毎年この季節になると、スタッドレスタイヤの試乗会が行われる。今回は北海道の千歳空港周辺で開催された。
ところがである。12月だというのに、一般公道上には雪のゆの字もない。かろうじて特設コースに降雪機を使用して雪を降らせた。それも折からの気温上昇で、午後になるとどんどん溶け出す状況である。しかし、我々にとってこれは逆の意味で好都合だった。
元来北海道で行うということは、しっかりと圧接された雪上路面での試乗がほとんどだが、東京を含む関東の都市部でそんな状況はまずない。むしろ、今回のような状況こそが都市部に住む一般ユーザーの使用する条件にピッタリだったというわけである。
8年分の進化を遂げたブリヂストン『VRX3』
今回の『VRX3』と呼ばれる新たなスタッドレスタイヤ、2017年に登場した『VRX2』からの進化型なのだが、では一体それと比べてどこがどう進化したかという点である。もちろん従来型よりもアイス性能を引き上げたのは当然として、加えてライフ、それに効き持ち性能を引き上げたという。「効き持ち」という言葉は正直耳慣れない言葉だが、氷上路面における瞬発的な性能ではなく、それが数年にわたって持続して、経年変化による劣化を抑えているということなのだそうである。
ちなみにアイス性能は従来比20%以上。ライフ性能も17%向上しているという。単純にこの進化をどう捉えたら良いかという話になると、ブリヂストン曰く驚くことに2世代分(約8年)の進化を遂げたそうだから、これは相当な進化なのである。VRX2が2017年登場だから、仮に8年分進化を遂げたとなると、次の新しいスタッドレスの登場は2029年なのかと思ってしまうが、たぶんそうはならない気がする。
タイヤの太さで変わる縦溝の本数
さて、実際に氷上性能をどのように引き上げたかである。ブリヂストンは独自の発砲ゴムという技術を持っている。従来はこの発砲部分、すなわち空気に入っているところがタイヤ表面に露出すると、ちょうどお椀を逆さにしたような半球状の形となって表れていたのだが、その形状をVRX3では楕円形の形状とした。これによって氷とタイヤの間に膜として横たわる水分を吸い上げる効果を持ち、素早く水膜を除去することで、氷上性能を向上させている。それだけではなく、除水するためのいわゆる縦溝部分を細いグルーブにして接地面積を引き上げるなど、実に細かい改良を加えていた。
新商品は全111種も存在するのだが、実はパターンは同一ではなく、前述の縦溝が3本のものと4本のもの、それに5本のものと全部で3種の異なるパターンが存在する。これはタイヤの太さによって変えているそうで、軽自動車などのタイヤ幅の細いものの場合が3本溝。中間的で最も広範な車種に使えるものが4本溝。そして幅の広いモデルには5本溝のパターンが使われている。実は幅のみでこのパターンを変えているわけではなく、扁平率にもよるので、一概には言えないが155サイズ程度だと3本溝。それ以上215サイズ程度までが4本溝でそれ以上が5本溝といった具合だった。
では、この溝の本数が少なくなると性能が劣化するかというと全くそんなことはなく、一応すべてのパターンに乗り比べてみたが、性能的には何ら変化することはなかった。ちなみに雪上路面で試したのは155サイズが日産『デイズ』、215以下程度のサイズはホンダ『フィット』、トヨタ『プリウス』など。最大5本溝はメルセデスベンツ『Cクラス』に試乗した。
シャーベット状態でも何ら支障なし、ドライ路面での静粛性も
路面のミューが低いとクルマの特性というか、メーカーの考え方が如実に現れていて、5本溝を履いていたメルセデスの場合はさすがに元がFRである挙動が顕著に表れる。といっても試乗したすべてのモデルは4WDモデルだったことを付け加える必要がある。
コース上のストレートで出せる速度は40km/hに制限されていたが、50km/hまで引き上げても何ら心配なくフルブレーキングできることを確認した。路面状況はまさに東京の降雪後のシャーベット状態が再現されていて、ズバリ言えばもっとも滑りやすい状況だったと思うのだが、適切な運転をしていれば、走る曲がる止まるに何ら支障はなく、安心してドライブできる性能を持っていたことを報告しよう。
一方で一般道での走行は雪がなかったために、完全ドライの状況でスタッドレスを試すという珍しいテストになった。その中で一番驚かされたのは、素晴らしく静粛性が高いことだった。ほとんどドライタイヤと遜色のないレベルといっても過言ではない。過去2年ほど、某メーカーのオールシーズンタイヤを装着して過ごしたことがあるが、そのロードノイズ及びパターンノイズの大きさに辟易したものだが、新しいブリザックVRX3は全くそんなことはなかった。
ちなみに試乗車は唯一のFWD仕様だったVW『ポロ』とこちらは4WDのアウディ『A4アバント』である。前者は4本溝、後者は5本溝だったが、例えば素早い転舵の際の腰砕け感や反応の鈍さなども皆無。これなら通年で使ってしまえると思ったものだが、いくらライフが長くなったといえども、それは勿体ない。ブリヂストンではロバスト性を重視したという話をしていたが、まさに通年使用も念頭に入れた性能を目指しているのかとも思えるもので、トレッドを見てもかつてのような如何にもスタッドレスという印象はなく、詳しくないユーザーなら、普通タイヤと見紛うものであった。
タイヤの進化、恐るべしである。
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
【ブリヂストン ブリザック VRX3 試乗】雪でも氷でもドライでも何でもどうぞ!…中村孝仁
2021年12月29日(水) 14時00分
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