ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 雪岡直樹》

内燃機関のワクワク感に未練を残しながらもメカニズムと走りの新鮮さに引かれ、ボクはBMWが初めて送り出したバッテリーEV(電気自動車)の『i3』を購入した。オーナーになって色々な道を走ってみないと、EVの長所も弱点も分からないと思ったからである。i3は2014年秋に納車され、6年半で7万kmの距離を走った。次に買ったのは、デザインにひと目ボレした『ホンダe』だ。家とつながって、災害時にも使えるV2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)に対応していることも決め手の1つになった。付き合って2年で2万kmを超えたが、今も元気に走り続けている。

21世紀も5分の1を過ぎ、世界中が環境保全に舵を切ってきた。自動車の世界も、走行時にCO2を出さないEVが一気に注目を集めるようになっている。「2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー」も最終選考にバッテリーEVが3車(兄弟車を入れると4車)入った。イヤーカーに選ばれたのは、日産『サクラ』と兄弟車の三菱『eKクロスEV』だ。また、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーにはヒョンデの『IONIQ5(アイオニックファイブ)』が選出され、時代が変わったと感じた。

◆カムバックした世界第3位の自動車メーカー
ご存知の人も多いと思うが、ヒョンデは韓国の自動車メーカーで、漢字では「現代」と書く。2001年に日本で販売を開始したときはヒュンダイの表記を用いていた。が、販売は低迷し、2009年に日本市場から撤退している。そして捲土重来を期して2022年に日本市場にカムバックしてきた。その第一弾がバッテリーEVのアイオニック5と燃料電池車の『ネッソ』だ。ヒョンデは次の自動車社会を見据え、日本市場にはゼロエミッション・ビークルだけを送り込んでくる。そのエースモデルがアイオニック5である。

韓国車というと、今なお日本車より格下で、技術レベルも低いと思っている人が少なくない。だが、今やヒョンデは販売台数のトップを争っているトヨタとフォルクスワーゲンに続く世界第3位の自動車メーカーなのだ。3位の座をルノー日産とゼネラルモーターズ(GM)から奪取し、伸び盛りにあるステランティスも蹴落としてしまった。EVの販売台数は、北米ではテスラに次ぐ第2位の座をフォードと争っている。北米だけでなくEVに舵を切ったヨーロッパでも元気だ。「H」マークと言えば日本ではホンダだが、海の向こうではヒョンデを思い浮かべる人が多くなった。

◆走り出して10分で「商品性では負けちゃうな」
アイオニック5は、ヒョンデが全力で開発し、欧米に送り出した力作である。春に新潟県のオートキャンプ場で対面し、初めてステアリングを握った。走り出して10分ほどで「こりゃスゴいクルマだ。『アリア』も『bZ4X』も頑張っているけど、直球勝負のアイオニック5に商品性では負けちゃうな」と思ったものだ。キャラクターラインが力強いエクステリアデザインや水平基調のシンプルなインテリアなども個性的で新鮮だと感じた。しかも日本仕様は右ハンドルにアレンジしただけでなく、ウインカーレバーも右側に移し、右手で操作できるように変更している。

気配りや使い勝手のよさは日本車に負けていない。センターコンソールは前後にスライドできるし、助手席側に設けられた引き出し式のグローブボックスやボンネット内に設けられた収納ボックスも大容量だ。ビジョンルーフと名付けられた開放的なガラスルーフにはシェードも付いている。

キャビンは前席も後席も広く、快適だ。フロントシートは大ぶりだし、リアシートにもパワー機構を備え、前後にスライドできる。この後席の前には給電用のコンセントも装備されていた。また、電力消費が少ない暖・冷風シートも装備している。インフォテインメントパネルには各種の情報を出すことができるが、便利だと感じたのは、交差点を曲がるときにウインカーと連動してサイドビューの映像がメーター内に映し出されるシステムだ。周囲の状況を俯瞰からの映像で見ることもでき、巻き込みを防ぐ画面もある。安全な駐車を行えるようにしたリモートスマートパーキングシステムなど、心憎い配慮には舌を巻く。

変速のためのセレクターレバーはステアリングコラムの右側にある。i3と同じように、上から進行方向に回すとDレンジに、逆に手前に回すとR(リバース)に入り、バックする理にかなった方式だ。ウインカーレバーも日本仕様は右側に付いているから違和感なく運転できた。

