ホンダ ベンリイCB125JX《撮影 雪岡直樹》

いま排気量125ccの原付2種クラスが「便利で経済的」と人気だが、このクラスには昔から“隠れ名車”が数多く存在し、重宝されてきたのはいまに始まったことではない。

教習所ではヨンヒャク(400cc)に乗る前のクラッチ操作習得用として、大排気量車を持つライダーにはセカンドバイクとして、あるいはビギナーが最初に選ぶ愛車として、大車輪の活躍をしてきた。


80年代はもちろん、90年代頃までは街でよく見かけたビジネスバイクも、このクラスが主流だった。発泡スチロールの箱を荷台に載せて、長靴を履いて運転するオジサンたちが乗っていたのは、ホンダなら「ベンリイ CD125T」、ヤマハだと「YB125」、スズキならば「K125」だったが、いつの間にかすっかり見かけない。メッキされた燃料タンクやディープフェンダー、スポークホイールが旧車感タップリで、絶滅前には若者たちのカスタムベースとなっていたのを覚えている。

◆ロードスポーツ車としても使われた働くバイク“ホンダ ベンリイ”

働くバイク“ホンダ ベンリイ”も70年代はロードスポーツ車として、あらゆる用途に使われていた。そのうちの1台が1975年発売の『ベンリイ CB125JX』だ。ダイアモンド式フレームに搭載するSOHC単気筒エンジンは、特殊アルミ合金の軽量ピストンや吸排気効率の良い大型ポートを採用し、最高出力14ps/10000rpmを発揮。

「アトマイザープレート」という新機構を持ち、これは使用頻度の多いキャブレター開度6〜7割までの状態では、インレットポート断面積を7割程度におさえて混合気の流速を上げ、霧化を向上するようポート内部を上下に2分割するプレートを設けたもの。

燃焼効率を向上し、発進加速時などに起こりがちな一瞬の息つきを防止して、シャープなレスポンスが得られるだけでなく、燃費の向上にも役立つ。ホンダのこのクラスにかける意気込みを感じさせる手の込んだ技術であったのだ。

◆現代の幹線道路でもキビキビ走りそう


ホンダコレクションホール(栃木県芳賀郡茂木町=ツインリンクもてぎ内)にある動態保存車両に、なんと乗ることができた。鮮やかなカラーリングの車体はスリムで美しく、前後フェンダーやマフラーのクロームも上質感があって、所有欲も満たしてくれるレベルに達していることも驚きを隠せない。当時の新車車両価格は16万3000円で、大卒初任給8万4000円の時代であることを考えると納得。125ccのバイクは、充分に高級なものであったのだ。

車体はスリムで軽量ながらフロント18、リア17インチというフルサイズの足まわりで堂々たるもの。燃料タンクも9.5リットルの容量があり、ニーグリップもしっかりできるし、ハンドルもアップライトでライディングポジションもゆったりとしている。

セルスターターは備わっておらず、キックでエンジン始動。コンディションが整えられ、一発で元気に目覚める。「アトマイザープレート」のおかげだろう、4サイクルエンジンはトルクバンドが広く扱いやすい。排気音も低音が効いて力強く、元気溌剌としたものだ。


スポーツバイクであることを主張しているのが、この時代にフロントブレーキをディスク式にしていることと、デュアルメーターの装備だ。ブレーキは制動力、タッチ、ともに申し分なく自在に減速でき、軽快に走れる。メーターは右に1万回転からのレッドゾーンを示すエンジン回転計、左に135km/hまで目盛りが刻まれた速度計を配備。タンクキャップはリッド(蓋)でわざわざカバーされ、タンクと同一色に塗装。流れるラインを強調しながらアクセントポイントになっていて、これまた豪華だ。

ホンダは「ドリームCB750FOUR」(1969年)など歴史に名を残す名車揃いだが、44年前の125ccクラスにして不足のない運動性能をすでに獲得していたことが改めてわかる。そしてやはり、こうしたさほどクローズアップされていない“隠れ名車”は、125ccに多い気がする。



青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。最新バイク情報をビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説し、休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持されている。現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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