ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》

『ZR-V』のシートに座ると、第一印象は「着座位置の高いシビック」。インパネを左右に貫くベントグリルのハニカムメッシュが『シビック』を連想させるのだが、それだけではない。デザイナーたちはパッケージングの段階から「セダン感覚」を求めたという。その真意を探っていこう。

◆セダンライクな着座姿勢
ZR-Vのフロント席のヒール段差=乗員の踵からヒップポイントまでの垂直距離は、国内の現行『CR-V』に比べて35mm小さい。一般的にSUVはヒール段差が大きくてアップライトな着座姿勢になるのだが、それが小さいということはセダンに近い姿勢ということだ。

「ドラポジはシビックとCR-Vの中間ぐらい」と、パッケージングを担当した伊藤智広氏。前席アイポイントの地上高はCR-Vより57mmも低いが、それでもSUVらしい見晴らし感は確保できている。それでいて、ヒール段差を小さくしてセダンのようにゆったり座れる。SUVとセダンの“いいとこ取り”をしたドラポジ設定と言えるだろう。

後席については、「シビックとほとんど同じ着座姿勢」。CR-Vよりも上体を寝かせた姿勢であり、こちらはさらにゆったり感覚だ。アイポイントやヒップポイントの地上高の数値は非公表だが、ヒップポイントは「前席より少し高い」とのことで、ヒール段差の小さい姿勢ながら埋もれたような感覚はない。

後席をまさにセダンの着座姿勢にしたのは、丸みを帯びたルーフラインのためでもある。艶やかな丸みとヘッドクリアランスを、ヒール段差の小さい着座姿勢で両立させたというわけだ。

◆復活?したハイデッキ・コンソール
水平基調のインパネはシンプルでクリーンだが、温かみも感じさせるデザイン。ソフトパッドで成形されたミドルパッドに、その触感に相応しい柔らかな断面形状を持たせたことが、温かみを醸し出すひとつの要因だ。

コンソールも柔らかな曲面に包まれた形状。上面を高く持ち上げたこれを、デザイナーは「ハイデッキ・コンソール」と呼ぶ。初代『ヴェゼル』で聞き覚えのある言葉だ。現行ヴェゼルには受け継がれなかったハイデッキ・コンソールが、ZR-Vで復活した? 北米では初代ヴェゼルは『HR-V』と呼ばれ、ZR-Vを新型HR-Vとして販売しているから、あちらでは2代続けてハイデッキ・コンソールということになるが……。

「セダンライクな着座姿勢を活かして、パーソナルな空間にしたいと考えた」とインテリアデザインを手掛けた上野大輝氏。コンソール上面を高くすることで乗員に包まれ感をもたらすのは、パーソナル感につながる。そして上野氏がこう続ける。

「ZR-Vは走りのダイナミクスに力を入れたクルマでもあるので、走りとデザインが融合したインテリアとはどんな姿なのか? そこからニーパッドが大事だと考えた。コーナリング時にコンソールに身体を預けられる」

コンソールを高くすることで、ニーパッドの有効面積を広げたわけだ。ハイデッキにしたその下の空洞はトレイ収納。シフトの前方には左右の乗員が仲良くシェアできる横並びのカップホルダーがあり、さらにその前にはスマホの非接触充電ができるトレイ。「使い勝手とデザインが融合した姿も実現した」と上野氏は語っている。

◆シビックより進化したベントグリル
インパネのベントグリルはハニカムパターンのパンチングメタル。これがインパネの幅一杯に広がるのは、シビックと同じ景色だ。北米の新型CR-Vも同様のデザインを採用している。

「シビックから新たな考え方を導入した」と上野氏。「それまではベントグリルの機構が見えていて当たり前。ルーバーの向きを見せるのも当然だと考えられていたけれど、そこを変えた。機構は奥に隠して、表に見えるのはパンチングメタル。そこから気持ちよく風が出てくれば、それで良いではないか、と」

