被災地に「駆けつける病院」、メディカル・コネクスが稼働《写真撮影 関口敬文》

2021年11月9日、シーメンスヘルスケア株式会社は、アドバンスト・モビリティ・ソリューション『Medical-ConneX(メディカル・コネクス)』の1号機を、医療法人伯鳳会 東京曳舟病院に納入した。

メディカル・コネクスは、検体検査と画像診断機器を搭載した検査用車両と、電源供給だけでなくITシステムや物品保管庫を配した電源用車両の2台で構成されているため、地震・台風等の自然災害や事故・テロ等の人為的災害現場で、迅速かつ高精度な救命救急医療を行うことが可能になる。

検査用車両には、世界で初めてCT装置、免疫生化学分析装置、超音波装置を同時搭載し、車両拡幅機能によって効果的なワークスペースの確保が可能。電源用車両には、発電機、注射薬・医薬品のための冷蔵庫、試薬保存のための恒温器や管理薬物などの物品保管庫に加え、検査用車両で生成される画像データ、検体検査データなどを一元管理する統合医療情報管理システムや、画像診断の専門医が不在の状況下でも、迅速で正確な画像診断をサポートするAI画像解析ソフトウェアを搭載することで適正な診断が行えるようになっている。

今回の発表にともない、東京都内では伯鳳会グループ、シーメンスヘルスケア株式会社の共同記者発表会、および実車の車両見学会が行われた。共同記者発表会ではまずシーメンスヘルスケア株式会社代表取締役社長 森秀顕氏が登壇し、伯鳳会グループとのパートナーシップについて、そしてメディカル・コネクス開発の想いについて語った。

◆安心して生きられる未来を目指したい

森氏によると、シーメンスヘルスケア株式会社と伯鳳会グループは2017年4月に災害救急・災害医療を中心としたパートナーシップを開始し、それ以来災害医療を中心とした様々な活動や、アイデアの交換を行ってきた。

現在も様々な災害が起こり、世界的にはコロナ禍もまだまだ収束には程遠いような状況の中、数々の障壁を乗り越え、患者と医師が繋がり、そしてどこにいても質の高い医療が受けられる、あるいは世界中の医療従事者の方々の知見をつなぐことで、安心して生きられる未来を目指したいという願いが、メディカル・コネクスには込められていると語った。

◆トレーラートラック型診療所があれば救命率が上がるのではないか?

次に伯鳳会グループ理事長 古城資久氏が登壇。伯鳳会グループの取り組みについて語った。

伯鳳会グループは、10の病院、60の施設の運営をしている医療、介護のグループで、兵庫県赤穂市、姫路市、明石市、神河町、尼崎市、大阪市、埼玉県、東京都と8地区にわたって展開している。災害派遣実績も多く、2006年の新潟中越地震、2008年秋葉原通り魔事件、2011年の東日本大震災など数多くの災害現場に参加。これらの災害活動の経験から、医療機能の損なわれた被災地において、一定の画像診断、生化学検査が行えたら救命率が上がるのではないかと考え、CTや生化学検査機械を備えたトレーラートラック型診療所、およびその電源車の導入を企図し、シーメンスヘルスケア株式会社と検討を開始したとのこと。

続いて、医療法人伯鳳会 東京曳舟病院病院長 山本保博氏が登壇。メディカル・コネクスの将来像について語った。

まずメディカル・コネクスの最大の優位点として、病院船などとは異なり、フェリーがあればどこにでも出動できるといったことが挙げられる。また将来的には、災害が起こった際のメディカルマネジメントを、メディカル・コネクスを用いて対応するのが最善だと考えているとのこと。

さらに『Homespital』といった考え方についても述べた。Homespitalとは、ホームとホスピタルから考え出された造語で、その名の通り、自宅と病院の中間的な施設とのことを指す。たとえばホテルをHomespitalにした場合、新型コロナ感染症の軽症と中等症の中間的な臨床患者を収容し、メディカル・コネクスをホテル前の駐車場に展開すれば、病床と病院の機能をホテルに持たせることができる。そして一定の期間が経ち患者が減少した際には、元のホテルの営業にすぐに戻すこともできる。このようなメディカル・コネクスを利用したソリューションを展開出来れば、医療が逼迫した状況に陥った際にも対応しやすいのではという提案だった。

