VW ゴルフGTI 新型《写真撮影 中村孝仁》

少し長いところでは、星の寿命は100億年から1700億年といわれるそう。短いところでは食品の賞味期限はまあものにもよるが短ければ精々3日ぐらいだ。

つまりモノには何でも寿命や期限があるのではないかということ。もしかしてクルマにもあるのかな?というのが今回のテーマである。試乗車はVW『ゴルフGTI』。別にこのクルマが賞味期限というか寿命が迫っているというわけではない。

重箱の隅を箸でつついても悪いところがない
誤解のないように初めに新しいゴルフ8のGTIについてその機構的、性能的な話をさせていただくと、もうほぼ完ぺきである。簡単に言うと「素晴らしく良い」だ。どこをどう切り取っても、重箱の隅を箸でつついても悪いところなど出てこない。そのくらい良くできている。

おまけにビークルダイナミクスマネージャーなんて言うものを採用したおかげで、敬愛する業界の大先輩である岡崎宏司氏が使う「動質」(この言葉が大好きで時々使わせていただいている)がとんでもなく上がっている印象を受けた。

問題はポジショニングである。GTIがデビューした当時はゴルフの中でも飛び抜けた高性能車で、有無を言わさぬイメージリーダーであった。ところが今はどうだろう。頂点は『ゴルフR』に取って代わられた。そして新型になってもGTIには「クラブスポーツ」があったり、先代では限定ながら「TCR」があったりと、あくまでもGTIの派生車でしかないのだが、個人的にGTIのブランド価値が少々下がってしまったのではないか?と思えるのである。

ハッチバックという形式に賞味期限が来ている?
前述したように乗ってしまうとこれほど快適で安全に飛ばせるクルマはないと思えるし、作りの上質感もやはり過去最高である。ただし、性能的に目が覚めるほどかといわれると、その部分が昔とは違っていることだけは間違いない。性能的に245ps、370Nmは、ハッチバックとしては相当な性能だし、初代GTIの110psから比べたら天と地ほどの差がある。

にもかかわらず初代が飛び抜けた高性能車だったと感じさせるのに対し、現行GTIがそれほど性能的な突出感を感じないのは、我々が麻痺してしまっているのか、はたまた世の中の自動車の性能の底上げが激しすぎるのか、一体どちらなのかはわからないが、とにかくある意味では普通に感じてしまう。特に我々のような職業で日々軽自動車から超高性能車まで週ごとにあれこれとっかえひっかえ乗っていると、どのあたりが凄くて、どのあたりが凄くないかという線引きがとても難しくなってしまっている。

ディーゼルの試乗記でも書いたが、VWはゴルフというクルマをもって、ハッチバックモデルのベンチマークを築き上げた。そのハッチバックという形式のボディは今でも確かにファミリー層だけでなく、自動車ユーザーのマジョリティーを引き付ける魅力がある形式かもしれないが、セダンが衰退しているようにハッチバックという形式もSUVの台頭に色褪せているし、実際ハッチバック車の中にも車高を上げてなんちゃってSUV的モデルを作り出すメーカーも出てきている。かく言うVWもクロス〇〇と称したモデルを作り初めて来た。

100年に一度の大変革が起きつつある自動車業界において、70年代に登場しすでに50年近い歳月が流れるハッチバックという形式にもそろそろ賞味期限が来てもおかしくないし、突出した性能を持ったGTIが今は普通と感じてしまう世の中で、どう今回のGTIの価値観を見出したらよいか、正直わからないのである。

時代の移り変わりに適応しているのか
個人的にはどのゴルフに乗っても素晴らしいと感じたが、このGTIがもしかするとゴルフのスタンダードであり、それ以下のガソリンモデルは廉価版という位置づけ。エココンシャスならTDI。高性能を求めるならRというチョイスが今のゴルフに当て嵌まるのではないかと感じてしまうのである。

シートなどは完全に初代GTIのオマージュであるし、約50年変えていないゴルフらしいCピラーを太くしたハッチバックデザインも、時代の移り変わりに適応しているのかといわれると??となってしまう。

そういえばゴルフよりも長く作り続けているシボレー『コルベット』がついにエンジン搭載位置をミッドに持っていき、そのスタイルをガラリと変えた。もしかするとゴルフにも何かガラリと変える必然性がそろそろ必要なのではないか?と感じた新しいGTIの姿だった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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