メルセデスベンツ Aクラス(A200)《画像 メルセデスベンツ》

試乗した瞬間、期待を遥かに超えてさらに、強烈なインパクトを受けた。先代モデルの登場から数えること6年を経て4代目へと進化を果たしたメルセデスベンツ『Aクラス』は、それほど印象的な1台だったのである。

クロアチアのスプリトで開催された国際試乗会で最初に試したのは「A250 エディション1」。メルセデスベンツが新モデルを送り出す際に必ず設定する限定モデルである。最上級モデルA250をベースとして、装備は“全部付き”の状態。つまり新型Aクラスの最高の仕上がりがここある、と考えて良いだろう。

◆Cクラス超え? とも思える乗り心地

強烈な印象の理由は、乗り心地の良さ。このA250エディション1、欧州Cセグメントのアッパーに属すが、実に19インチのタイヤ&ホイールが与えられていた。それにも関わらず、路面の荒れや継ぎ目はほとんど感じさせず、フラットなことこの上ない感触を示したのだった。理由はまず、今回の新プラットフォームが先代のMFAの進化版であるMFA2であり、そのポテンシャルの高さによる。加えてサスペンションはフロントがマクファーソンストラット。リアは2種類が用意されるのが特徴で、16〜17インチを装着するモデルはトーションビーム、18〜19インチを装着するモデルはマルチリンクを与える。つまり上級モデルやハイパフォーマンスモデルではマルチリンクを採用したわけだ。

しかも試乗したA250エディション1は電子制御の可変ダンピングシステムを備えているだけに、19インチを履いた欧州Cセグメントのモデルながら、一つ上のクラスに属す『Cクラス』を超えたか? とすら思えるような乗り心地を示した。

加えて静粛性も極めて高い。空力性能ではCd値を0.25まで抑えて、同時にAピラーの構造やミラーの取り付けなどで、風切り音は−30%を達成したという。実際、その印象は確かにクラスでみてトップレベルの静けさを実現していた。



◆通常使用では1.4Lで十分

エンジンはA250では、先代から採用される2.0リットルの進化版が最高出力224ps、最大トルク350Nmのスペックで搭載される。そしてガソリンでは新たにルノーと共同開発した1.4リットル(正確には1332cc)の直列4気筒直噴ターボが、最高出力163ps、最大トルク250NmのスペックでA200のために用意されている。トランスミッションは2.0/1.4リットルともに7速のDCTだが、1.4Lリットルは新開発のより小型で軽量なものとなる。なお本国ではこの他に、1.5リットルのクリーンディーゼルが用意される。

エンジンの印象は1.4/2.0Lとも官能より実直さ重視のメルセデスらしいもの。どこから踏んでも太いトルクで扱いやすく、踏み込めば爽快さが生まれる。2.0Lは十分以上のパフォーマンスゆえ走りを志向する方向けだ。1.4Lはそれより非力だが、通常使用はこれがむしろベスト。大人の男性3人乗車でも決して非力さは感じなかった。

ハンドリングも気持ち良い。A250は特に軽い感触のステアリングフィールながら、芯がしっかりと感じられる好印象のもの。A200は18インチでリアがマルチリンクであるものの、可変ダンピングシステムは備えていなかった。これもA250ほどのインパクトはないが、このクラスのトップレベルにある乗り味走り味を実現していた。ステアリングはむしろA250よりしっかりと頼もしかった。結果、走り曲がる止まるに関しては、このクラスの王者であるVW『ゴルフ』を凌ぐ位置に到達した。もちろんゴルフは今後8に進化するので現時点では、と注釈付き。だが、その走行性能は高い実力を持つ。

合わせて安全装備もこのセグメントのトップといえる内容。ADASはステアリングアシストも備えた上で、追従中は30秒以内の停止なら自動で再発進もする。また『Eクラス』で話題となった、高速走行時のウインカー操作による自動車線変更も備える。合わせてブラインドスポットアシストは、走行中のみならずエンジン停止から3分間は後側方をモニタリングし、後続車や自転車が来ている際にドアを開けようとすると警告を発する。



