『エナリティ』プラットフォームコンセプトを発表《写真提供 伊藤忠商事/ZFジャパン/パワーエックス》

伊藤忠商事とZFジャパンは昨年12月、脱炭素化を目指す共同事業の検討について合意し、覚書を交わした。ZFジャパンは自動車向け一次サプライヤーとしてのノウハウを生かし、商用EVの非稼働時に車載電池を蓄電システム(ESS)として活用することなどを検討している。伊藤忠商事は、車載用としての役割を終えたバッテリーを二次利用する事業などを主に引き受ける計画で、合弁会社の設立も視野に入れている。

このプロジェクトで特に注目されたのは、ZFジャパンが提案するローリングシャシー*だろう。発表では、「ラストワンマイルデリバリーに適したローリングシャシー(電動小型商用車用シャシー)に搭載するリチウムイオン電池」の活用を検討するとあった。しかし、これに先立つ昨年8月には、ドイツのZFが日本で電動の小型商用車(LCV)生産に乗り出すといった報道も一部に見られた。
*車体以外がすべて備わり、走行可能な状態のシャシー

◆LCV向けの『エナリティ』を初公開
5月16日、このローリングシャシーをベースにした電動LCVの「完成イメージ」をZFジャパンが初公開した。伊藤忠と蓄電池やEV用充電器を手がけるスタートアップ企業のパワーエックス(Power X)が共同で開催した“Battery Ecosystem Event”と題した催しでのことだ。

Energy(エネルギー)とMobility(モビリティ)を掛け合わせ、『Enerlity(エナリティ)』と呼ぶプラットフォームコンセプトは、3つのレイヤー(層)から構成される。バッテリーやシャシーシステムから成るボトム・レイヤー、ADASや電動システムなどが構成するミッド・レイヤー、そして車体にあたる最上部のアッパー・レイヤーだ。ZFジャパンが提案するローリングシャシーは、このうちボトムとミッド2つのレイヤー部分。

この日披露された画像は、あくまでラストワンマイルデリバリーを想定した電動LCVの完成イメージだという。アッパー・レイヤー、つまりボディワークは市場や顧客ニーズに合わせてサードパーティーが設計し取り付けられるよう、プラットフォームは柔軟性のある構造になっているようだ。

ZFジャパンが提案するのは、ボトムとミッドのレイヤーを構成するサスペンションシステムとシャーシの統合制御を行うソフトウェア「cubiX」やADAS、電動アクスルなどの製品と技術だ。実際にプラットフォームとボディワークの設計・生産を行う企業に、これらのシステムやユニットを提供するというのが同社と伊藤忠商事の計画である。

◆汎用バッテリーの脱着が容易な構造
この電動LCVは低床とロングホイールベースが特徴で、積み下ろしの容易さや荷室の体積など、ラストワンマイルデリバリー用途における利便性への配慮がうかがえる。また、延長されたフロアには汎用バッテリーを3基搭載するスペースが確保されている。

蓄電池の車載用としての寿命を、両社は約2年と想定しているという。その後はESS用にリユースすることを考え、脱着および再利用のしやすさに配慮しているのもこのコンセプトの特徴だ。なお、ロングホイールベース化によって生じる回頭性の問題は、ZFの後輪操舵システム「AKC」で解消する。

◆蓄電池のライフサイクルマネージメント
ZFジャパンの多田直純社長は、エナリティを「動くエネルギーストレージ」と呼ぶ。「ZFのソリューションをOEM(自動車メーカー)に提供するだけでなく、新しい分野に進出したいと以前から考えていました。EVを蓄電池としても積極的に利用することで、エネルギーと新しいモビリティを繋げるビジネスモデルの構築を目指しています」とのことだ。

伊藤忠商事の次世代エネルギービジネス部長である村瀬博章氏は、EVバッテリーの使用後の出口確保の重要性とバッテリー全般の世界的な供給不足問題から、再利用を含めた有効活用の大切さを訴える。「バスやタクシーなどから回収したバッテリーを、蓄電所などのアプリケーションに活用する仕組みのシステム化が重要です。リユースモデルを確立することで、電池が持つ経済価値の最大化を図り、環境と経済の好循環を生み出せると考えます」と話す。

車載利用終了後も含めたバッテリーの「ライフサイクルマネージメント」というZFジャパンの構想に、伊藤忠商事が賛同して共同事業に発展したようだ。

◆30台同時接続可能な充電器
パワーエックスはこの日、商用EV向け充電システムの「Hypercharger for Fleet(ハイパーチャージャー フォー フリート)」を発表した。1台の蓄電池で240kWの急速充電器6基、または6kWの充電器を30台同時接続が可能だという。定置用電池をベースとしており、低圧電力契約での使用が可能で導入にかかる手間やコストが軽減できるメリットがある。

複数台のEVに関する運行計画や車載バッテリー容量に基づき、充電速度やスケジュールなどを最適に管理する制御ソフトウェアも実装されているという。トラックやバス、タクシーなど商用EVを運用する会社による導入を促しており、既にバス会社などから「お話をいただいています」と伊藤正裕CEOは手ごたえを見せていた。

◆課題は製造パートナー
パワーエックスとの協力関係は、ZFジャパンと伊藤忠商事のプロジェクトにおいてシナジーが期待できるだろう。電動LCVの運用やバッテリーのリユースなど、相乗効果が生まれる可能性は高そうだ。今後はZFジャパンと伊藤忠商事が設立予定の合弁会社および伊藤忠商事グループ、パワーエックスがそれぞれの強みを生かした連携を行っていくとのことだ。

最大の課題となるのは、エナリティ プラットフォームコンセプトの具現化。プラットフォームおよび車体の設計・製造をどこで誰が行うか。また、日本においては国土交通省の型式認定取得も必要となる。パートナーシップ締結に至った企業はまだ無いとのことで、今後の動向が注目される。

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