メルセデスベンツの「MBUXハイパースクリーン」《photo by Mercedes-Benz》

セレンスは設立2年ほどの新しい会社だが、その前身は音声合成・音声認識で20年以上の歴史をもつテクノロジー企業だ。「ReVisionモビリティサミット」では、同社の村上久幸氏が、メルセデスのMBUXにも採用された音声認識エンジンと高度なアシスタント機能を紹介した。

セレンスは1996年に設立されたニュアンスという会社が前身である。ニュアンスは、当時ドイツで普及が始まったセルラー通信、いわゆる携帯電話のための車載システムを開発した。クライアントは当時のダイムラーであり、携帯電話の発信を電話番号の発話で行う「ハンズフリーコマンドキット」というものだ。

その後、アドレス帳からの発信、カーナビの目的地音声設定などソリューションを広げていき、2007年にはフォードのSyncにおいて楽曲の音声認識機能の実装も行っている。メルセデスには、MBUXリリース時の2018年から音声認識エンジンを提供している。

現在セレンスが取り組んでいるアプリケーションは、スマートフォンとの連携、IoT家電との連携、そしてスマートナレッジと呼ぶ高度なAI周辺認識だ。

スマートフォンにはSiriやGoogle Assistantなど音声認識エージェントが搭載されている。Car PlayやAndroid Autoを経由してそれらを車から制御することは可能だ。ただ、これらは他のスマホアプリと連携できるかというとかならずしもそうではない。「Cerence Extend」は、車載インフォテインメント端末のヘッドユニットとして、各種音声操作アプリ・サービスのフロントエンド処理を行う。

つまり、メールの読み上げ、メッセージアプリの操作、Zoomなどのミーティングの設定、ショッピング、Apple Musicの操作など、カーナビ(Cerence Exetendを搭載した車載端末)に向かってしゃべれば、必要なアプリやサービスへの接続、操作を行ってくれる。

Cerence Connectは、これをAmazon AlexaやGoogle Home、Apple HomeKit、IFTTT、Chanberlain(北米でメジャーな自動開閉ゲート・ガレージシャッター)など、IoT家電、サービスに接続できるようにしたものと思えばよい。車の中から、家のIoT家電や音声アシスタントを操作できる。位置情報などを利用すれば、自宅周辺に来たらエアコンを自動的に付けるといったことも可能だ。

AlexaとGoogle Homeをリビングや寝室で使い分けていたとしても、アシスタントを区別することなく音声操作ができる(デバイス名を同一にしなければ)。

もっともAIっぽいのは「Cerence Look」だ。カーナビ等の位置情報を利用して、周辺の店舗、建物などマップのPOI情報と照合するシステムだ。たとえば、運転中に「正面に見える建物はなに?」と問いかければ、Cerence Lookは「あれは〇〇です」と答えてくれる。POIから施設名称を答えるだけでなく、必要ならWikipediaなどを検索し、その建物の情報を調べることができる。

レストランなどはYelpなどと連携させて音声で予約を入れることもできる。将来的にはカメラ画像と組み合わせて、周辺の認識精度を上げることができる。ドライバーの視線をトラッキングすれば、なにを見て質問しているかを類推できる。これによって、メーターのインジケーターや表示の意味を答えるといった応用も可能とする。

残念ながら、これらの機能はすべてが商品化されているわけではない。また、日本語に対応している機能もまだ多くない。だが、コネクテッドカーの機能、車室内のUIは音声認識によって大きく変わるものと思われる。現在、コックピットの操作系はスイッチを減らしタッチスクリーンに移行しているが、タッチ操作は運転中のUIとしては危険でさえある。シェアリングや無人カーになると音声認識、音声コマンドが主流になるだろう。

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