◆注目のインフォテイメントシステム「MBUX」

しかしながら今回のハイライトは、そうしたハードウェアの完成度よりもむしろ、他の誰も搭載していない新たなインフォテイメントシステムを「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」の名で初搭載したことに尽きる。これによってまずインテリアでは、いわゆるメータークラスターはなくなり、1枚のパネルがドライバーの前に鎮座する。これは10.25インチのディスプレイが2つ並べられる構成。それぞれの画面はステアリングスポークのタッチコントロールボタンや、センターコンソールのタッチパッド、または画面に直接触れるタッチスクリーンで操作が可能だ。そして操作感はまさにスマホのそれだ。

しかしMBUXで最大の特徴は、“インテリジェントボイスコントロール”を備えたこと。これはiPhoneにおけるSiriや、グーグルホームやアマゾンエコーなどスマートスピーカーと同じロジック。曖昧な会話でもAI(人工知能)が理解をし、様々な機能を動かすことができる。起動はドライバーが、「Hey Mercedes」
と呼びかける。すると、「How Can I help You?」と返事をする。これに対して何か要求を伝えることで、様々な機能を動かす。例えば「I'm Hungry」といえば、近くの飲食店をリストアップ表示し、「Do I need an amblera tomorrow?」と聞けば、明日の天気を画面に表示する。

もちろんこれらは手動が早いが、例えば従来であればコントローラーでメニューを呼び出し、深い階層に到達して車両の機能を設定していたような煩わしさからはすっかり解放される。これによってこれまでの運転中のスイッチ操作に付随する視線の移動等もなくなるため、安全にも寄与すると予測できるわけだ。さらに搭載されるAIが学習して、ユーザーの好みや癖を学んで様々な提案もしていくという。もちろん日本語も現在開発されている。



◆最新モデルで見せる攻めの姿勢

こんな具合で新型Aクラスは、まだどこも扱っていなかった自然な対話型のユーザーインターフェイスを自動車に真っ先に取り入れた最初のクルマとなった。それにしてもこうした先進のシステムを、自動車の生みの親であるメルセデスベンツが、Aクラスという同社の最もコンパクトかつリーズナブルなモデルに最初に搭載したことに、強い攻めの姿勢を感じずにいられない。もちろんMBUXはまだまだ発展途上だが、時代が求める先進性をまず搭載したその積極性には感服する。そしてこれは従来の、高級モデルや上級モデルだからブランド初の先進の機能を導入するという手法と異なり、最新のモデルに最新のシステムを与えることこそが圧倒的な商品性の高さとなる、新たな流れをも感じさせる。その意味で新型Aクラスは、これまでの自動車の価値観を変えるような存在だと思えた。

もっともその代償ではないが、唯一気がかりなのが価格である。例えば、今回試乗したA250のエディション1は、装備の豊富さと充実度から価格は確実に500万円を遥かに超えており、600万円台に到達するレベルである。つまり自動車の価値観を変えるこの欧州Cセグメントのプレミアムモデルは、価格に関してもこれまでの常識を覆すかもしれない。この辺りはグレードや装備で変わってくるので、日本仕様がどのような設定になるかはまだ不明である。そんな新型Aクラスの日本上陸は、今年の終わり頃と噂されている。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

河口まなぶ|モータージャーナリスト
1970年5月9日茨城県生まれ。当初から一貫して"自動車の楽しさ気持ち良さ"を追求し続け活動を行う。雑誌、web、TV、新聞のみならず、ユーザーと直接対話するイベントも開催している。自身のブログ「まなブログforみんカラ」は月10〜20万アクセスを記録する人気ブログ。また自身の動画サイト「Manavideo」チャンネルをyoutubeにて展開中。Twitterをベースにしたweb上の自動車部である「LOVECARS!」も主宰。

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