ダンロップが挑む次世代技術『アクティブトレッド』が示す未来のタイヤ革命《写真撮影 土田康弘》

タイヤの世界を大きく変革する技術としてジャパンモビリティショー2023で発表されたダンロップのアクティブトレッド。未来のタイヤを想像させる革新的な技術の中身をじっくり取材してきた。

◆路面状況や温度でゴムが変化する画期的な技術
CASEやMaaS、サスティナビリティへの対応などを含めた次世代のタイヤに関する技術を次々と開発しているダンロップ。近年はスマートタイヤコンセプトと呼ばれるテクノロジーを矢継ぎ早に投入し続けている。そんな中、先日開催されたジャパンモビリティショー2023で発表されたのが「アクティブトレッド」だ。この技術がこれまでのタイヤの常識を大きく覆そうとしている。

アクティブトレッドの特徴は、水に濡れると柔らかくなり、温度が低くなると柔らかくなる性質も備えるという、これまでのゴムの常識では考えられない特性を持っている点。つまりドライはもちろんウエットやアイス路面までを含めて、1本のタイヤで幅広い性能をカバーしてしまう可能性が広がる次世代タイヤ技術なのだ。すでにオールシーズンタイヤと呼ばれるカテゴリーが存在しているが、さらにその性能を進めたタイヤを開発するための重要な技術だ。滑りやすいウエット路面でもアイス路面でも環境変化に左右されることなく安全に走行できるタイヤが生み出されようとしている。

アクティブトレッドの技術説明会ではその性能を裏付ける技術を詳しく説明されたので説明してみよう。アクティブトレッドの技術は大きく分けて2つ。水に濡れるとゴムが柔らかくなるTYPE WETと、低温になるとゴムが柔らかくなるTYPE ICEの2つのスイッチ技術に分けられる。

まずは水をトリガーにしてゴムが柔らかくなるスイッチ技術であるTYPE WETから説明が始まった。仕組みはトレッドに使われているゴム素材のポリマーとポリマーの間や、ポリマーとフィラーとの間をイオン結合にすることで、水に触れることで結合が解離する(結合が離れる)性能を持たせたのが特徴。従来のゴムであれば結合力の強い共有結合が用いられているので、ポリマーやフィラーの間は常に強固に結合したままの状態だ。一方イオン結合化することで水によって結合が解かれるため水をスイッチにしてゴムが柔らかくなるという仕組みなのだ。

しかも、これは水が浸透すると柔らかくなる/乾燥すると硬くなるという繰り返し変化する性質を持っているので、ドライ/ウエットの路面環境に合わせて最適なトレッドの硬さを持たせることができる。また柔らかくなる=操縦安定性や燃費の悪化を懸念するユーザーもいるだろうが、TYPE WETはゴム全体ではなく、トレッド面のごく薄い表面にのみ用いる技術のため、タイヤ全体のたわみなどは大きく変化することなく、従来タイヤと同等の操縦安定性/低燃費性能を備えているのも特徴だ。このTYPE WETを用いた結果、硬さは40%減少(軟化)、エネルギーロスは13%増大するという結果を同社では算出している。

もうひとつのスイッチ技術となるのがTYPE ICEだ。これは温度をトリガーにしてゴムの硬さを変化させる技術だ。一般的なゴムは高温だと柔らかく低温になるほど堅くなる性質を持っている。そんなゴム素材の原則とはまったく逆の特性を備えるのがTYPE ICE。具体的には低温下で柔らかく高温になると硬くなるという特性を持たせたのだ。

その仕組みはゴムに含まれる樹脂と軟化剤のブレンドがキーワードになっている。TYPE ICEでは樹脂と軟化剤の混ざり方をコントロールする素材として特殊イオン性化合物を採用。この素材を用いることで温度が低くなると樹脂と軟化剤が混ざり、高温になると分離する性質を持たせることに成功したのだ。低温になるとゴムの柔らかさを生み出す軟化剤が混ざる=ゴムが柔らかくなり、逆に高温になると軟化剤が分離する=ゴムが硬くなるという仕組み。概ね0度程度を境にして樹脂と軟化剤の混ざり方をコントロールすれば、アイス路面での環境変化にも最適に対応するゴム素材が作れるようになるまったく新しい技術だ。

◆キーとなるのは水と温度
今まで以上に路面変化への対応が可能となる
TYPE WET、TYPE ICEといずれも従来のタイヤに用いるゴムの概念を覆すほどの技術なので、その効果をすぐには理解しにくい部分もある。そこで技術説明会では実際に水によるトリガー、温度変化によるトリガーでゴムがどのように変化するかを手で触れて体感できる実験コーナーが設けられた。

最初に体験したのは、TYPE WETの技術を用いた同じゴムを2つ用意し、片方は水に浸し/片方は乾燥した状態にして比較するコーナー。ゴムの凹凸やゴムの硬さは手で触れてもすぐに判断できるほどの違い。明らかに水に濡れている方が柔らかい。TYPEWETを用いて作られたゴム板やゴムの棒を持ち上げると、水に濡れている方は、乾燥している状態のゴムに比べて大きく曲がることがひと目でわかるほどで、ここからも柔らかさが判断できる。

次にTYPE ICEのコーナーでは今回開発された新素材を氷水に浸ける/温水に浸ける、を交互に行いその硬さの変化を指で触って体感できるコーナーとなった。

新素材が入ったパケットを氷水に浸けるとみるみるうちに素材が柔らかくなっていくのがわかる。対してお湯に浸けると少し触るだけで硬くなるのがわかった(色も白っぽく変化するのも新素材の特徴)。微細な変化量ではなく、しっかりと指先で触れるだけでわかるほどの硬さ/柔らかさの変化があり、新技術の効果の高さを感じる体験コーナーとなった。

ダンロップではアクティブトレッドの技術を搭載した新商品として、まずは2024年に次世代オールシーズンタイヤを発売予定、その後も2027年には次世代EVタイヤの発表を予定するなど、アクティブトレッドの特性を生かした新しいタイヤ開発が急ピッチで進む予定だ。従来はサマータイヤ、スタッドレスタイヤ、低燃費タイヤなど、環境に合わせてカテゴリーを充実させてきたタイヤの世界だが、アクティブトレッドを使った未来のタイヤはひとつのタイヤが幅広い環境に対応する性能を備える可能性が見えてきた。ダンロップの今後の商品化、さらにはアクティブトレッド技術の進化に注目したい。

新技術『アクティブトレッド』を採用したタイヤ《写真撮影 土田康弘》 まずはオールシーズンタイヤとして製品化される模様《写真撮影 土田康弘》 まずはオールシーズンタイヤとして製品化される模様《写真撮影 土田康弘》 住友ゴム工業株式会社 取締役常務執行役員 村岡清繁氏《写真撮影 土田康弘》 住友ゴム工業株式会社 材料開発本部 材料企画部長 上坂憲市氏《写真撮影 土田康弘》 水に反応してゴムの硬度が変化する《写真撮影 土田康弘》 お湯に漬けた側は白く変化を起こして硬度が変わっている《写真撮影 土田康弘》 お湯に漬けた側は白く変化を起こして硬度が変わっている《写真撮影 土田康弘》 新技術『アクティブトレッド』に使用された資材《写真撮影 土田康弘》