ダイハツ・タント新型

◆「小は大を兼ねる」と軽自動車からBセグメントまで一括企画

軽自動車の技術進化がこの夏に一段と進み、それに伴ってメーカー間のシェア争いも激しさを増すのが必至だ。

軽自動車のトップメーカーであるダイハツ工業は、7月に新たな開発手法である「DNGA」(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)による第1弾としてスーパーハイトワゴンと呼ばれるジャンルの新型『タント』を発売する。スーパーハイトは軽自動車では半数近くを占める圧倒的な人気分野。元々はダイハツが開拓した市場だが、2018年度まで4年連続でホンダが首位を走っており、ダイハツの逆襲が注目される。

ダイハツのDNGAは、同社がトヨタ自動車の完全子会社となった16年当時から開発に着手しており、いよいよ商品化の段階を迎えた。ダイハツはトヨタが17年に発足させた「新興国小型車カンパニー」に参画し、開発面ではむしろ主導する立場にある。このため、DNGAは日本向けの軽自動車だけでなく、新興国や日本でのAセグメント(排気量1リットル級)とBセグメント(1.5リットル級)までをカバーして設計思想を共有させた。部品や生産設備の共通化が、より広い範囲でできるようになり、ダイハツが旗印とする「良品廉価」の商品づくりの強力なバックボーンとなる。

◆全てのプラットフォーム要素を同時に刷新

開発に当たっては、「サスペンションやアンダーボディー、エンジン、トランスミッションなどプラットフォーム(車台)の全ての構成要素を同時に刷新」(開発担当の松林淳取締役)しており、同社のクルマづくりを根底から見直した。

また、軽自動車からBセグメントに至る領域をカバーするため、マツダの開発手法としても知られる「一括企画」による開発を採用した。ボディ骨格や着座位置などを相似形で定めるもので、ダイハツの場合は「小は大を兼ねる」として最小モデルの軽自動車を「基点」としてA、Bセグメントにも展開できるようにした。DNGAでの部品共用化率は75%以上に及び、松林取締役によると軽自動車で見た場合の製造コストは「従来よりも10%弱削減できる」そうだ。

ダイハツはトヨタグループのなかで、25年にはグローバルで販売される250万台規模の車両の開発を担う目標を掲げている。18年比で約4割増という意欲的なものだが、25年までに開発予定の15ボディータイプ・21車種全てにDNGAを採用する方針だ。250万台のうち、トヨタとダイハツのブランドはほぼ半分ずつになる見込みという。

DNGAの第1弾となる軽自動車のプラットフォームは、軽くて強靭な造りを追求した。車両全体で従来比約80kgの軽量化を図る一方、ボディの曲げ剛性は約30%向上させている。松林取締役は「ハイト系だとコーナリングで車体が傾きやすく、これまでお客様は軽自動車だから仕方ないと思われたかもしれない。DNGAでは、乗っていただくと『えっ、これが軽』と言っていただけるクルマづくりをめざした」と、完成度に自信をのぞかせる。

◆世界初、日本初の技術でホンダとスズキに挑む

新型タントはパワートレインでも新機軸が多彩だ。自然吸気のエンジンでは高回転域を除いてプラグを2度点火する「マルチスパーク」方式を日本で初めて実用化し、燃費や走行性能の改善を図っている。また、変速機では世界初となるCVT(無段変速機)にギアを組み合わせた「D-CVT(デュアルモードCVT)」と呼ぶ技術を開発している。これまでのCVTより、駆動力の伝達効率は約8%向上し、60km/hの定地走行での燃費は約12%改善するという。

このほか、安全運転支援技術の「スマートアシストIII」も改良し、渋滞時など全車速域で先行車を追従可能なクルーズコントロールや、縦列駐車も含む駐車支援などの機能を追加した。タントは03年に初代が登場し、スーパーハイトという従来にないノッポ車の市場を創造した。子どもが立ったまま車内を移動できるなどにより、子育て世代から圧倒的な支持を得ており、今や軽乗用車の半数近くを占める最大ジャンルに成長した。

しかしタントは、軽自動車の首位にとどまらず日本で最も売れるクルマにもなったホンダのスーパーハイト『N-BOX』、さらにスズキの『スペーシア』の後塵を拝している。これらライバル車が、いずれも17年にプラットフォームを刷新して全面改良したからだ。2年遅れで反撃に挑むことになった「元祖」の売れ行きは、DNGAの実力と今後をも占うことになる。

ダイハツ・タントカスタム新型 ダイハツDNGAによる軽自動車のプラットフォーム《撮影 池原照雄》 ダイハツ松林淳取締役《撮影 池原照雄》 ダイハツ軽自動車用のD-CVT《撮影 池原照雄》