余部灯台へのアプローチ。道案内が出ていたくらいだから簡単に行けるのかと思いきや、落石、路肩崩壊だらけのすごい道だった。最低地上高は『デミオ』よりわずかに高いだけだが、こういう道では生きる。《撮影 井元康一郎》

マツダのサブコンパクト級クロスオーバーSUV『CX-3』の1.8リットルターボディーゼルMTで3200kmほどドライブする機会があったのでリポートする。前編ではシャシーやデザインについて述べた。後編ではパワートレイン、テレマティクス&先進安全システム、ツーリング&居住感などについて触れていこうと思う。

◆1.5リットルを前時代の遺物にするパフォーマンス

今回のドライブギアは2014年に登場した『デミオ』の1.5リットル以来の新規ディーゼルとなる1.8リットルターボ。最高出力は85kW(116ps)と、改良前の1.5リットルに対して1割増し、最大トルク270Nm(27.5kgm)は変わらず。スペック的には排気量が増えた恩恵はどこにあるのかという感じであるが、リアルドライブでいろいろ試してみたところ、1.5リットルを一気に前時代の遺物にするかのごときパフォーマンスであった。

まずは燃費。すりきり満タン法による実測燃費は横浜〜京都北部までの482.3km区間が23.2km/リットル。京都から山陰回りで鹿児島に到達した1074.3km区間が24.7km/リットル。鹿児島周遊および帰路、山岳地帯を縦貫しながら北九州に達するまでの474.5km区間が19.6km/リットル、そこから山陰回りで湘南までの1132.8kmが27.9km/リットル。

筆者は2年前にデミオの1.5リットルディーゼル+MTで横浜〜鹿児島ツーリングを行っているが、かりに今回のCX-3とそのデミオを同じペースで併走させたらCX-3のほうが良いスコアを出すのではないかというのが実感であった。

また、マツダのスカイアクティブディーゼル(SKYACTIV-D)モデルは燃料タンク容量に比べて実際に使える燃料の量がかなり少ない傾向があったが、新1.8ディーゼルは公称タンク容量48リットルに対し、往路の京都〜鹿児島間で43.53リットル給油したときも燃料警告灯は未点灯で、その欠点はほぼ解消したとみてよさそうだった。燃費の良さとあいまって、ロングドライブ時の航続距離はかなり飛ばし気味に走っても余裕の1000km超えであった。

◆まだまだ伸びしろがあるマツダの内燃機関


燃費性能がドーンと上がった要因は、熱効率と排出ガスレベルの両方が相当に改善されたことにあろう。たとえば素の効率だが、熊本北方の平野部で試しに低回転を多用してエコランチャレンジしてみたときは、オンボード燃費計の数値は余裕の40km/リットル越えであった。デミオで同じような走り方をしたときと比べても2割くらい良いというのが実感だった。

この数字は燃料を食うディーゼル微粒子フィルター(DPF)の熱処理を含まないものだが、そのDPFの処理のインターバルはおおむね300km強と、1.5リットルと比べてアベレージで100kmくらい長くなった。熱処理自体も以前のようにダラダラとはやらず、ものの数分、数kmで終了する。また、前述の熊本北方での低回転多用エコランのような走り方をすると、デミオの場合は熱処理のインターバルが短くなって、結局燃費節減効果は大してないという感じだったのだが、改良版CX-3の1.8リットルディーゼルはインターバルにほとんど影響しなかった。エンジンの燃焼改善による有害物質の低減が相当に進んだものと推察された。

ドライブを終えた日、たまたまエンジン開発を指揮してきた常務執行役員の人見光夫氏と話をする機会があった。人見氏は「新エンジンは排気量を拡大したうえで、トルクを無理に出さないようなセッティングになっている。排気量拡大は効率面で有利なだけでなく、内部EGR(排出ガス再循環)によるクリーン化もしやすくなる。ディーゼルのエンジンアウトはこれからももっと綺麗にできますよ」と語っていた。

マツダは内燃機関にはまだまだ伸びしろがあり、それを磨いていくことが地球規模でみた場合に低CO2化に大きく貢献できる道と主張している。新1.8ディーゼルは船舶や産業用ディーゼルでは一般的になっているミラーサイクルも使っておらず、これが効率向上の天井というわけではない。が、今後も長く続くであろうチャレンジのメルクマールとしてインパクトのあるエンジンであることは確かだ。エンジンの優位性を口にするだけのことはきっちりやっているのだなと感心させられた次第だった。

