初王座獲得を喜ぶティエリー・ヌービル(左は相棒のコ・ドライバー王者、マーティン・ヴィーデガ)。《Photo by Red Bull Content Pool》

11月21〜24日に愛知・岐阜で開催された「フォーラムエイト・ラリージャパン 2024」(世界ラリー選手権=WRCの今季最終第13戦)。一般車両のコース進入という事態の発生で思わぬ方向からの注目も増した今大会だったが、タイトル争いの終幕は実に劇的であった。


序盤から波乱続出の展開、ヒョンデとトヨタ各1台による優勝争いに
ラリーの展開は、本格的な競技初日である金曜(22日)から荒れた。Rally 1 規定のマシン(トップカテゴリー車)にパンクやクラッシュ、マシントラブルといったアクシデントが相次ぎ、タイムを基準にして見た場合、概ね順調にこの日を終えたと判断できるのはヒョンデ陣営もトヨタ陣営も各1台のみ、といった状況に。

ラリージャパンの優勝争いは実質的に首位の#8 オィット・タナック(ヒョンデ)と2番手の#33 エルフィン・エバンス(トヨタ)に絞られた。初のドライバーズタイトル獲得は目前という状況で最終戦を迎えていた#11 ティエリー・ヌービル(ヒョンデ)はマシントラブルで大きく後退。王座争いでヌービルを逆転できる可能性を有するのは僚友タナックだけだが、そのタナックが首位を走っているので、ヌービルも翌土曜以降、然るべき順位まで追い上げて得点する必要がありそうだ。

土曜(23日)は一般車両の進入という出来事が起きてしまったが、競技の流れは比較的落ち着き、首位#8 タナック、2番手#33 エバンスの態勢に変化なし。#11 ヌービルも7番手まで挽回しており、おそらく王座獲得は安泰、翌日曜(最終日24日)の焦点はヒョンデ対トヨタのマニュファクチャラーズタイトル争いの行方に絞られた、という概況だった。

最終日に首位タナックがクラッシュ、ヌービルの初王座が決定
日曜、またもやラリーは荒れる。なんと、首位の#8 タナックがこの日最初のスペシャルステージ(SS=競技区間)であるSS17でクラッシュ、戦線離脱となってしまったのだ。

この段階で#11 ヌービルのドライバーズタイトル獲得が決まった(相棒のマーティン・ヴィーデガもコ・ドライバーズタイトルを獲得)。そしてラリージャパンの首位には#33 エバンスが浮上した。マニュファクチャラーズタイトル争いも、トヨタ逆転4連覇の可能性が膨らんできたことになる。

これまでシリーズ2位や3位ばかりだったヌービルにとってはまさに悲願達成となった。「言葉が見つからないよ。とにかく、関わってくれたみんな、一緒に戦ってくれたみんな、チームの全員に感謝している。(王座に)とても近いところに何度もいたんだけどね。常に全力を尽くしてきた。そして今年、それが報われたよ」。ベルギー国籍の36歳ヌービル、ついに世界王者の仲間入りだ。

最終SSまでわからなかったマニュファク王座争い、トヨタ逆転でV4
最終日最後のSS(SS21)は、上位5台に5-4-3-2-1点が付加されるパワーステージ。ヒョンデとトヨタは“暫定同点”の状況でここを迎え、ここでの勝敗がマニュファクチャラーズタイトル争いの勝敗に直結するような状況での今季最終SSということになった。

そしてトヨタは前戦終了時15点差だった苦境を逆転し、3点差(561対558)で4年連続8度目のマニュファクチャラーズタイトル獲得を決めるのであった。ヒョンデは4年ぶりの奪冠ならず、ドライバー&コ・ドライバーとあわせてのタイトル総取りとはならなかった。

トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team=TGR-WRT)のチーム代表、ヤリ-マティ・ラトバラは、「タイトル獲得の可能性はそれほど高くなかったが、我々は最後の最後まで戦い続けるつもりだった。そして実際に最後の最後まで戦い続け、それがタイトル獲得につながった。最後まで戦い続けること、決して希望を失わないことの大切さを示すことになったと思う」と、奇跡的な逆転劇を振り返っている。

勝田貴元は4位「マニュファク王座を獲得できて、とても嬉しいです」
ラリージャパンの優勝は#33 エバンスで、2年連続制覇(今季初優勝)。ドライバーズランキングでタナックを抜き2位に上がってのシーズン終了となっている。エバンスは「最終日はとてもエキサイティングな一日となり、喜ぶべき最終結果を得ることができた。チームのホームラリーであるこのイベントで再び優勝することができ、本当に嬉しく思う。また、マニュファクチャラーズタイトルの獲得に貢献できたことも本当に嬉しい。チームのメンバー全員にとって大きな意味をもつことであり、その一員であることを誇りに思う」と語った。

ラリージャパンの2位は#17 セバスチャン・オジエで、トヨタが1-2フィニッシュ。Mスポーツ・フォード勢が3位と5位に入り(3位は#16 エイドリアン・フルモー)、#18 勝田貴元(トヨタ)は4位、#11 ヌービルが6位という最終結果だった。

今季は勝田にとってトヨタ(TGR-WRT)内でのポジション的責任が増したシーズンであり、第3戦サファリでWRC自己最高位タイの2位に入ったとはいえ、個人として満足いく成績だったとは言い難いところもある一年だっただろう。それだけにマニュファクチャラーズタイトル防衛という一定の“結果”をチームとして残せたことは大きいと思える。

勝田貴元のコメント
「本当に厳しいシーズンでしたが、最後にマニュファクチャラーズタイトルを獲得することができたので、とても嬉しいです。今週末は辛抱強く走らなくてはならず、決して簡単ではありませんでしたが、なんとか最後まで走り切ることができましたし、パワーステージではプッシュすることもできました」

「チーム全員が素晴らしい仕事をしてくれましたし、彼らのサポートがなければ、成し遂げることはできなかったと思うので、チームとチームメイトにはとても感謝しています。今週末は多くのファンのみなさんが応援してくれました。自分自身は表彰台に立つことができなかったので、みなさんには申し訳なく思いますが、応援に感謝しています」

ラリージャパンでの2年ぶりの表彰台登壇こそならなかったが、勝田は日本勢のWRCフロントランナーとしての存在感を今大会でも存分に発揮してくれた。

来季、4年連続開催となる「フォーラムエイト・ラリージャパン 2025」は、ラウンド数が全14戦に増えるWRCの第13戦(最終戦ひとつ前)として11月6〜9日に開催される予定となっている。

マニュファクチャラーズタイトルはトヨタが逆転で4連覇。《Photo by TOYOTA》 ラリージャパン2年連続優勝を飾ったエルフィン・エバンス(右)と、そのコ・ドライバーであるスコット・マーティン。《Photo by TOYOTA》 優勝した#33 エバンス(トヨタ)。《Photo by Red Bull Content Pool》 #18 勝田貴元(トヨタ)は4位。《Photo by TOYOTA》 ヒョンデ勢のWエースは明暗錯綜するラリージャパンだった(#8 タナック、#11 ヌービル)。《Photo by Red Bull Content Pool》 多くの観客がラリージャパンを楽しんだ。写真左のマシンは3位の#16 フルモー(Mスポーツ・フォード)。《Photo by Red Bull Content Pool》 愛知・岐阜での新生ラリージャパンは3年目の開催を終えた。大会は2028年までの継続開催が既に決定している。《Photo by TOYOTA》