ダイハツ ムーブ RS(ターボ)《写真撮影 中村孝仁》

物を買う時、どうせ買うなら大きいものを買う。これ、やりがちな行為である。とりわけ子供の服などはその典型。どうせすぐに大きくなって着れなくなるから。これ、道理である。どうもクルマにもその公式が漠然と当て嵌まる。

同じ値段ならデカい方を買おう。その方が見栄えもいいし、室内で快適に過ごせるから。そんな理由から、スーパーハイトワゴンなる背の高い軽自動車が受けているのだろうか。確かに乗降性はいいし、室内の解放感も高い。でも、それなりに犠牲になる部分だってある。その最たるところが走行性能だ。背が高ければ当然重心高も上がり、ロール剛性も悪くなる。だから、本当ならばそこそこで納めておいた方が良いに決まっている。新しいダイハツ『ムーブ』に乗って、そんなことを感じた。

◆ハイトワゴンに「カッコ良さ」を盛り込んだ
このクルマがターゲット層とする購買層は、「多くの消費カルチャーを経験してきた目利きの世代」なのだそうだ。何かそう言われると買う側もまんざらではないと感じると思う。目利きという殺し文句があるからか。言うまでもなく今、軽自動車の主流はいわゆるスーパーハイト系。だから、ハイト系の(ムーブの市場だ)は押され気味。今回のモデルチェンジでムーブはそのハイト系として新たにスライドドアを設定したことが大きな変化なのだが、クルマを見て個人的に思ったことは、そこじゃなくてそのカッコ良さであった。

近年の軽自動車は、とにかく室内を大きくしようと頑張る傾向にあるから、フロントピラーは極力立てて、頭上空間を稼ぎ、エンジンをはじめとしたメカニズムを狭い空間に押しやるから、どれもこれも似たようなデザインで、少なくとも格好で選ぼうという気になる人はいないように思える。そんなわけだから、どうしてもデザイン的な差別化を図るべく、ノーマル車両といわゆるカスタム系の車両の2本立てラインナップとされることが多い。

実はこれ、ダイハツ・ムーブが最初に仕掛けたものだったそうだが、今回のムーブはカスタム系のモデルを敢えて置かず、シングルラインナップとなった。その代わりと言うわけではないが、「アナザースタイルパッケージ」と言う、メーカーオプションとディーラーオプションを組み合わせた仕様が設定されているから、どうしても「人と違う」が欲しい場合はこちらを選べばよい。ただし、ざっくり13万円〜19万円ほど高くはなる。まあ、カスタムもそんなものだから大きな違いはない。

前述したカッコ良さの話であるが、軽ハイト系としては異例にフロントAピラーが倒されている。ルーフエンドの部分を40〜50mmほど後退させたそうで、デザイン陣の頑張りは相当なものだった(これを承認させるため)という。もちろん入念な乗降性のチェックが行われており、個人的には乗降性に何の問題もなかった。

◆細かいブラッシュアップで洗練された走り
今回は試乗会での試乗であるから、あくまでも走行性能に関しては触り程度。DNGAのプラットフォームと3気筒12バルブのKF型エンジンは、先代からのキャリーオーバーなので、正直なところ走りには大きな違いはない。とはいえ、エンジンの制御系の変更や、サスペンションはファインチューニングを行うなど、細かい点のブラッシュアップが行われていて、その走りは一言で言ってかなり洗練されていると感じた。

試乗車はNAエンジンを搭載する「X」グレードとターボエンジンを搭載した「RS」グレードの2モデル。いずれも新色となる「グレースブラウンクリスタルマイカ」と呼ばれる濃いブロンズ色(ターボはルーフがグレーの2トーンである)のモデルをチョイス。まずはNAエンジンの方から乗り出してみた。

今回は都内のど真ん中に発着地点がある試乗会だったので、まずは首都高に乗って高速での走りをチェック。NAエンジンの自主規制枠があるのかどうかは不明だが、パフォーマンスは52ps。ちょうどホンダとスズキの中間で、ここ一番という時のパフォーマンスは不足気味だが、街中の流れに乗るような走りではまあ、必要十分。これがターボ車になると明らかにパワフルな印象に変貌して、完全に流れをリードできるレベルの加速性能を見せる。流石に新東名のように、120km/h巡航が可能な場所ではきついだろうと想像できる。というわけで街中限定の話をするとターボは必要以上。NAは必要十分な加速性能を持っている。

音振関係もターボに軍配が上がる。パワーがある分エンジン回転を低く使用できることが大きい。足回りはターボが15インチ、165/55R15、NAは14インチ155/65R14のブリジストン・エコピア(NA、ターボとも)を履き、サスペンションチューンもターボの方がより締まった乗り味だが、個人的には路面凹凸の吸収性や、収まりの良さでターボの方が好みである。決して硬いという感じはない。

◆必ずしも大きい方が良いとは言えない
要改良点として、ステアリングに付くpwrモードのボタンは正直あまり意味をなしていない上、シフトレバーでSモードが選べるので両方あるのはいかがかな?という点。また、USBソケットがBしか設定されておらずUSB-Cが無いのは今どきどうなのか?と思った次第。

とにかく室内空間的にはこれで十分。その分スタイル向上に振れているのだから、必ずしも大きい方が良いとは言えないかもしれない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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