ダイハツ・タント《写真撮影 宮崎壮人》

現在販売されているダイハツ新型『タント』には、助手席側の前後ドアの間に「柱(ピラー)」がない。乗り降りのしやすさにメリットがある反面、本来、ピラーはボディ剛性を高めるのに重要な役割を持っている。果たして、安全性には問題はないのだろうか?

タントに採用されているピラーレスドアをダイハツでは「ミラクルオープンドア」と呼び、2007年に登場した2代目タントより3代にわたって助手席側に備えてきた。今やタントならではのアピールポイントになっていると言えるだろう。実際、現行タントでは前席のスライド量を大幅に拡大し、特に後席への乗降性を飛躍的に向上させている。たとえば大きな荷物や人を抱えた時の扱いやすさはピラーレスならではのメリットとなっているのだ。

一方でこのピラーレスで気になるのは、特に側面衝突を受けた際の車内の安全性が担保されるのかという点。単純に考えればピラーは衝突した際の乗員保護に大きな役割を果たす。それがないとなれば、不安に思われても不思議ではない。そこでダイハツ・タントでは開口部が大きくなった対策として、ここに一般の鋼板よりも軽くて強度を持つハイテン材(高張力鋼板)の最適配置した。この補強により、ダイハツ関係者によれば「ピラーがある運転席側並みの高い衝突安全性と軽量化を両立できた」という。

ピラーレス車で気になるもう一つが直進性の確保だ。タントでは補強材に軽量なハイテン材を助手席側に採用したが、それでも進行方向に対して左右の重量差は生まれてしまう。これが直進性に対して少なからず影響を与えるのではないかとの不安だ。しかし、この心配もほとんどないと言っていい。ダンパーを左右で異なるものを採用するなどの工夫を実施しているからだ。実際、高速道路をタントで走行しても直進性で不安はまったくない。横風が強めだと、横の投影面積が大きい分だけ若干ハンドルはとられるが、これは何もタントだけに限った話ではないからだ。

とはいえ、商用車のホンダ『N-VAN』が採用したものの、軽乗用車系ではタント以外にピラーレス車が増えて来ていないのも事実だ。その理由としてはおそらく、ピラーレスによって生まれる重量増や直進性への対策をすれば設計はイチからやり直しとなり、そこまでしてマーケティング的にもピラーレスに価値が見出せるかは難しいとの判断があるのではないだろうか。ダイハツにとってはタントで培った経験があり、他社の追随を許さない状況を作り出したのは間違いない。その意味でピラーレス車については、経験値が高いダイハツ・タントの独壇場となっていくのではないだろうか。

ダイハツ・タント《写真提供 ダイハツ工業》 ホンダ N-VAN《写真提供 本田技研工業》 ホンダ N-VAN《写真提供 本田技研工業》