◆刺激的なスペックで力強い加速を披露
アイオニック5は後輪駆動の2WDと4WD(AWD)を揃え、2WDの上級グレードである「Lounge」は最高出力217ps(160kW)/4400〜9000rpm、最大トルク350N・m(35.7kg-m/0〜4200rpm)を発生する。前輪も駆動する「Lounge AWD」は最高出力が305ps(225kW)/2800〜8600rpmに跳ね上がり、最大トルクも605N・m(61.7kg-m/0〜4000rpm)と、刺激的なスペックだ。

モーターは瞬発力が鋭く、パワーとトルクが一気に立ち上がる。だから2WDでもグッとくる力強い加速を披露した。しかも後輪駆動だから操る楽しさを実感しやすい。Lounge AWDは4WDならではの優れた接地フィールで、コントロールしやすいのが美点だ。懐の深い走りを楽しませてくれた。車重は110kg重いだけだから、スポーツモードを選ぶとスポーツカー顔負けのダッシュ力だ。しかも 街中や郊外の道路を流して走るときはジェントルで、滑らかさが際立っている。

静粛性が高いのも内燃機関に真似のできない美点の1つだ。遮音を徹底しているだけでなくミシュランのパイロットスポーツEVを履き、パターンノイズを減らしている。もちろん、バッテリーをフロア下に敷き詰めて低重心化しているからコーナリング性能は高い。ワインディングロードでコントローラブルなのも美点と言えるだろう。デビュー時は乗り心地に硬さを感じる場面があったが、この弱点にはメスが入れられたようだ。

また、便利だと感じたのがワンペダルドライブの「iペダル」である。走行モードによって回生による減速Gの強弱を変えることができ、減速感を強くすれば完全停止まで上手にコントロールすることが可能だ。高速道路では惰性で滑走するコースティングもうまい。

バッテリー容量はボトムのアイオニック5が58kWh、それ以外はLounge AWDを含め72.6kWhだ。WLTCモードでの一充電走行距離はアイオニック5が498km、その上のグレードの「Voyage」とLoungeは618kmを達成。4WDのLounge AWDでも577kmと発表されている。電費を意識したエコ運転をしなくても無理なく300km以上のレンジを確保できるはずだ。蓄積した電力が家庭用機器などの電源になるV2Lを標準装備し、家とつながるV2Hに対応していることも大きな魅力と言えるだろう。

もちろん、不満点もある。全幅は1890mmもあり、小回りも利かないなど、狭い道では取り回し性の悪さに手を焼いた。また、操舵フィーリングと舵の重さに違和感があるのも気になったところだ。ナビなどの操作性も今一歩と感じることがある。が、これらの弱点はどのクルマにもあることで、バッテリーEVのウィークポイントとは言えない。

◆ヒョンデの最新EV恐るべし、日本のEV大丈夫か!?
2日間にわたって試乗して「ヒョンデの最新EV恐るべし。日本のEV大丈夫か!?」と率直に感じた。バイアスがかかった考え方の人はいろいろ言うだろうが、ステアリングを握ってみれば新しいクルマの世界観に共鳴する人も多いはずだ。走りの実力、装備の充実度を考えると買い得感はかなり高い。

販売方法も時代を先取りしたユニークなものだ。アイオニック5はオンラインでの販売に限定している。オンラインで問い合わせて契約し、購入後の車両点検や整備のサポートは、すべて1つのIDで利用することができるのだ。

また、DeNA・SOMPOが運営するモビリティカーシェアサービスのAnyca(エニカ)は、ヒョンデと業務提携を結び、燃料電池車のネッソでレンタカー型カーシェアを開始した。これに続く第2弾がアイオニック5だ。一度、使ってみると、その実力がよく分かるだろう。世界中に多くのファンを持つアイオニック5は、ヒョンデの本気の取り組みを感じさせるバッテリーEVだ。まずは乗って実力を確かめてほしい。

ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 雪岡直樹》 ヒョンデ アイオニック5《写真提供 ヒョンデ》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ「アイオニック5」《写真撮影 廣井誠》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ ネッソ《写真撮影 吉澤憲治》 BMW i3(参考画像、2014年)《写真提供 BMWジャパン》 ホンダe(参考画像)《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ/三菱 eKクロスEV《写真提供 日本カー・オブ・ザ・イヤー》