住友ゴム工業山本悟社長(ジャパンモビリティショー2023)《写真撮影 井元康一郎》

10月28日に一般公開がスタートした東京モーターショーあらためジャパンモビリティショー。空気式タイヤの発明者で、「ダンロップ」ブランドで知られる住友ゴム工業ブースに姿を見せた山本悟社長が強調したのは“発明”だった(会見10月26日)。

「タイヤといえば水で滑る、氷で滑るというのがこれまでの常識でした。その常識を覆すために研究開発を重ねてきた結果、私たちはゴムそのものを新発明しました。それが特許出願中のあらゆる道にシンクロするゴム、『アクティブトレッド』です」(山本氏)

アクティブトレッドの最大の特徴は水分、温度によってゴムの硬度が変化するという点。タイヤのゴムは同じ温度では、基本的に硬度は同じ。ドライ路面では操縦性や耐摩耗性の観点から硬いほうが好ましいが、硬すぎるとウェットコンディションで路面への密着性が落ちるという、トレードオフが宿命的に存在する。オールマイティ性が求められる公道用タイヤはドライ、ウェットの中間点のどのあたりで性能をバランスさせるかで性格が決まる……、というのがこれまでの常識だった。

「タイヤの世界ではこれまで“水は邪魔者”と考えられていました。私たちはその水を味方にできないかと考えました。研究開発を重ねた結果、吸水性を持たせたゴムに結合剤を配合するという構造を考案しました。ウェットではゴムに水が浸透し、結合剤とポリマーが分離することでゴムが柔らかくなるのです。その結果、ドライとウェットで制動距離がほぼ変わらないという性能を持たせることができました」

温度への感応度も有する。スタッドレスでないタイヤがアイスバーンなどでグリップが極端に落ちる大きな理由のひとつに低温でゴムが硬化し、実効グリップ面積が減少するということがある。アクティブトレッドは低温になると逆にゴムが柔らかくなり、スタッドレスタイヤのように氷に密着するという。

住友ゴムはこのアクティブトレッドを採用した新しいオールシーズンタイヤを2024年秋に発売する計画。

「このタイヤができたとき、私は『まるで魔法のタイヤのようだね』と言いました。突然の天候の変化に不安を抱くことがなくなれば、クルマでの行動範囲は大きく広がる。EVの走行性能と低燃費という二律背反も両立させることができるようになりますし、自動運転やカーシェアにおいても安全性を高められる。このタイヤ1本ですべての条件を満たせるようになれば省資源にも貢献できる。タイヤそのものが路面センサーとなる『センシングコア』とこのアクティブトレッドを成長戦略のコアと位置づけています」(山本氏)

ここ20年ほどでタイヤの性能は飛躍的に向上したが、路面コンディションに合わせてゴムの特性がプラスに作用するように変化するというのはかなり画期的なドキュメント。そのうちリアルスポーツモデルを性能面での妥協なしに走らせることができるオールシーズンタイヤが登場する可能性もある。そんな未来を指し示す技術展示、ひと目見ておく価値がありそうだ。

ダンロップ・アクティブトレッド体感コーナー(ジャパンモビリティショー2023)《写真提供 住友ゴム工業》 ダンロップ・アクティブトレッド体感コーナー(ジャパンモビリティショー2023)《写真提供 住友ゴム工業》 住友ゴム工業ダンロップ(ジャパンモビリティショー2023)《写真提供 住友ゴム工業》 住友ゴム工業山本悟社長(ジャパンモビリティショー2023)《写真提供 住友ゴム工業》 住友ゴム工業ダンロップ(ジャパンモビリティショー2023)《写真提供 住友ゴム工業》 ダンロップを装着、三菱D:Xコンセプト(ジャパンモビリティショー2023)《写真提供 ジャパンモビリティショー2023事務局》 三菱D:Xコンセプト専用デザインのコンセプトタイヤ《写真提供 住友ゴム工業》 ダンロップを装着、ダイハツMe:MO(ジャパンモビリティショー2023)《写真提供 ジャパンモビリティショー2023事務局》 ダイハツMe:MOが装着、安全と静粛性を追求した誰でも容易に扱えるオールラウンダーのコンセプトタイヤ《写真提供 住友ゴム工業》