VW ポロGTI 新型と up!GTI を島下泰久氏が比較試乗!《撮影 宮崎壮人》

フォルクスワーゲンが『ポロ』と『up!』にホットバージョンの「GTI」を設定した。これに『ゴルフGTI』を加えると、「ルポGTI」が販売されていた2005年以来、実に13年ぶりに3台のGTIが同時に揃ったことになる。

いずれのGTIも、ベースモデルの素性の良さを活かしてスポーティな走りを楽しめるクルマとして仕立てられているのは一緒だが、実はステアリングを握ってみると、それぞれ違った個性を持っていることに気付かされる。

◆ゴルフGTIを脅かす?新型ポロGTIの底力

新型ポロGTIは、昨年導入された新型ポロのホットバージョンである。よってボディはいわゆる3ナンバーサイズとなり、更にエンジンは従来の直列4気筒1.8リットルターボから2リットルターボに改められている。しかも電子制御式ダンパーを標準装備しているから、まさにひとクラス上の存在になったという印象だ。

実際、走りの印象は格段に上質になっている。ボディの剛性感はちょっとしたもので、サスペンションは締め上げられているにも関わらず快適性はとても高い。ノーマルモードはスポーツモデルとしての節度ある、心地よい硬さ。一方、スポーツモードでは減衰力が明確にハードに切り替わる。せっかくモード切り替えがあるのだから、これぐらいメリハリが効いていていい。

このボディとシャシーに、おそらくは電子制御の巧妙な介入も相まって、ポロGTIはステアリング操作に対して素直に反応し、気持ちよく曲がるクルマに仕立てられている。この点では、歴代GTIのどれより軽快感が高い。ゆっくり走っても、ペースを上げても、とにかく意のままになる歓びがある。

それでいてスタビリティも高く、安心感は抜群。遂に200psの大台に乗ったパワーを持て余すことなくアクセルを開けていける。

総じて走りの仕上がりは申し分無い。それどころか、これはゴルフGTIを脅かすかも? とすら思えたのだった。

◆理屈抜きに楽しい!up!GTI

up!GTIは全長3625mmというコンパクトな2ドアボディに、直列3気筒1.0リットルターボエンジンを搭載する。最高出力は116ps。奇しくもこの数値は、全長3705mm、最高出力110psを誇った初代ゴルフGTIとほぼ重なる。もっとも車両重量は1000kgと、800kg台だった初代ゴルフGTIとは比べるまでもないが、それでもポロGTIと較べれば何と290kgも軽いのだ。

この軽くコンパクトな車体に、使い切れそうなほどのパワー、更に6速MTという組み合わせがもたらすのは、思わず頬が緩む活発さ。エンジンはフラットなトルク特性だが、絶対的なパワーは知れているだけに常に適切なギアを選び、アクセルを思い切りよく踏んでいかなければならない。でも、それが理屈抜きに楽しい。6速MTのカチリと小気味良いタッチも気分をアゲてくれる。

しかも、車外で聞くと静かなのに、室内には結構豪快なエンジン音が響く。実はup!GTI、サウンドアクチュエーターによって室内の音環境を演出しているのだ。

サスペンションは引き締められているが、乗り心地は悪くない。硬いと言えば硬いのだが、ストローク初期のじわりとした動き、タイヤの絶妙なたわみが、カドをうまく丸めて、車重1000kgとは思えないしっとり感を演出しているのだ。

ポロGTIと較べるとステアリングの反応は穏やか。けれど、そもそもホイールベースが短く、軽量なup!GTIにはそれぐらいでちょうど良い。いつもより道幅が広くなったかのように感じる、このコンパクトさ、手の内感に、躊躇なく踏んでいけるちょうど良いパワーのおかげで、場面を選ばず爽快な走りを楽しませてくれるのである。

◆「限定」だなんて言わないで

冒頭にも書いたように、新しい2台のGTIは、単なるサイズの大小ではなく、それぞれ違った個性を備えているのが良い。しかも、いずれも完成度は高く、それぞれの世界をしっかり築いている。

それでも敢えて言えば、ポロGTIの344万8000円という価格には溜息が出た。先代との差は約7万円で、内容を考えればバーゲンとすら言えるとはいえ、内容だけでなく価格までゴルフの領域に入ってきてしまっている。

一方のup!GTIで引っかかるのは限定車だというところだ。2ドアのMT車なんて台数は期待できないと考えたのだろうが、結果としてオーダーの殺到で導入台数は追加となり、それでも欲しい人すべてには行き渡らない状況のようだ。

実はゴルフGTIのMT仕様も、そろそろ選べなくなる。これは特別なブランドではなくフォルクスワーゲンのGTIなのだ。限定なんて言わないで、いつも普通に選べるようにしてほしい。

厳しいことも記したが、それはGTIというブランドへの思い入れ、期待値故のこと。今のこのご時世に、GTIのようなモデルを3台いっぺんに揃えてくれただけでも喜ぶべきことなのは、改めて言うまでもない。多くの人が好みのGTIを選び取り、思い切り楽しんで、この世界を拡げてくれたらと強く思うところなのだ。


島下泰久(しました・やすひさ)
1972年神奈川県生まれ。走行性能だけに留まらない、クルマを取り巻くあらゆる事象を守備範囲に自動車専門誌、一般誌、ファッション誌、webなど様々なメディアを舞台に活動。2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ(http://sustaina.me)」を主宰する。近著は『2018年版 間違いだらけのクルマ選び』(草思社刊)。

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