ホンダ シビックセダン《撮影 宮崎壮人》

日本市場でこのサイズのセダンに、存在価値はあるのか。いつもそう思っている。ハッチバックより荷物は載らない。車内は狭い。ボディラインが把握しにくく車庫入れがしにくい。なにせ、たたずまいそのものがジジ臭い。しかしながら、あら?『シビックセダン』のデザインは悪くない。

(顔はともかく)真ん中から後ろへと続く屋根のラインはクーペのように美しい。いやいや、惑わされるな。このクーペのようなカタチだとほらね、後席に入ろうとすると屋根が低くて頭をぶつけるのだ。デザイン性と実用性は必ずしも一致しない。ただ、後席に座ると天井は高く、170cmの身長でもゆとりがある。足元も広い。ふむ、座り心地は悪くない。つまりは、いいの? 悪いの? どっちなの。揺れに揺れる女心である。

1.5リットル+ターボのエンジンは、音質が今いち。太くて雑で、このセダンのきれいなデザインに似合わない。世界戦略車のシビックゆえ、他国向けに採用しているエンジンはいろいろある。そのなかの1リットル+ターボのほうが、技術先進的な雰囲気があっていいのにと思うけれど、そちらは3気筒ゆえもっと音質は悪そうだ。しかし、音が気に入らないなあと眉間にシワを寄せながらアクセルを踏み込み、最初のコーナーに入ったところで、眉間のシワがぶっ飛んだ。

なんだこの足。後ろ足。ハンドルを切った方向と逆の後ろ足の動きがものすごくいい。ハンドルをきると、加重のかかる反対側の後ろのタイヤがしっかり支えて、向きたい方向へと押し出してくれる感じがするクルマはほかにもあるけれど、シビックの場合、ハンドルをきった瞬間にすでに後ろ足が待ち構えているのだ。このままアクセルを踏んでも安心して向きを変えられますよと、耳元で囁いてくれるのである(注・本当に声がするわけではありません、念為)。この安心感。コーナーを走るときの緊張感がみるみる弛緩する。これは楽しい。

生まれ変わったシビックは、日本市場では「走りを楽しむクルマ」と割り切って投入された。この車体にハイブリッドを積むつもりはなく、最初のボディ設計の時点でまったく考えて作られていないとのこと。燃費よりも、走りをとことん楽しむ。悪くない。やっと面白いクルマがでたなと気分を高揚させながら走りまわったあとの信号待ちで「うげ。」と声が出た。

センターパネルに「アイドリングストップをします」だの、アイドリングストップさせるために「ブレーキペダルをもっと強く踏んでください」といった趣旨の文字メッセージが出るのだが、そのダサいことといったら。もう少しどうにかならないのか、デザイン担当。ああ、ツメが甘い。このあたりがホンダの限界なのか。いや、もう少し、できるでしょ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

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