KTM 1290スーパーDUKE R《撮影 藤村のぞみ》

ダカールラリー17連覇などオフロード界で圧倒的な存在感を示し続けているKTM。その無敵のラリーマシンを祖に持つエンジンを1300ccまで拡大しつつ進化熟成を極めたのが通称「LC8」である。

KTM史上最強の最高出力177psを発揮する水冷75度V型2気筒DOHC4バルブの塊を、鋼管をトラス状に組んだ軽量コンパクトな車体に押し込め、最新の電子デバイスを以てその凶暴なパワーを手なずけたまさにビースト。疾走する野獣という表現がぴったりの『1290スーパーDUKE R』と、その素性をそっくり生かしつつも快適性能をプラスしてスポーツツアラーとして仕立てたのが『1190スーパーDUKE GT』である。

【1290スーパーDUKE R】SSを凌駕するトルクと俊敏さ

スーパーDUKE Rは先代からするとスタイルは洗練され、コンパクトなLEDヘッドライトやTFTフルカラーディスプレイが装備されるなどディテールも高級感が増した。そして見た目どおり、走りもジェントルに扱いやすくなっている。「あれっ、こんなに乗りやすかったっけ」というのが第一印象だ。

とはいえ、スロットルをワイドに開ければ、フロントが常に離陸体勢となり、ハンドルがユラユラと軽くなる無重力感は従来どおり。ただ、そこに至る時間的な余裕が以前と比べて幾分残されている。これは電子制御の進化と無縁ではないはず。以前であればフロントがポンポン上がってしまい不用意にアクセルを開けられなかったが、新型では暴力的なパワーがトラコンという手綱によってより緻密に制御されている。パワーはそのままに角が取れてマイルドな特性になっているため、ビビらず落ち着いてアクセルを開けていけるのだ。視界の片隅でトラコンの介入を知らせるインジケーターが点滅していなければ、危うく自分が上手くなったように錯覚してしまうところだ。

今回は筑波コース1000での試乗であったが、250/390などのスモールDUKEシリーズは言うに及ばず、新進気鋭の790DUKEと比べてもなお巨大トルクを生かした加速力は圧倒的。ショートコースであってもやはり速さは断トツだ。理由は簡単で、パワーウエイトレシオが群を抜いている。つまり、相対的に体重に対して筋力が優ったアスリートと同じで、排気量はデカいが俊敏なのだ。

加えて、前後WP製倒立フォークに&モノショックにブレンボ製ラジアルマスター&キャリパーなど、足まわりにも走りを追求するための最高峰パーツがあしらわれ、その強烈なエネルギーを旋回力へと瞬時に変換してくれる。コースによってはスーパースポーツを凌駕する運動性能を見せつけてくれるはずだ。

1300ccとは思えない軽い身のこなしや瞬発力、そして方向転換の素早さはオフロードマシンを祖とするエンジンと車体設計に由来していると思えてくる。ダカールラリーが実質アンリミテッドだった頃の怪物マシンの流れをくむオンロードスポーツというバックグラウンドを知れば、それも納得がいくのだ。

【1290スーパーDUKE GT】スパルタンなのに快適すぎる

1290スーパーDUKE Rをベースにロングツーリングでの快適性と積載性を高めたのがGTである。GTとはグランツーリスモ(英語ではグランドツーリング)の略。つまり、大陸横断も可能な高速ツアラーという意味だ。

エンジンはRをベースに吸排気系とマップの見直しにより、出力特性を低中速トルク型へと見直した173psへと最適化。R同様、ライドバイワイヤーによる3種類のライディングモード(コンフォート、ストリート、スポーツ)やスーパーモトモード搭載のコーナリングABS、トラコン、クイックシフターを標準装備するなど、最新の電子デバイスを装備する。

そして、注目すべきはGTにのみアドオンされるC-ABS(前後連動ABSブレーキ)と電子制御サスペンションだ。C-ABSはブレーキレバーの入力に応じてリヤブレーキの制動力配分を最適化することで、ブレーキング時などの姿勢制制御をサポートするもの。一方の電子制御サスペンションはセミアクティブ方式で、走行状況をセンシングして瞬時に減衰力を調整することで、たとえば路面のギャップ通過やハードブレーキング時における底付きや過大なノーズダイブを抑えつつ車体の安定をキープしてくれる。これらの電子デバイスは、ライダーの疲労を低減しつつ安全に目的地に届けてくれる心強い味方だ。

また、ウインドスクリーンや大容量23リットル(Rは18リットル)の燃料タンクと一体化した大型シュラウドにより防風効果と航続距離をアップさせつつ、厚みを増したライダーシートと十分な広さのパッセンジャーシートが快適なタンデムを約束。パニア装着が前提の新設計のシートレールにより積載性も確保するなど“旅力”を大幅にグレードアップさせている点も見逃せない。

乗り味はというと、主に車体アッパー部分を中心に車重が10kg増えたおかげでハンドリングは穏やかになっているが、さりとてRにサーキットで大差をつけられるほどではない。むしろ、どっしりとした安定感とGT用に最適化された扱いやすい出力特性、電制サスのおかげでRよりイージーにアベレージ速度をキープすることができるほど。グリップヒーターやクルーズコントロールも付いて、さらに快適に距離を伸ばせるはずだ。

洗練された速さを手に入れたRとその能力を旅力へと昇華させたGT。オフロード界最強の遺伝子を受け継ぐ2台はやはり只者ではなかった。


佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。

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