DS 9《写真撮影 中野英幸》

これまでの『DS 7 クロスバック』や『DS 3 クロスバック』もなかなか印象的だったが、フラッグシップサルーンと位置付けられた『DS 9』はさらに印象深く、世にある全長5m級のEセグメントの中でも屈指のユニークな高級セダンに仕上がっている。

エレガントな世界観は、「DS」なればこそ
滑らかな弧を描くルーフラインによるエレガントな雰囲気はもちろん、立体的でキラキラとしたパラメトリック3Dグリルや、無数の菱形のリフレクターを持つテールランプ、フロントフードやテールランプまわりに配されたクロームの装飾「セイバー」など、DSオートモビルならではのディテールの表現も目を引く。

車両に近づくと自動的にロックが解除されて、それまでボディパネルと同じ面に格納されていたドアハンドルがせり出してくる。クルマに乗り込むときの所作までもエレガントだ。

上品かつ上質で色気のあるインテリアにもホレボレした。DSの証であるウォッチストラップデザインのシートをはじめ、ダッシュやドアトリムなどにまでふんだんにナッパレザーが用いられていて、まるで高級家具のように仕立てられている。さらには異なる素材の巧みな組み合わせや、オートクチュールのドレスの技法に由来とするというステッチがあしらわれていたり、コンソールまわりにも緻密な加工が施されていたりと、ディテールのひとつひとつにこだわりを感じる。内外装とも他とはひと味もふた味も違う独特の手法で、DSなればこそなしえた世界観を見せている。

乗り心地は快適そのもの、クルマの性格に相応しい乗り味
ドライブフィールも、いかにもフレンチラグジュアリーカーらしい味わいに満ちている。ストローク感たっぷりの足まわりにより乗り心地は快適そのものだ。路面をセンシングしてサスペンションを先読み制御するDSアクティブスキャンサスペンションは、何か衝撃を与えそうなものがあるとあらかじめそれを見越した制御を行なうおかげで、凹凸や段差による入力が小さく抑えられる。

ソフトな中にも適度にダンピングが効いていて、ストローク感がありながらフラットな姿勢が保たれる絶妙な味付けで、長いホイールベースも効いてクルマの性格に相応しいゆったりした乗り味とされている。それでいて実際よりも大きさを感じさせないあたりも独特だ。

プラットフォームは最新世代ではなく、ひとつ前のEMP2のバージョンアップ仕様をベースとしている。それゆえか若干のバタつきや操舵フィールには、完成度の高い最新世代にやや及ばないように思えた面もなくはないのだが、全体としては印象は上々だ。

不似合いにも見える小排気量のターボエンジンだが…
一方で、これまたフランス車らしい部分ではあるわけだが、エンジンがこの車格には少々不似合いな気もする1.6リットルの直4ながら、直噴、ツインスクロールターボ、吸排気双方への可変バルブタイミング機構の採用、電動ウエストゲート、ガソリン微粒子フィルターなどといった最新技術がテンコ盛り。スペック的にも225psの最高出力と300Nmの最大トルクを引き出しており、いざドライブしても、1640kgの車体をひっぱるには大きな不満を感じることはない。

むしろ感心したのは過給の制御の巧みさだ。小排気量の直噴ターボエンジンで出力を高めると、低回転域のドライバビリティに不安があるところ、DS9では応答遅れのないリニアなレスポンスを実現している。1.6リットルの4気筒エンジンで、フレンチプレミアムブランドのフラッグシップを買い求めるユーザーを満足させるために大いに努力したに違いない。そして、それを実現した技術力にも恐れ入る思い。他の車種でも同じことを感じたことがあるのだが、旧PSAはそのあたりの過給の制御にかけて、何か素晴らしいノウハウを持っているようだ。

さらには非常に静かであることにも驚いた。エンジンがずっと遠くに積まれているような感覚で、よほど回さないエンジンの音が気になることもない。静粛性にかけても一連の車種とは別格の手厚い対策が施されているようだ。もう一方のPHEVも、さぞかしよくできているに違いない。ドライブできる機会が楽しみだ。

先進装備も充実していて、内容のわりに価格はそれほど高くないように思う。DSブランドが誕生し、ようやく出てきた待望のフラッグシップは、想像以上に完成度も高く、魅力的で印象的な仕上がりであった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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