新1.8ディーゼルの動的パフォーマンスについてだが、車両重量1.3トン弱のCX-3をスペシャリティカーとしては十分以上に活発に走らせた。欧州勢のハイパワーディーゼルのような感動的な速さ、回転上がりの気持ちよさはないが、速度レンジの遅い日本ではこれで何の不足もない。登坂車線ありの急勾配での大型車追い越し、新東名クルーズなど何でもお手のもので、アウトバーンでも130km/hくらいの流れでは痛痒感を覚えることはないであろうと思われた。

◆実用性の低さもスペシャリティカーとして見れば


エンジンの話はこのくらいにして、CX-3のロングツーリングの使用感。前編でも触れたように、CX-3は非常に情感的な作りになっている半面、ボディサイズに対する実用性は高いほうではない。車内、荷室とも狭く、また小物入れなどの収納スペースも不足気味であった。これらはクルマの機能としては決してプラス要因にはならないのだが、面白いことにCX-3をスペシャリティカーとしてみると、その狭さがちょっとしたクーペのようなプライベート感の演出にはからずも役立っているようにも思えた。

後席が狭いのは、実用車としては少々ネガティブ。足元スペースが不足しており、小柄な人ならともかく、標準的な身長の男性だとあまり長い間乗っていたい空間とは言えない。が、この後席も取り柄はある。小さいボディながら座面高が前席に対してギリギリまで高められ、眺望の良いシアターレイアウトとなっている。サイドウインドウも屋根との境界線が乗員の頭の横まできっちり延ばされ、閉所感は小さい。狭くとも荷物ではなく人間が乗る空間としてデザインされているのだ。ドア開口部もデミオよりは広く、高齢者が乗り込むにも都合がいい。

室内デザインは基本的にデミオとほとんど同じである。が、デミオがクラス標準を大きく越え、プレミアムセグメントばりの質感を持っているため、それがCX-3に移植されても十分にスペシャリティな雰囲気は出せている。ただ、価格帯的にデミオよりずっと上なのだから、差別化は欲しかった。カギのひとつとなりそうなのは、艶やかなインテリアの中で唯一、無味乾燥なデザインであるモノクロのインパネ。メーターや情報ディスプレイをもっと艶やかなものにすれば、それだけでちょっと上等そうに見えたであろうにと思ったりした次第だった。


◆ツーリングに嬉しいアクティブハイビーム

先進安全システム「i-ACTIVSENSE」は、『CX-5』、『アクセラ』などの上位モデルと異なり、ステアリング介入をともなうアクティブ制御はないものの、天候が良いときには過不足ない働きをした。上位モデルと共通の弱点は高湿度の雨天で、ライバルと比較してもわりと簡単に音を上げる。

ツーリングファンにとって嬉しいのは、先行車や対向車を避けてハイビーム照射するアクティブハイビームを標準装備していること。明るさも十分で、山陰の暗闇のバイパスでハイビームになると数百メートル先の反射板まですーっと光が伸びて照らされ、対向車が現れるとそこだけフッと照明が落とされたりするのは、見やすいだけでなくハイテク感もある。

◆「デートカー」という言葉が思わず浮かぶ


改良版CX-3は乗り心地や静粛性が改善されたことで、ちょっと艶やかな雰囲気が欲しいスペシャリティカーとしてはとてもまとまりの良いクルマになった。デートカーという言葉は今や死語になりつつあるが、その言葉が久々に頭に思い浮かぶようなキャラクターだった。また、静的質感が高いので、プレミアムセグメントには手が届かないが、せっかくだから良い物感はそれなりに欲しいというカスタマーにとっても良い選択肢になり得るであろう。

半面、SUVとしての走行機能やスペースはほとんど持たないということで、SUVのヘビーユーザーには向かない。また、1台でファミリーユースから遊びまでをこなしたいという人にとっても、あまり良い選択とは言えない。このようにターゲットユーザーを自ら絞るようなクルマづくりは多分に意図的なもので、そのことがスペシャリティカーに必要なエゴイスティックな空気感を帯びることにつながっているとも言えるので、これでかまわないのではないかと思われた。

グレードの選択だが、今回の「Lパッケージ」ほどの装備充実版でなくとも、基本的には十分満足できるのではないかと思われた。色気重視の場合はレザーシート装備のグレードを選べば良いだろう。悩ましいのはディーゼルとガソリンのどっちを選ぶかだ。

