不正車検が発覚したレクサス高輪《写真撮影 山田清志》

トヨタモビリティ東京の関島誠一社長は7月20日に行った、「レクサス高輪」での不正車検についての会見で、社内調査の結果を踏まえ、その背景に「要因は2つある」との認識を示した。

「まず1つは増加する仕事の量に対して、エンジニアなどの人員や設備の増強が追いついておらず、慢性的に負荷の高い状況が続いていたこと。2つ目は決められた時間内に車検を終わらせることが目的となってしまったこと。1台1台のクルマには車種や走行距離、日々の使われ方や車両状態などで必要な作業が異なる。にもかかわらず、当初予定された時間で仕上げることを最優先してしまい、今回の不正につながった」と関島社長は話す。

今回の不正車検は6月17日に行われた国土交通省関東運輸局東京運輸支局による監査で発覚。レクサス高輪では過去2年間、対象台数565台について、「ヘッドライトの明るさ」や「パーキングブレーキの効き」「フロントタイヤの角度」「排気ガスの成分」「スピードメーターの精度」の5つの項目で不正が確認され、再検査が必要になるという。

不正車検は同じトヨタ自動車の販売会社、ネッツトヨタ愛知でも発覚している。2020年12月に同社の販売店「プラザ豊橋」で行われた国土交通省中部運輸局の抜き打ち監査で不正車検が明らかになり、その後の調査で5000台以上の不正車検が見つかった。

プラザ豊橋では、45分で車検を終了する「45車検」が展開され、「時間内で作業を終えること」が重視されていたという。レクサス高輪とまったく同じ状況だったわけだ。

しかも、トヨタは1990年代以降、作業のムダを省く「トヨタ生産方式」(TPS)を販売店にも広げる取り組みを進めた。1日以上かかっていた車検を見直し、短時間で行うための作業手順を標準化し、全国の販売店に広めていった。その旗振り役だったのが当時課長だった豊田章男社長だったという。

そのため、質疑応答ではプラザ豊橋との関連やメーカーの責任を問う質問が飛んだ。それに対して、会見に同席したトヨタ自動車国内販売事業本部の佐藤康彦本部長は「時間内で仕事を上げなければいけないと、時間が目的になっていたことが共通点ではないかと思う。時間だけが残ってしまった。メーカーとしても反省する」とメーカーにも責任があることを認め、こう述べた。

「これからの信頼回復に向けて、オールトヨタ販売店を含めて一丸となってお客さま、そして世の中の方に対する信頼回復の取り組みのスタートと位置づけて、今回は本当ににゼロベースで、あらゆるメカニックの苦労も含め、取り組みを一歩一歩着実に続けていきたいと考えている」

また、関島社長は「私が社長として取り組むべきは、織部レーション上での負荷と悩みをしっかりと現地現物で把握し、エンジニアの処遇改善や働く環境の改善など会社として店舗の在り方を抜本的に見直し、社員全員が目指すべきものに一つとなれる環境、お互いが話し合える風土をつくることである。これが再発防止に向けて果たすべき私の責任であると考えている」と強調する。

いずれにしても作業のムダを省いて時間を短くするはずが、時間を守るために作業を省くという本末転倒の結果を招いてしまったわけだ。ここでもう一度、トヨタの基本思想であるTPSをつくり上げた時の思いや狙いをトヨタグループ全体で見つめ直す必要がありそうだ。