キャデラック CT5 スポーツ《写真撮影 中村孝仁》

キャデラック『CT5』に乗ってとあるメーカーの試乗会に赴いた。そこでのやり取り。「これ、なんていうクルマ?」正直言って「!?」であった。前述の言葉を発したのは何と同業者だったからである。

まあ、裏を返せばことほど左様にキャデラックが日本市場に訴求されていないということになるのだが、敢えて「隠れた名車」などという表現はしないが数多あるライバルと比較して俎上に載せた時、「買わんという選択肢は無い!」と断言できるクルマである。

CT5は日本市場において唯一手に入れることの出来るキャデラックのセダンである。かつてはキャデラックといえばセダンが当たり前だったのだが、北米は近年そのセダン市場が凋落の一歩を辿り、フォードなどは公式にもうセダンは作らないと言いきってしまうあたりに、自動車世界の変容を見て取ることが出来る。

しかしそうは言っても例えば日本市場でもメルセデスベンツやBMWなどは今もセダンをちゃんとラインナップしているし、それなりの市場を確保しているのだから、作るのをやめてしまうというのもいかがなものかと思うわけである。

◆この走り、この装備、このクォリティーでこの値段?


同業者が知らないくらいだからユーザーが知らなくて当然と思うので、とりあえずバックグラウンドだけを紹介しよう。CT5は3サイズが全長4925×全幅1895×全高1445mm、ホイールベース2935mmという、いわゆるミッドサイズのセダン。メルセデス『Eクラス』、BMW『5シリーズ』、アウディ『A6』、ボルボ『S60』などが仮想敵となる。勿論レクサスで言えばESがライバルとなる。

エンジンは2リットルの直4ターボユニットを搭載し、240ps、350Nmの出力及びトルクを持つ。日本市場には「プラチナム」及び「スポーツ」の2グレードが展開され、今回試乗したのは後者のスポーツだ。違いは前者のプラチナムがFR駆動であるのに対し、スポーツは4WDとなる点。どちらも組み合わされるトランスミッションは10速ATである。


そして唯一のセダン系とあって装備は俗に言うフル装備。オプションで必要となるものは例えばETCやドライブレコーダーあたりだろうか。そして問題はそのお値段だ。そのフル装備のモデルがFRのプラチナムだと560万円(税込)、4WDのスポーツで620万円(同)と凄まじくプライスコンシャスなのである。もっともベースプライスの安いボルボでも684万円からとなっており、正直言って抜きん出て安い。

勿論このセグメントの購入者たちが「安い」をキーワードにしたクルマに靡くことはないと思うのだが、CT5の場合当たり前だが安かろう悪かろうではない。この走り、この装備、このクォリティーでこの値段?というところが正直驚かされる。だから、ライバルを横並びにして比較検討をするとしたら、ただ左ハンドルしか用意されていないとか、あるいはハイブリッド系が無いといった理由だけで、選択肢から外す手はない。だから「買わんという選択肢は無いやろ」となるわけである。

◆奥ゆかしさを伴うスポーツサウンド


スポーツの室内はセンターコンソールやダッシュボード、それにドアパネルのアクセントにカーボンが多用されてスポーティーさを演出している。勿論ホンモノのカーボンだ。アルミのペダルが装備されるのもスポーツの特徴。

実は走行モードセレクターが装備されて、ツーリング、スポーツ、雪/凍結、それにMyモードという4種からチョイスできる。変更できるのはステアフィール、エンジン/シフト、ブレーキフィール、それにエクゾーストサウンドの4種で、マイモードを選択するとステアフィールとブレーキフィールそれにエクゾーストサウンドを好みに調整できる。その他のモードは変更はできず、あらかじめ設定されたモードとなる。

スポーツではステアフィールは明らかに重くどっしり感のあるもの。そしてエンジン/シフトはより高回転まで引っ張り上げるように設定される。また、エクゾーストサウンドは回転が上がっていくにつれて大き目なサウンドになるが、果たしてバイパスバルブなどが設定されているのかは不明だが、他メーカーのモデルにように大胆かつ野性味のあるサウンドに変わるのではなく、どちらかといえば奥ゆかしさを伴う遠慮がちなものである。

◆アメリカンを残しながらスポーティな乗り味


走りは至ってスポーティーだ。シャープなステアフィールを持ち、足もどちらかというと硬めの設定。といっても突き上げ感が残るという印象はなく、キャデラック独特の少しピッチングが残るタイプの乗り味である。そのあたりはきっちりとアメリカンを残していると感じる。

10速ATはマニュアルセレクトすると実にクロスレシオであることがわかるもので、加速しながらシフトアップして行ってもほとんどエンジン音が変わらずに加速していく。逆にダウンシフトの際は一気に2〜3速落としてやらないと減速感がない。また、ATモードだと10速もあるにもかかわらず1速を引っ張り気味で、その分上のギアがクロスした印象になる。

基本的に視界は良好だが、Aピラーとサイドミラー付近の死角が大きく、角を曲がる時などは要注意だ。いずれにしてもこのクルマ、ミッドサイズのハイエンドセダンをチョイスしたいユーザーには文句なくお薦めの1台である。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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