メルセデスベンツ Sクラス 新型(S500 4MATIC ロング)《写真撮影 宮崎壮人》

4リットル直列6気筒エンジンに組み合わされた9速AT。あまりの滑らかさと奥深さにひれ伏すばかりだ。電気自動車のモーター加速の滑らかさは認識しているけれど、それとはまた異なる、腹の底からわきたつような力が作り出すスムーズさである。

◆人間研究の本気を垣間見る思い


『Sクラス』の乗り心地のよさ、快適さは言うに及ばずだが、今回、感心したのは、ヘッドアップディスプレイの巧みさである。

運転席側のフロントガラスに投影される、さまざまな指示やマーク。最初にこの機能が登場したときは速度計だけだったけれど、いまや様々な情報が出せるようになってきた。今回のSクラスでは、分岐や交差点でカーナビで設定した目的地へと誘導する矢印マーク、ACC(高速道路で先行車との車間を一定に保ちながら速度を自動でコントロールする)で、先行車をロックオンしたときの表示や、さらに、道が左右にカーブしていると、車線を逸脱しないよう視覚的に伝わるような工夫もされている。

これらすべてが、とてもわかりやすく感覚的にすっとなじむのだ。こうした表現(?)はすべて、人間研究の賜物である。自動運転技術の開発でもそうだが、人間のなにを自動にするか、その切り替えをどのように引き継ぐのかは、人間のことがわからなければ成り立たない。技術開発は人間研究なしでは、もはや前に進めないのだ。Sクラスを見ていると、人間研究の本気を垣間見る思いである。

◆このクルマに乗る全員を守る。


さて、ドライバーズカーだけではなく、ショーファーカーとして使われることも重視しているSクラスは、後席の充実度も高い。その後席、座ると座面の位置が高い!私は身長170cmだが、それでも座ると足の裏がちゃんとつかないのではないかと思うくらいの高さなのだ。日本人の若いモデルさんも、いまや欧米人並みに脚が長いが、欧米人モデルと違うのはヒザから下の長さである。この後席に座ると、その事実を突き付けられる思いだ。

後席に座り、となりの席のヘッドレストの後ろをちらりと見ると、チャイルドシートを装着するためのアンカーがある(チャイルドシートの背もたれが、衝突のときにお辞儀をしないようにつなぎとめておく装置)。覗き込まなくても、すぐに見えるところにあるのだ。Sクラスともなると、この後席に座る人は、ビジネスマンを始めとする大人が多いことだろう。でも、少なからず載せる機会のある子どもにもきっちり対応している。カーナビ画面から読むことができる取扱説明書を見ると、年齢12歳以下、または身長150cm以下の子どもは、チャイルドシートに座らせるよう遵守事項として設けている。このクルマに乗る全員を守る。そんな気概がひしひしと伝わってくる。

誰が乗って、どう使うのか。あらゆる場面を想定し、その人たちの行動や心理を研究して仕上げられたクルマ。やっぱり次元が違うと思わざるを得ないのである。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

メルセデスベンツ Sクラス 新型(S500 4MATIC ロング)《写真撮影 宮崎壮人》 メルセデスベンツ Sクラス 新型(S500 4MATIC ロング)《写真撮影 宮崎壮人》 メルセデスベンツ Sクラス 新型(S500 4MATIC ロング)《写真撮影 宮崎壮人》 メルセデスベンツ Sクラス 新型(S500 4MATIC ロング)《写真撮影 宮崎壮人》 メルセデスベンツ Sクラス 新型(S500 4MATIC ロング)《写真撮影 宮崎壮人》 メルセデスベンツ Sクラス 新型(S500 4MATIC ロング)《写真撮影 宮崎壮人》 メルセデスベンツ Sクラス 新型のヘッドアップディスプレイ(写真は海外仕様)《photo by Mercedes-benz》