しい。最上級のプレミアムラインには4つのライディング・モードが設定され、選択したモードによってスロットルレスポンスやABS&トラコンの介入度、そして電子制御サスペンション「ダイナミックESA」(リア側のみ)の設定まで最適化してくれるなど、まさにスーパースポーツ並みの機能を装備。

また、現行モデルとしては最大級の6.5インチ大画面フルカラーティスプレイを見ながら手元のジョグダイヤルで直感的に操作できるという、まるで4輪のBMWを思わせる機能性と高級感の演出も見事だ。国内投入されるF900Rには「ベース」、「スタンダード」、「プレミアムライン」の3つのグレードがあり、それぞれで装備が異なるが、驚くのはその価格。「ベース」は国産ネイキッド並みのなんと105万円台に設定されている。

BMWの中では入門モデル的な位置づけのFシリーズの中でも、とりわけコンパクトで扱いやすいのがF900Rと言えるだろう。それでいて最新テクノロジー投入による現代的な走りと充実した装備を考えれば、コスパ的にもかなりお得感があるはず。アッパーミドルクラスで扱いやすいシンプルなネイキッドを求めている方には自信を持っておすすめしたい一台だ。



■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★★
快適度:★★★★
タンデム:★★★
オススメ度:★★★★★

佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。

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