アウディ RS4アバント 新型《写真撮影 中村孝仁》

使い古された表現に「羊の皮を被った狼」というのがある。それは内に秘めた高性能を柔らかい肌で包み込んだというだけで、実態は狼そのものなわけである。

「能ある鷹は爪を隠す」という表現がその起源だと思うのだが、自動車業界では前者即ち「羊の皮を被った狼」をよく使う。しかし、最近はどうもそうした類のクルマは少なくなったように感じる。それはメーカーがブランドを表現するのに敢えて高性能のブランドを前面に押し出し、派手な外観を纏わせるからだ。言うならばメルセデスのAMGがそうである。

◆決して羊の皮など被っていない


で、アウディの『RS4アバント』である。確かにパッと見は普通のアバントとそう大差ないように思えるが、いやいやとんでもない。フェンダーの腫れ具合はハンパないし、リアから突き出るエクゾーストパイプだってこれでもかというほど太い。しかも2本!そしてボディカラー以外の部分は全てブラックアウトされ、いわゆるクロームの部分が存在しない。流石に4シルバーリングと言われるぐらいだから、エンブレムはシルバー、即ちクロームのままである。

そんな出で立ちだから、カラッとしたスカイブルー(多分ターボブルーと言うカラー)に塗られたボディながら、それ以外の部分を全てブラックアウトしているもんだから、やはりただならぬ雰囲気を醸し出し、言われなくても「こいつただ者じゃないな」という印象が強烈に跳ね返ってくる。だから、決して羊の皮など被っていない。

その中身はというと、2.9リットルV6ツインターボ(カタログにはバイターボチャージャーと書かれている)ユニットで、450ps、600Nmを誇るから狼そのものだ。メーカー測定の最高速は280km/hだというから、ワゴンでそんなに出ちゃっていいの?と突っ込みたくなるレベル。強いて言うとアバント、即ちワゴンであるところが羊の皮なのかもしれない。

◆「ダイナミック」を路上で楽しむのは不可能


さて、そんなじゃじゃ馬というか、オオカミというか単なる高性能という表現では物足りないパフォーマンスモデルを試すには何とも心もとない試乗コースではあったのだが、とりあえず片鱗だけは味わうことが出来た。

実はこの直前に同じアウディの『RS Q3スポーツバック』に試乗して、懐かし高性能5気筒エンジンのサウンドに痺れてしまっていた。「やっぱりアウディはこの音だよなぁ」という余韻を残しつつ、このRS4アバントに乗り換えたのだ。やはり独特の5気筒サウンドと比較すると聞き慣れたといえば聞き慣れたV6サウンドは、他銘柄のV6サウンドと比較してそれほど大きく違っている印象を受けない。

V6特有の低くくぐもったサウンドは如何にも獰猛そうな音色ではあるけれど、これがアウディサウンドだと言われて5気筒ほどもろ手を挙げて「そうだ!」と賛同するものではない。しかもこれ、アウディ独自のドライブセレクトを使ってダイナミックをセレクトすると、さらに凶暴そうな音に音色を変えてくる。

このドライブセレクトはオート、コンフォート、ダイナミック、インディビデュアルの4つから任意でセレクトすることが可能で、ダイナミックだとコンフォートと比較してかなりガシっと足を締めあげ、さらにステアリングの重さがどしっとしたものに変更され、そしてエンジンの特性やトランスミッションのシフトポイントなども変える。

もっとも本気でこのダイナミックモードを楽しめるところなど日本の路上にはなく、クローズドコースに持ち込む必要があるのだが、一般道でもコンフォート、ダイナミックの違いだけは顕著に味わうことが出来る。

◆まさに2面性を持ったクルマ


有り難いことにコンフォートをセレクトしておけば、その乗り心地は至って柔和。とてもじゃないが275/30ZR20などという、まるで太巻きの海苔程度にしか黒い部分(といってもホイールも黒だが)がないタイヤを履いているとは思えないほど乗り心地がイイ。だから、コンフォートをセレクトして静々と走っている限りは能ある鷹は爪を隠している。

ほとんどのアウディはSトロニックと呼ばれるDCTが採用されているが、このRS4アバントは8速のティプトロニック、つまりステップATが採用されている。何で敢えてより素早いシフトが可能なはずのDCTを使わないのか不明である。

走り出しで試しに思いっきりアクセルを踏んでみた。ほんの数秒である。果たしてスピードがどのくらいまで上がったかは確認してない。一瞬タイヤが滑りLSDの効果かすぐにグリップを取り戻す。そしてドライバーすらのけぞるほどの加速感を示してくれた。そしてやはりただ者ではない。

勿論使い勝手は通常のアバントと何ら変わらないから実用的。でも性能は非日常的。ただ日常的に使えるレベルで踏んでいれば、姿の割には大人しいもんだ。という具合でまさに2面性を持ったクルマなのである。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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