◆高度診療×モビリティ×ITで世界の課題を解決する

次にシーメンスヘルスケア株式会社アライアンス事業推進本部 山本宣治氏が登壇し、メディカル・コネクスの全容について説明した。

メディカル・コネクスの開発スタートは、発災直後の救急災害医療の外傷初期診療を行える、機動性の高い先進的な移動型車両が必要だという曳舟病院病院長 山本氏の発案から始まっているが、技術的な問題点が3つあった。

ひとつ目は、免疫・生化学分析装置を車載できるのかということ。ふたつ目は、狭い車両にCT装置を設置し、かつ画像診断の専門医がいない状況かをどう解決するのかということ。3つ目が、同一車両内にこれをコンパクトに設置出来るのかということ。

しかしこれらの問題点を解決できる高性能でコンパクトな画像診断機器や検体検査機器のほとんどは、シーメンスヘルスケアがリリースしている機器で対応でき、画像処理用のPCなどIT関連システムの一部や、冷蔵庫などの設備は他社製を利用する。画像診断の専門医の問題については、専用のインターネット回線を使うことで、リモートによる画像診断などが利用できるため、現地に専門医がいなくても対応できるとのこと。

メディカル・コネクスのソリューションは、天変地異などの災害医療、僻地での医療活動、感染症対策などの発熱外来、健康診断などの検診業務にと、さまざまな用途での利用が考えられる。つまり、『高度診療×モビリティ×IT』で、日本だけでなく世界の課題を解決するプロジェクトになっていると語った。

シーメンスヘルスケア株式会社代表取締役社長 森秀顕氏。《写真撮影 関口敬文》 伯鳳会グループ理事長 古城資久氏。《写真撮影 関口敬文》 医療法人伯鳳会 東京曳舟病院病院長 山本保博氏。《写真撮影 関口敬文》 シーメンスヘルスケア株式会社アライアンス事業推進本部 山本宣治氏。《写真撮影 関口敬文》 鍵の贈呈も行われた。《写真撮影 関口敬文》 日野自動車製の検査用車両。日野プロフィアをベースに、ハイキャブ、ショートキャブ、ウインドデフレクター仕様になっている。《写真撮影 関口敬文》 後部から階段を使って乗り込むと超音波検査室になっている。《写真撮影 関口敬文》 車体については、どちらの車両もイズミ車体製作所が手がけている。《写真撮影 関口敬文》 トレーラー部分の左側から乗り込むと、免疫・生化学分析装置が設置された部屋になっている。《写真撮影 関口敬文》 入口右手には血球計数装置を設置。《写真撮影 関口敬文》 ノートPCは、DELL Latitude3400が使用されていた。《写真撮影 関口敬文》 血球計数装置の後ろには、無停電電源装置が置かれていた。《写真撮影 関口敬文》 超音波装置は非常にコンパクトなタイプで、操作部分とモニターが上下に動かせたり、回転も可能になっていた。《写真撮影 関口敬文》 装置を接続するコンセント部分には、LAN用のソケットも用意されている。《写真撮影 関口敬文》 超音波検査室の奥にはCTスキャン用の部屋がある。このCT装置はサイズが非常にコンパクトでありながら、病院に設置されているものと同等の性能を持ち、タブレットによる操作にも対応しているとのこと。《写真撮影 関口敬文》 電源用車両。いすゞ自動車のFORWARDがベースとなっている。《写真撮影 関口敬文》 後方左側には100KVAの発電機が設置されている。《写真撮影 関口敬文》 トレーラー左側の扉を入ると、検体検査機器関連が設置されている。こちらは車載内情報管理サーバー。《写真撮影 関口敬文》 汎用超音波画像診断装置や、血液ガス分析装置が並ぶ。《写真撮影 関口敬文》 デスクトップPCや、湿度管理用の機器なども並ぶ。《写真撮影 関口敬文》 血液ガス分析装置の奥には、卓上遠心機や、PCR検査機、血液凝固分析装置などが置かれている。《写真撮影 関口敬文》 トレーラー右側には、物品保管庫や試薬用冷蔵庫などが設置されている。《写真撮影 関口敬文》 一番下のボックスは検体検査検査用紙薬の温度管理用恒温器。《写真撮影 関口敬文》 管理薬品、毒薬の管理ボックスと、冷蔵用の管理薬品、毒薬を入れる冷蔵庫も設置されている。空いた床スペースは、医療用物資を入れたバッグや段ボールを置くスペースとなる。《写真撮影 関口敬文》