テスラ モデル3 ロングレンジAWD。福岡・糸島の海岸にて。《写真撮影 井元康一郎》

アメリカのBEV(バッテリー式電気自動車)メーカー、テスラのプレミアムミッドサイズセダン『モデル3』で2900km弱ツーリングする機会があったので、インプレッションをお届けする。

モデル3は2017年にアメリカでデリバリーが開始された全長4.7m級のBEV(バッテリー式電気自動車)。ノッチバックのトランク部を備えた3ボックスセダンという、SUVが幅を利かせる今の世相の中ではビジネスが難しいとされる車型であるが、アメリカでは大人気を博しており、乗用車、SUVを通じたプレミアムミッドサイズ市場でブッチギリのトップセールスとなっている。

バッテリー容量はグレードにより異なるが、日本で販売されるのは54kWhの「スタンダードプラス」、75kWhの「ロングレンジAWD」および「パフォーマンス」。今回テストドライブしたのは中間グレードのロングレンジAWD。なお、モデル3は今年2月に中国モデルに切り替えのうえ大幅ディスカウントがなされたが、ドライブした個体は変更前のアメリカ(産)モデルである。

ドライブルートは東京〜九州の周遊で、総走行距離は2876km。最遠到達地点は本土最西端地点、長崎県の神崎鼻。本州の経路は往路、復路とも急速充電器「テスラ・スーパーチャージャー」が点在する東海道、山陽道。おおまかな道路比率は市街地2、郊外路5、高速道路3。郊外路には合計100km程度の山岳路を含む。全区間1名乗車、エアコンAUTO。

では、モデル3の長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 電動化、自動運転時代における移動の自由の素晴らしさを予見させてくれたこと。
2. 車体の生産開始から10年も経っていないとは信じ難いほど素晴らしいハンドリング。
3. デジタルネイティブ世代から好感を持たれそうなインターフェースの先進性。
4. ハイパワーBEVでありながら電力消費率に優れ、航続距離も長い。
5. 広く開放的な車内とラゲッジスペース。

■短所
1. 車両を統御するソフトウェアの煮詰めが洒落ですまされないくらい甘い。
2. 日本仕様の運転支援システムは未完成。旅程の大半を完全手動運転で通した。
3. サンシェードなしの濃色グラストップは炎天下では暑い。
4. 左ハンドルモデルとタイヤが違ったためか、乗り心地はややハーシュネスが強め。
5. モデル3の顧客は気にもしないだろうが、インテリアのマテリアルの質感は低い。

◆一言で表現すると「新時代のクルマ」


2900km弱のドライブを終えてのモデル3の印象を一言で表現すると「新時代のクルマ」だった。テスラといえば動力性能の高さ、長大な航続距離と急速充電、コネクティビティや運転支援システムの先進性といったイメージがある。2012年デビューのラージセダン『モデルS』やラージSUV『モデルX』はまさにそういう先鋭性を看板にしてきた。

モデル3も性能、機能面を項目別にみればそれらの延長線上にあり、素晴らしく高性能でハイテクだ。が、乗ってみるとそれら先行モデルとはクルマづくりの風合いが異なる。ドライブフィールも操作性も「どうだ、すごいだろう」「これが未来カーだ」とクルマが過剰にアピールしてこない。むしろ、ドライバーをリラックスさせ、旅を楽しませるという、いかにもアメリカ西海岸的な陽気さに満ちていた。その自然体ぶりがかえってモデル3を未来的なクルマに感じさせた。

テスラは当初、高級車主体のビジネスを行ってきたが、このモデル3はモデルSやモデルXに比べるとかなり安い。今回乗ったアメリカモデルは655万円だったが、新たに売られる中国モデルは500万円アンダーだ。ハッキリ言って、動力性能が同等ならガソリン車の出る幕はないというくらいだ。が、CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏は、さらに安価なモデルを自動運転機能付きで販売するという目標を公言している。

それから見えてくるのは、テスラは既存の自動車メーカーが志向している“保有から使用へ”というビジネスチェンジから距離を置いているということだ。テスラは日本でプレゼンを行うさいにも、決まって移動の自由をサスティナブルにするということを強調する。自動運転だろうが電気自動車だろうが、技術革新によってアフォーダブルな価格を実現すれば、個人所有を諦める必要はない。


「休暇の予約の奪い合いに参戦するなんてまっぴら、オレはいつでも自分の望む時に自由に移動をしたいんだ」というユーザーのニーズに応えることができる。こういう個人主義色の濃さはテスラの特徴だが、モデル3は過去のモデルと比較しても、その風合いを格段に強めているように感じられた。