ZR-Vもその考え方を踏襲したわけだが、実は機構が進化している。シビックの風向き調整ノブはスティック型。ノブの方向に風が吹き出すというデザインだった。それに対してZR-Vのノブは平らな板状で、これを左端までスライドさせるとシャット(風が出ないように)できる。

「シビックの場合、左右のベントグリルには開閉のダイアルがあるけれど、センターの2つのベントグリルにはそれがない。ZR-Vでは4つのベントグリルどれでも、左にスライドさせるだけでシャットできるようにした」

ひとつのノブで風向き調整とシャットができるというのは、小さな工夫だけれど大事な進化。ノブにはその操作方法を示す絵文字が刻印されている。

◆マルーン内装の微妙な輝き
内装色はブラックとマルーンの2タイプ。注目したいのは、ボディカラーのプレミアムクリスタルガーネットにベストマッチするマルーン内装だ。

インパネのミドルパッド、ドアのアームレスト、センターコンソールには「プライムスムース」と呼ぶ合成皮革が使われているのだが、マルーン内装ではボディカラーにも使われるガラスフレーク(ガラスの微粉末)を材料に練り込み、パール調のインテリアとしている。ガラスだから、メタリックほど強く輝くわけではない。室内に差し込む陽光をほんのりと反射し、そこにある形状を際立たせる。その効用を、CMF担当の後藤千尋氏は、「内側から放たれるような輝きが、空間のメリハリを艶やかに彩ってくれる」と説明する。

ちなみにマルーン内装は、ドア(あるいは窓)を閉じると赤味を帯びた黒のように見える。グリーンガラスを通して差し込む光が赤味を弱めてしまうからだ。しかしこの赤味を帯びた黒も上品で上質。興味のある方は、ぜひ販売店でドアを開け閉めして色の変化を確認してほしい。

◆Xグレードのシートは異色ミックス
Xグレードのシートはメイン材がファブリック、サイド材が合皮のプライムスムースという組み合わせ。メイン材のファブリックは「一見したところモノトーンに見えるけれど、実は異色ミックス。3色の糸で織ることで奥行き感を表現した」と後藤氏。マルーン内装では赤、緑、グレーの3色、ブラック内装ではネイビー、カーキ、グレージュの3色を織り交ぜている。

サイドサポート部に入れたアクセントラインは、細長いファブリックを縫い合わせたもの。その色について後藤氏は、「異色ミックスはメイン材と同じだが、よりグレイッシュに見えるように調整した」。違う色のように見えながら、実は同系色にすることでシート全体の統一感を醸し出しているのだ。

上級のZグレードは、ショルダーサポートを強めたシート形状になると共に、メイン材にパンチングを施した本革を採用。そこに縦方向にキルティングを入れて立体感を表現しつつ、キルティングのステッチをジグザグ・パターンにすることでSUVらしい遊び心も添えている。

ハニカムのベントグリルは最新のホンダ流儀だが、セダン感覚の着座姿勢やハイデッキ・コンソール、マルーン内装、パール調合皮、異色ミックスのファブリックと、インテリアでも「異彩」のコンセプトがしっかり表現されている。数あるホンダ車のなかでも、個性が際立つデザインだ。

ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V ガソリン X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V ガソリン X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V ガソリン X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V ガソリン X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V ガソリン X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V ガソリン X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V ガソリン X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV X《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V e:HEV Z《写真撮影 小林岳夫》 乗車姿勢とアイポイントの違い《写真撮影 小林岳夫》 全方位視界《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-V インテリア デザインスケッチ《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-Vのシート《写真撮影 小林岳夫》 ホンダ ZR-Vのシート《写真撮影 小林岳夫》 (左から)エクステリアデザイン担当の田村敬寿氏、カラー・マテリアル・フィニッシュ担当の後藤千尋氏、インテリアデザイン担当の上野大輝氏、パッケージ担当の伊藤智広氏《写真撮影 小林岳夫》