ヤマハのハイブリッドスクーター「NOZZA GRANDE(ノザグランデ)」に本邦初試乗。ホンダPCXハイブリッドとの違いは ※敷地内で許可を得て走行しております《撮影 宮崎壮人》

ホンダが2018年夏に、量産二輪車として世界初のハイブリッドバイク『PCXハイブリッド』を発表し注目を浴びているが、なんとびっくり、ヤマハもハイブリッドスクーターを同時期に発売していた!!

タイで『GRAND FILANO HYBRID(グランドフィラーノ・ハイブリッド)』として販売をスタートし、12月にはベトナムで『NOZZA GRANDE(ノザグランデ)』という名でデビューしているのだ。

そして今回、その実車を目の当たりにすることができ、ヤマハ開発チームへの独占取材にも成功したのだが、さらに敷地内にてプロトタイプへの試乗も許された!! 日本のジャーナリストでは、初のテストライドということになる。

◆日本でも人気の出そうな上質感


見てまず感じるのは、丸みを帯びた流麗な車体で上質感に満ちあふれていること。外装は樹脂パーツがそのまま剥き出しなんてことはどこにもなく、手の込んだ塗装が施され、ネジやボルト類は隠されて一切見えない。シートも外縫いのステッチや表皮が凝っているし、車名のロゴもステッカーではなく立体エンブレムと豪華。ABS仕様ではスマートキーも採用済みで、日本や欧州でも上級モデルとして充分に通用する。

プロジェクトリーダーの西村健さん(ヤマハ発動機 PF車両ユニット PF車両開発統括部 SC開発部 設計グループ)に聞くと、「女性に人気があり、ユーザーの男女比はタイで五分五分、ベトナムでは9割が女性」だという。車両価格はABSなしが5万5500バーツ(約18万6000円)、ABS付きが6万2000バーツ(約21万円)で、『PCXハイブリッド』が9万9000バーツ(約33万円)であることを考えると価格設定はかなり低く、ターゲット層が異なることがわかる。

ベトナムでは「ノザグランデ スタンダード」が4550万ベトナムドン(約21万7000円)、ABS付きのノザグランデ プレミアムが4950万ベトナムドン(約23万6000円)だ。

◆バッテリーは従来通り1つだけで、しかも鉛の汎用品


タイでヤマハは『フィラーノ』というモデルを2012年にリリースし、15年に『グランドフィラーノ』へとモデルチェンジ。そして18年にハイブリッド化され、ストップ&スタートシステム(アイドリングストップ機構)も今回備えた。心臓部は環境性能に優れる「BLUE CORE(ブルーコア)エンジン」(空冷SOHC2バルブ)だが、燃費をさらに7〜9%(仕向地、計測方法により異なる)ほど向上している。

ハイブリッド化にあたって、モーターの追加はなく、エンジン始動用モーターで駆動をアシストするのはPCXハイブリッドと同じ。ただし、PCXハイブリッドでは48Vリチウムイオンバッテリーをアシスト用に追加装備しシート下に積んだが、グランドフィラーノハイブリッドではバッテリーの追加はなく、従来通りの汎用鉛バッテリーを1個積むだけで、始動もアシストもすべてを賄う。

そしてエンジン始動用のモーターやスターターギヤを従来は別に備えていたが、ハイブリッド化された新型エンジンではクランク軸に直結した「スマートモータージェネレーター(以下、SMG)」にすべてを一体式で内蔵し、省スペース&高効率化を実現。アイドリングストップからの目覚めがよりスムーズで、このSMGが新開発されたことによって、エンジンも軽量・コンパクト化を追求することができ、単体重量で840グラムも軽くなった。

SMGとバッテリーは、新設の「SGCU(スターター・ジェネレーター・コントロール・ユニット)」が制御し、ハイブリッドシステムやストップ&スタートシステムを司る。なお、PCXハイブリッド同様に、エンジンが停止してモーター出力だけで走ることはできない。

◆一発目の加速が力強く鋭い


アシストするのは停止時からアクセルをガバッと開けた一発目の加速時のみで、速度が乗ってからの中間加速ではアシストしない。アシストは最大3秒間で5500回転まで。それより高回転域ではレシプロエンジンの伸びがあるから、モーターの手助けは要らないのだ。

パワーは4000回転で7%上乗せ。たしかに乗ってみても立ち上がりで力強く、さらにグイグイ加速していく。電動モーターの介入はごく自然で、アシストが切れたときも違和感なくエンジンのみの駆動に戻っていく。

小排気量スクーターでは、走り出しで感じることの多いふらつきがなく、ダッシュがズバッと決まる。アナログメーター内に液晶画面が埋め込まれ、アシスト時はそこにモーターが駆動力を発生している様子をイメージしたイラストが表示される。もし、バッテリー残量が少なくなれば電動アシストはおこなわず、充電し回復に専念する。

バッテリーの負担が大きくなって寿命に影響しないか心配だが、電子システムを担当した秋元雄介さん(ヤマハ発動機 PF車両ユニット 電子技術統括部 電子システム開発部 プロジェクトグループ)に聞くと「心配ありません」とキッパリと言う。交換時も汎用バッテリー(XTZ6V、ABS車=XTZ7V)なので、安く済むのがいい。

タイやベトナムの都市で走行テストを繰り返した加藤聖也さん(ヤマハ発動機 PF車両ユニット PF車両開発統括部 SC開発部 設計グループ)によると、東南アジアの渋滞が激しい都市部では、交差点の信号が青になってもすぐにアクセル全開の加速体勢には入れないという。というのも、道路はクルマとスクーターだらけで単独で走れるクリアな状況はまれ。交差点内にクルマが残っていることもあるし、赤信号でも守らず通行してくる車両もあり得るから、バイクは青になってもゆっくりと走り出し、5〜20km/hくらいのところから前方がクリアとなって、ようやくアクセルを大きく開けて走れる。

グランドフィラーノハイブリッドはそんな状況に適するよう開発され、発進直後にアクセルを大きく開ける一発目に3秒間アシストが効くようセッティングされている。そろりと出てから、ドーンと加速。これがとても気持ちがいい。

◆他機種への転用も難しくないはず


前後12インチの足まわりを持つ車体は、良い意味で馴染みのある平凡なスクーターで、ハンドリングも軽快。エンジンのコンパクト化によって車体重量も先代モデル比増減なし(101kg)を達成し、ABS搭載車で1kg増のみ。押し引きしても、かなり軽く感じる。

バッテリーやモーターの追加なしで成立させるヤマハ最新のハイブリッドシステムはコストが抑えられ、タイでの価格を見ても非常にリーズナブル。日本導入は未定ながら『NMAX』『シグナスX』『トリシティ125』などへの採用を期待せずにはいられない。そうなれば、ハイブリッドでのHY戦争が勃発か…!?

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★★

青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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