新1.8リットルディーゼルの性能の良さが印象的ではあったが、ガソリンのほうも最高出力110kW(150ps)の2リットルDOHCと、車格に対して結構余裕のあるユニットが組み合わされている。Lパッケージ、6速MT、FWD同士で比較すると、両者の価格差は税込み27万円。ロングドライブを頻繁にやるのであればディーゼルもありだが、スペシャリティカー的な使い方をするなら安価で性能の良いガソリンのほうが良さそうである。

マツダ『CX-3』Lパッケージ、FWD、6MT。《撮影 井元康一郎》 マツダ『CX-3』Lパッケージ、FWD、6MT。《撮影 井元康一郎》 横浜を出発後、京都北方、亀岡にて初回給油。23.2km/リットル。その後、エンジン特性を把握するにつれて燃費はどんどん上がっていった。《撮影 井元康一郎》 熊本北部の平地で燃費アタック中。30分経過時点で燃費計値は43.8km/リットル。新ディーゼルの効率向上ぶりには目を見張った。《撮影 井元康一郎》 山口県にて記念撮影。《撮影 井元康一郎》 北九州から山陰経由で茅ヶ崎までの1132km区間を走行するのに要した軽油量はすりきり満タン計測で40.64リットル。1タンクで軽く1000kmを超える航続性能と実燃費の良さは魅力だ。《撮影 井元康一郎》 マツダのエンジン開発のキーマンとして知られる人見光夫・常務執行役員。内燃機関のポテンシャルはまだまだこんなものではないと語っていた。《撮影 井元康一郎》 CX-3の細部の造形へのこだわりは魂動デザインモデルのなかでも『ロードスター』と一、二を争うだろう。《撮影 井元康一郎》 かつて鉄橋がかかっていた兵庫北部の余部にて。今はコンクリート橋になっている。《撮影 井元康一郎》 マツダ『CX-3』Lパッケージ、FWD、6MT。《撮影 井元康一郎》 余部灯台へのアプローチ。18年5月の改良で荒れ道での乗り心地は大いに改善された。《撮影 井元康一郎》 CX-3のコクピット。SUVな広さはないが、スペシャリティカー的な雰囲気はある。そういうファッション重視のミニSUVは欧州では流行っており、CX-3にとっても最大市場は欧州だ。《撮影 井元康一郎》 助手席も電動調整式で、調整幅も大きい。《撮影 井元康一郎》 内装もデザインは凝っている。ダッシュボードはデミオとほとんど共通だが、元がいいのでスペシャリティカーとしても十分通用する感があった。《撮影 井元康一郎》 シフトレバーまわり。《撮影 井元康一郎》 後席は狭く、長時間乗車向きではないが、狭いながらも前後席を段差配置にしたりウインドウを前後に延ばしたりといった"人間のための居住空間"作りがなされている。《撮影 井元康一郎》 後席は狭いながらも閉所感はあまり感じない。頭の横まできっちりウインドウ開口部が延ばされているからだ。後ドア上端のラインも高く、高齢者を乗せるにはデミオよりずっと適している。《撮影 井元康一郎》 左右2本出しマフラー。《撮影 井元康一郎》 排気管のテールパイプ。長距離走行後に内部を指でごしごしこすってみたが、汚れはほとんど付かなかった。《撮影 井元康一郎》 マツダのディーゼル「SKYACTIV-D」のエンブレム。《撮影 井元康一郎》 入念に作り込まれている内外装のなかで唯一、ちょっと残念なポイントだったのは計器類で、デザイン、質感ともに見るべきポイントがなかった。デミオとの差別化のためにももうちょっと頑張ってほしかったところ。《撮影 井元康一郎》 エアコン吹き出し口。赤の差し色はお洒落だった。《撮影 井元康一郎》 ダッシュボードその他の造形はデミオとほぼ共通。《撮影 井元康一郎》 カーゴルームは狭い。荷室底部のボードを外せば少し広げることができる。《撮影 井元康一郎》 九州自動車道を走行中。こういう良路の高速クルーズは得意科目だ。《撮影 井元康一郎》 SUVというよりはクーペ的な視界。スペシャリティ色重視の場合、これはこれでありだと思った。《撮影 井元康一郎》 マップランプは麦球。ちょっと光量が足りない。《撮影 井元康一郎》 山口県の日本海側、宇田郷にて。《撮影 井元康一郎》 風景によって表情を豊かに変えるマシングレーメタリック塗装。《撮影 井元康一郎》 鳥取県の主要漁港がある琴浦にて。《撮影 井元康一郎》 関門トンネルを通過。今年は開通60周年であった。《撮影 井元康一郎》