ジープ コマンダー《写真提供 Stellantisジャパン》

日本ではどちらかといえばヘビーデューティーなイメージをもたれているジープ。圧倒的な支持を得ている『ラングラー』の影響は相変わらず強いようだが、その一方で『グランドチェロキー』などといったクロスオーバーSUVも人気が高く、ラインナップは各クラス揃えられている。その中でもっとも最新なのが『コマンダー』だ。

ジープに詳しい方なら記憶にあるかもしれないが、この名を聞いてあまり良いイメージを持たない人もいるだろう。しかし、先ごろ上陸した新型コマンダーは、時代のニーズをとらえた実用性の高いミドルクラスSUVで、デザインは都会的。プレミアム路線のジープとして新たに加わった。

◆妙な“最新”にこだわっていないところがかえって好ましい
エクステリアデザインは、上級モデルとなるグランドチェロキー譲り。同じジープブランドの『コンパス』の兄貴分にあたり、全長とホイールベースは長く、3列シートを備えるのが特徴で、「グランドチェロキーL」の系統を受け継ぐ。実車の車格は写真で見るよりも立派で大きく感じられ、スタイリッシュながら存在感が強い。

インストゥルメントパネル周りはコンパスと共通ながら良い意味で一世代前の使い勝手。メインメーターとなる10.25インチのフルデジタルクラスターには様々な情報を表示させることが可能で機能的、ダッシュボード中央の10.1インチタッチパネルモニターは、Apple CarPlayやAndroid Autoに対応している一方で、エアコンやドライブモード関連などの操作は別途設けられる物理スイッチで対応するなど、妙な“最新”にこだわっていないところがかえって好ましい。

室内空間はクールな仕上がりながら1列目と2列目はゆとりがあり余裕たっぷりだ。センターコンソールが高い位置にあるだけに包まれ感はあるものの、タイトだと思うようなことは一切ない、心地よい緊張感が得られる。ただ、3列目のシートに関しては、あまり期待してはいけない。リクライニング機能こそ付いてはいるが、大人が長時間座ることは厳しく、あくまでも緊急用、もしくは中学生以下までが対象と割り切ったほうがよさそうだ。

ラゲッジスペースは、3列目を可倒した場合で481リットル、3列目使用時では170リットルを確保し、電動パワーゲートを備えるなど、それなりに実用的だと思う反面、3列目のシートを倒すと背もたれ部の膨らみが目立ち、ラゲッジの床面がやや斜めになってしまうのが微妙。最近、完全フラットになるSUVがあるだけに、どうしても気になってしまった。

◆全体的に一世代前ながら、その完成度に「よくぞここまで」
走行性に関しては、意外にも軽快! ゼロスタート時でも約2.3トンの総重量を感じさせることなく、勢いよく走り出したのには正直驚いた。搭載されるエンジンは、ジープブランドとしては初採用となる2リットル直列4気筒ターボディーゼル。最高出力170ps、最大トルク350Nmを発生し、低回転域での豊かなトルクと立ち上がりに優れるのが美点。これに巧みな9速ATのギアリングが重なることで、4気筒とは思えない加速フィールを見せる。

それに加えてさすがはジープ、ボディ剛性の高さを実感させるのも特筆したいポイントだ。ただ、乗り心地は悪くはないものの、全体的に一世代前の印象で、時々突き上げを強く感じることがあったのは否めない。とはいえ、この横置きエンジンレイアウトを採るモノコックの完成度は、ジープが譲れない一線があった証し。即ち、オフロード性能を犠牲にすることは許されないという意地のようなものを感じてならなかった。

ドライブモードは「オート」「スノー」「サンド/マッド」の3種類が用意され、ヒルディセントコントロールも装備。さらに「4WDロック」と「4WDロー」を備えることでも分かるように、その気になれば例えクロスオーバーSUVでもジープならではの頼もしい走破力を味わえるというのもウリとしている。実際この新世代アーキテクチャーは、悪路での使用を想定して全体の63%が高強度・超高強度鋼で構成されている。そう思えば、多少は荒い一面を感じても仕方がないのだろう、逆によくぞここまで仕上げたと褒めたくなる出来栄えだ。

◆遠方まで楽にドライブできると確信
今回は、限られた時間内での試乗だったため、オフロード性能は試せなかったものの、高速道路上でACC(アダプティブ クルーズ コントロール)やアクティブレーンマネジメントをはじめとする運転支援システムを確認したところ、いずれもかなり精度が高かった。しかも電動パワーステアリングのセッティングも秀逸で直進安定性は抜群! これなら遠方まで楽にドライブできると確信した。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

野口 優|モータージャーナリスト
1967年 東京都生まれ。1993年に某輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。後に三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務し、2008年から同誌の編集長に就任。2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。25年以上にも渡る経験を活かしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動中。

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