そんなテスラの大きな弱点は品質。今回のドライブでも“ちょっとこれは”というような現象が複数みられた。

オンラインによるソフトウェアアップデートで制御プログラムが随時改善されるのはテスラ車の特徴だが、クルマにとって安全性は絶対的な命題。そんなものは作り込んでから売るのが当たり前だ。モデル3は素晴らしい性能と魅力的な商品力を持ちながら、品質の一点において、万人におススメできるクルマではない。もしテスラが品質関連の作り込みに手慣れてきたら、その時がテスラが次なるフェーズに進む時となるであろう。

◆1充電で最長469.7km「いや〜〜届くねえ」


では、詳細について述べて行こう。まずはBEVでの長旅を支える航続性能と充電についてだが、この点はユーザー目線では十分以上に満足の行くものだった。今回のドライブにおける1充電最長走行距離は469.7km。旅先ではすべて急速充電ゆえ100%充電は行わなかったが、それでもこれだけ走れるというのは驚きで、「いや〜〜届くねえ」と感心させられることしきりであった。

東京を出発後、最初に充電したのは370.0km先の愛知・名古屋。次に395.5km先の岡山・倉敷と、2回充電。そこで専用充電器テスラ・スーパーチャージャーの低出力機のパフォーマンスを見るため途中で広島に立ち寄ったが、航続チャレンジであれば寄る必要はなかった。前記の航続469.7kmは帰路に福岡から倉敷まで周防灘沿いに回り道しながら無充電で走ったものなので、実際余裕であったろう。

筆者は2019年6月に日産『リーフe+』で4200kmツーリングを試している。従来よりも高出力タイプの充電器を使用可能ということもあって、その時は東京から久留米まで30分充電5回半で到達した。5回半と言うと多いと思われるかもしれないが、充電で足止めを食うストレスはそれ以前のBEVとは比べものにならないほど減り、感銘を覚えた。モデル3の充電ストレスはそのリーフe+と比べてさらに5分の1といったところであった。


今年3月現在、テスラ・スーパーチャージャー拠点の南限は福岡市からちょっと外れた九州自動車道沿いにある。もし充電スポットが筆者の故郷鹿児島にあれば、スーパーチャージャー利用だけで鹿児島周遊までこなすことができたのだが、残念ながら存在しないので、今回は本土最西端の長崎・神崎鼻を目指した。

往路は海産物の宝庫として知られる糸島、陶磁器の町伊万里などを経由。途中、イメージとは裏腹に意外に険しいワインディングロードなども走りながら西海に出ると、濃いブルーが実に美しい海が目に飛び込んできた。東シナ海とも違う色合いである。

神崎鼻で太陽が平戸島に沈むのを見た後、帰りは佐世保から佐賀に向かい、個人的に再訪したかったちゃんぽん明日香で“きくらげちゃんぽん”を食したりしつつ、元の福岡に戻った。305.9kmのマイレージであったが、帰着時のバッテリー残量は30%、航続距離にして150kmぶんくらいであった。このくらいの周遊なら、残電力量にハラハラすることはまったくないだろう。

もともと筆者はテストドライブ当時は511万円、価格改定後は429万円のベースグレード「スタンダードレンジプラス」を試してみようと考えていたのだが、東京〜名古屋を電力消費率に気を配ることなく思うがままに走っても無充電で楽々走破できること、BEVが苦手とする冬の航続距離のマージンなどを考えると、このロングレンジAWDが断然魅力的だ。両者の価格差も改定前は143万円の差があったが、今は70万円となったため、アドバンテージは余計拡大したと言っていい。

◆驚異的な加速と、エコカー並みの電力消費率


ロングレンジAWDは総容量75kWh、推定ステートオブチャージ(バッテリー使用範囲)70kWhのバッテリーを搭載しているが、これだけで長大な航続距離を実現しているわけではない。実走行での電力消費率が仮に5km/kWh程度であれば、100%充電でも350kmでバッテリー切れになる。モデル3の足が長かったのは、ハイパワーであるにもかかわらず電力消費率がエコカーEV並みに低かったことが大きく貢献していた。

2900kmツーリングの充電スポット間の中で最も電力消費率が悪かったのはスタート直後の東京〜愛知間だった。120km/hの新東名を含め、終始最も速い流れに乗って遠慮なく走ったのだが、それでも電力消費率は6.3km/kWh。後編で触れるが、試乗車のロングレンジAWDの加速力は驚異的なレベルで、アンダー1000万円のセダン対決だと同じモデル3のトップグレード「パフォーマンス」以外、ほぼ負けなしで行けそうなほど。1.8トン超のボディに235mm幅タイヤを履くハイパワーサルーンがこれほどの消費電力の少なさというのは正直、脱帽レベルだと思った。

