BMW 8シリーズ 新型(M850i xDrive)撮影 中村孝仁

◆20年ぶりの「8シリーズ」

BMW『8シリーズ』がラインナップに戻ってきたのは実に20年ぶりのことのようだ。先代モデルは『6シリーズ』の後継。その後再び6シリーズが復活し、今度はまた6シリーズの後継としてデビューした。BMWのトップラインのクーペは6と8の間を行ったり来たり…というわけである。

そもそもBMWの最上級クーペの系譜は、6シリーズ以前の『CSシリーズ』に遡る。当時はあまりに華奢なピラーと、それによって構成される明るいグリーンハウスがその美しさを際立たせ、世界で最も美しいクーペ像を形作っていた。その伝統は6シリーズでも8シリーズでも受け継がれ、まさに貴婦人と呼ぶに相応しい、繊細で華麗で、そして美しいデザインを纏っていたと思う。

さて、その貴婦人。最新の8シリーズも、少なくとも横から見ても斜め後ろから見てもそれが当てはまる。ただし、フロントフェイスは少々厳つい。最近BMWは例のキドニーグリルをことさら強調するデザインを採用しており、最近デビューした『X7』でそれは極まった。

今回の「850」ではまだ上下方向に小さいから許せるとして、やはり貴婦人と呼ぶには少々獰猛すぎる。だから、貴婦人と称するのはあくまでも横から見た時と斜め後ろから見た時だ。



◆新型「Z4」よりも速いコーナリング

それはともかくとして、V8ツインターボのパフォーマンスはパンパではない。元々がヨーロッパでも高速をぶっ飛ばして移動するお金持ち用だから、日本の交通状況は完全な役不足。パフォーマンスに関してだけ言えば、完全に食い足りなさを残す。

それでも一端を味わうべく、少しだけ箱根ターンパイクを飛ばしてみた。実はこの日、BMWの試乗は他にもう一台、新しい『Z4』が用意されていたのだが、驚いたことにこの繊細で華奢なイメージのあるクーペは(見た目)、如何にもスポーツカー然としたZ4よりも確実に速い。それもコーナリングで。4輪操舵の恩恵が大きいのか、ターンインでグイッと路面を掴むと、そこから踏み込んで行っても全く路面を離そうとしないし、ノーズはどんどん切れ込んで行ってくれる。それにこのクルマ、xDriveが示すように4WDだからなおさらだ。


例によって、走行モード切り替えがエコプロ、コンフォート、スポーツ、それにアダプティブとあって、スポーツモードに入れると突然音が変わる。如何にもそれらしいサウンドを奏でるのだが、これはスピーカーから流れる疑似音。加速でシフトアップするには豪快で勇ましいサウンドに聞こえるが、下り坂を一定スピードでアクセルを踏まずに降りてくるようなシチュエーションでは、回転は3000〜4000rpmに張り付いて、そのサウンドもただボーっと如何にも音、作りました!的なサウンドで、こいつはいかがなものかと思った。

◆まさに鎧を着た貴婦人


パフォーマンスは530ps、750Nm。敢えてこれ以上は書かないが、例によって60年代のルマン24時間を走ったレーシングカーのパフォーマンスである。電子デバイスが付いていなかったら、とうしろうにはとてもじゃないが扱えない代物だ。しかも当時モノと違って、低速域ではまさに借りてきた猫のようにおとなしい。ストレートでは0-100km/hの加速が3.7秒だそうだから、そこだけで遊ぶのがいい。

因みにシフトレバーは日本仕様に関してすべて、ガラスと表しているが要はクリスタルのノブが付いて来る。しかもその中に8の字が透けて見える演出。果たしてこいつにいくらかかっているか不明だが、まあとりあえず美しいし、良しとしよう。

それにしてもこの貴婦人、とても華奢な体つきではない。コックピットに乗り込んで、ガチャリとドアを閉め、いざ出陣となると、ミシリともしない屈強な骨格が感じ取れる。ハンドリングや乗り心地はどこまで行っても優しく、その点では貴婦人のしとやかさを見せてくれるのだが、こちらが汗をかくようなドライビングをしてもまるで意に介さない。

とんでもなく強いやつと腕相撲をして、向こうが涼しい顔をしているといった印象である。まさに鎧を着た貴婦人であった。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める

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