トヨタ スープラ プロトタイプ《撮影 佐藤靖彦》

◆スープラ プロトタイプに雨の袖ヶ浦で試乗

今回はプロトタイプで、車両の詳しい情報はなし。外観はボディラインがばれないようにGazoo Racing色のモザイク状態で、しかもインテリアはまだ見せてもらえず、黒いフェルトに覆われた試乗。まるでミステリーツアーだ。

短いホイールベース(前後のタイヤ間隔)。幅広のトレッド(左右のタイヤ間隔)、あきらかに短い全長にシートはふたつ。後席はなしで、完全に戦闘モードの3リットル直列6気筒エンジンという大排気量スポーツカーである。しかもFR(後輪駆動)。これを雨で路面が濡れ、「今日は絶対に滑ります!」と全員が口をそろえるサーキットで走らせろと言われても、ビビるばかりだ。誰だよ、使い物にならない私をここに連れてきたのは!(編集長です)。

運転席に座り、ふっと後ろを見ると、シートの後ろはトランクへの仕切り板がない状態(写真ではまだ見せられないのが残念!)。走りのために快適性は切り捨てたというものの、ここは、仕切り板をたててボディ剛性を上げるよりも、手荷物をちょいっと置ける場所確保という使い勝手をほんのちょっと優先させている。

フェルトで覆われた運転席の視界を見渡すと、シフトレバーとスポーツモードへの切り替えスイッチ周辺だけがちらりと見える。む? この形状。見覚えがあるぞ。これは確か、ドイツのバイエルン地方にあるあのメーカーの……。BMWとの関係は、年明けのデトロイトモーターショーできっちり語られるのでそれを待つとして、今回知り得た情報としては、「味付けについては、チームを完全分離させ、それぞれ追及した」とのこと。

◆これはスポーツカーなのか、というほどに紳士的な挙動


雨で黒光りする路面を前に、腰が引けたまま走り出す。けれど、最初のコーナーを半分まわった時点で、不安はぶっ飛んだ。

アクセルを踏んだときの素直な加速。ハンドルをきったときの安定感。ブレーキを踏んだときの自然な応答に、しっとりとしたサスペンションの乗り心地。これはスポーツカーなのか、というほどに紳士的な挙動なのだ。雨で川ができているサーキットでも、ドライバーを包み込むようなしなやかさなのである。もっと、がっちがちで、まっすぐ走るにも、ハンドルをぎゅっと握っていないと左右にふられるとか、がったがたで腰が痛くなりそうな乗り心地におびえていた身としては、肩から抜けていく緊張感が音を立てそうである。

こんなふうに書くと、なんだか骨抜きにされた仕上がりのように読めてしまうけれど、こう感じるのは、私の走行速度がスープラの実力に対して超低速だからだ。低速で感じるこの肉厚で安定感ある乗り心地は、高速で鍛えられたからこそである。

3リットルの直列6気筒エンジンという、燃費だ電動化だと声が上がるこの時代に真っ向勝負。「ハイブリッドも作った方がいいんじゃないの?」「燃費はどうするつもりだ」といった社内の声もあっただろうに、聞いちゃいるけれど聞こえないふりをして「ふーん」とすべて受け流し、大排気量ガソリンエンジン・FR・スポーツカーというクルマ好きの最後の砦をかたくなに守ったトヨタ開発陣に、まずはグッジョブ握手を求めたい。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:評価除外
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

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