高速での電力消費率がBEVとしては望外に良かった理由として思い当たるのは、空力特性の良さであろう。モデル3のCd値は0.23。この数値自体、大変優れたものだが、風洞実験でのCd値計測はメーカーによってバラつきが大きい。空走時のスピードの落ちが異様に小さいところをみると、モデル3の実効空力特性は速度レンジを問わず、相当に良いのであろう。

一般道や郊外路をのんびり走ったときの電力消費率もなかなか優秀だった。今回は充電スポット間を丸ごとエコロジーで走ることが一度もなかったのでデータはないが、飛ばさなければ電力消費率は8km/kWhをゆうに超える水準で推移した。区間電力消費率が最も良かったのは往路の名古屋〜倉敷間395.5kmの7.6km/kWh。2876kmのオーバーオール電力消費率は6.8kWhであった。

◆テスラ・スーパーチャージャーでの充電は


次に充電。テスラ・スーパーチャージャーには出力250kW、150kW、75kWの3種類がある。ドライブ中に充電を試す機会があったのはこのうち150kWと75kW。ちなみに日本に広く配備されているCHAdeMO(チャデモ)規格準拠の急速充電器は出力20kW〜90kW、最も多いのは日産製の44kWである。

充電のスピードだが、車載ディスプレイ表示によれば、定格150kW機の場合で受電電力のピークは135kW。リーフe+に90kW充電器を使用した時のピーク(68kW)のちょうど2倍。この数字はさすがに感動的なものがあり、そのパワーが維持されている間は文字通りみるみるうちに充電量が回復していくという感じであった。

これで満充電に近いところまで行ければ大したものだが、そううまくはいかない。帰路に倉敷で充電したさいのデータだが、充電率6%でスタート後、135kW(損失を無視すれば1分あたり2.25kWh。電力消費率7km/kWhの場合で16km弱ぶん充電される)のピークが13分続き、そこから急速に出力が落ちて90kW(1分あたり1.5kWh充電)前後で安定した状態が11分間。その後、ふたたび出力が落ち始め、8分後に60kW(1分あたり1kWh充電)を切る…という具合であった。40分間充電した場合、アベレージで充電10分あたりおおむね航続100kmぶんとみてよさそうだった。


広島に設置されていた出力75kW充電器の場合、受電側のピークは67kW。リーフe+に現時点でのCHAdeMO規格充電器の最速モデルを使った場合とほぼ同じ数値であった。これはリーフe+の受電性能が低いのではなく、充電器が最大200アンペアしか出せず、カタログスペックが発揮されるのは充電電圧450Vの時のみだからだ。

ただし、時間の経過にともなう受電電力の低落ペースはモデル3のほうが格段に遅く、リーフe+が30分充電終了直前には39kWまで低下したのに対し、57kWが維持された。充電量は気候やバッテリー残量によっても違いが出てくるので一概には言えないが、今回のドライブの実績値としては、30分充電の場合で150kWの約3分の2といったところだった。

◆「5分で400km分の充電」がこれからのボーダーになる?

課題はこのテスラ・スーパーチャージャーの充電スポットの少なさ。今回のように東海道〜山陽〜九州西海岸をのんびりと漫遊するという旅であれば十分に行けるが、テスラ・スーパーチャージャーは高速道路内には設置されていないため、高速道路で一気通貫の長距離移動はできない。

配備場所も関東〜関西間が過半を占めており、たとえば山陰、東北地方の太平洋側、日本海側の沿岸を高速充電の恩恵を受けながら長駆することはできない。日本で販売台数がなかなか伸びないことから思い切った投資に踏み切れないものと推測されるが、保有台数が増えてくると近いうちに既存のスポットが混雑することも予想されるので、ここは何とかしたいところだ。

もちろん非設置エリアでもドライブをすることは可能。モデル3にはCHAdeMO急速充電器に接続するためのアダプタが備えられており、日本の充電器を使えばいいのだ。ドライブ中にそれも試してみた。日産が製造している定格44kWであったが、最大電流107アンペアが30分間持続した。充電時の平均電圧は370ボルト程度、充電器側に表示された30分での充電量は19.7kWh。1時間に換算すると39.4kWhで、定格44kW出力から1割程度のエネルギーロスという推定値とほぼ一致するリザルトだった。


テスラ・スーパーチャージャーに比べればいささか心もとない充電速度に感じられるかもしれないが、電力消費率の実績値で計算すると、30分で郊外路であればおおむね130〜140kmのレンジを稼げたようなもので、イメージよりは使えるという印象だった。なお、今回は試す機会がなかったが、モデル3は90kW充電器を使ってもフルスピード受電できないらしい。これが使えればスーパーチャージャーのないエリアのドライブが断然快適になるのだが…。

実感としては、ユーザー目線ではテスラ・スーパーチャージャーでスムーズに充電できる限り、現状の充電性能でも長旅はほとんどストレスフリー。400kmごとに小一時間のストップなど、取るに足らないというのが率直な感想である。

が、需要が高まってきたときの混雑回避や、前述充電サービスを行う側である事業者の収益性という目線では、この素晴らしいスピードでもとても足りない。充電器に1回30分、40分も居座られてしまうというのでは、どんなに運営を工夫してもサービスは赤字。かと言って、今の性能で1回あたりの料金を大幅に上げると顧客がつかなくなってしまう。この点は最速の250kW機でも大して変わらないだろう。

充電スポット増設の投資を抑えるという意味も含め、将来的には車格を勘案しても5分で400km分の充電あたりがひとつのボーダーになるのではないか。さらなる技術革新に挑んでいただきたいところである。

テスラ モデル3 ロングレンジAWD。滋賀・竜王付近にて。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。長崎・神崎鼻付近にて。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。山口・光付近にて。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。長崎のワインディングロードにて。《写真撮影 井元康一郎》 スタイリングは写真で見るよりずっとダイナミズムがあった。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。フロントエンドはきわめて空力的に成形されていた。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。京都・宇治の山中にて。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。山口・光にて日没を拝す。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。最遠到達地、神崎鼻にて。航続距離の不安はまったくなかった。《写真撮影 井元康一郎》 日本最西端の地、神崎鼻にて。《写真撮影 井元康一郎》 日本最西端の地、神崎鼻にて。対岸に平戸島があるため、遮るもののない大海原が広がるという感じではない。《写真撮影 井元康一郎》 神崎鼻で日の入りを見た後、佐賀のちゃんぽん明日香へ。《写真撮影 井元康一郎》 ちゃんぽん明日香のきくらげちゃんぽん。信じ難いほどのきくらげの盛りである。《写真撮影 井元康一郎》 ちゃんぽん明日香の汁は具を強火で炒めることで出たエキス分が煮詰まった感じのもので、非常に美味。2年ぶりであった。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ モデル3 ロングレンジAWD。滋賀県の平原にて。《写真撮影 井元康一郎》 モデル3の前席。シートは簡素な仕立てだが、長旅での疲れの少なさはいっぱしのプレミアムセグメントという感じだった。《写真撮影 井元康一郎》 モデル3名物、超シンプルなインパネ。ドライブ前は混乱するのではないかと思ったが、実際に触ってみるとソフトウェアの階層設計が実によく練られていた。《写真撮影 井元康一郎》 ルーフはグラストップが標準。《写真撮影 井元康一郎》 後席は全長4.7m級のセダンとしては最大級の広さだった。《写真撮影 井元康一郎》 後方視界は独特だが悪くなかった。《写真撮影 井元康一郎》 タイヤの銘柄はハンコック「VENTUS S1 evo3」。個人的にはもう少しサイドウォールのしなやかなタイヤのほうが足の性格に合っている気がした。《写真撮影 井元康一郎》 東京を出発後、名古屋で初充電の図。《写真撮影 井元康一郎》 テスラ・スーパーチャージャーはプラグをクルマに差し込むだけで認証、充電制御から支払いまで全部が自動的に行われる。《写真撮影 井元康一郎》 広島で低出力型のスーパーチャージャーを試しているの図。《写真撮影 井元康一郎》 充電器出力150kW、受電136kW。従来型のBEVの充電の数値と比べると感動を覚える速さ。《写真撮影 井元康一郎》 充電後10分経過時。137kmぶん充電されているという表示。《写真撮影 井元康一郎》 充実したネットワークオーディオはドライブをより楽しいものにした。《写真撮影 井元康一郎》 日本規格のCHAdeMO充電器も試した。日産製の出力44kW機。《写真撮影 井元康一郎》 CHAdeMO充電器で30分充電したときの推定充電電力量は19.7kW。距離にして140〜150kmぶんといったところか。結構使えるという感じであった。《写真撮影 井元康一郎》