スバル レヴォーグ GT-H EX 新型《写真撮影 小林岳夫》

◆こいつはやっぱり硬派な大人のスポーツワゴン


上野発の夜行列車降りたときから、青森駅は雪の中…。と歌ったのは石川さゆりだが、2月のとある日、東京発の新幹線「はやぶさ」から新青森駅に降り立った僕を待っていたのは、やはり一面の雪景色だった。

僕がこれから乗るのは連絡船、ではなくスバル『レヴォーグ』である。言うまでもなく「日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021」を受賞した人気モデルだが、実はこれまで試乗する機会がなかった。今回「スバルの最新モデルで雪道ドライブをしてください」という仕事が舞い込み、初めて実車と対面することができたのだ。

濃いブルーメタリックのレヴォーグは、新青森駅の立体駐車場に止まっていた。「GT-H EX」というスポーティなグレードだ。写真で見た印象通りのアグレッシブなデザイン。先代もかなりウェッジなフォルムだったが、新型はライザップしてさらにバキバキに仕上げました! という感じだ。変わらないのはボンネットにポカっと開いた“穴”で、今どきこんなに大きなエアスクープを持つクルマ、そうはない。だがクルマ好きの琴線に触れる無骨さこそスバル車がファンに支持される理由であり、だからこの“穴”は絶対なくてはいけないのだ。

ドアを開けて室内に乗り込むと、外観のバキバキに比べてインテリアは落ち着いた大人な雰囲気。インパネ中央に位置する大きな縦型ディスプレイが印象的だ。とはいえボルボ的オサレ感とは違って、黒で統一された“仕事場”を感じさせるデザインだ。そこはやはり硬派なスバルなのだ。

◆目指すは本州“北のはずれ”極寒の地


ハンドル右脇のプッシュボタンを押してエンジンを始動させると、ディスプレイには外気温が「−3度」と表示された。すかさずシートヒーターをONにするが、この気温だとハンドルヒーターもほしくなる。雪道ドライブの目的地はレスポンス編集担当のYさんに任せていたのだが、スタート前にYさんがナビに入れた目的地によれば、新青森駅から北へ約77km先にある「竜飛崎」とのことだった。

石川さゆりが唄う「津軽海峡・冬景色」では(作詞は阿久悠)、青森駅で降りた女性が青函連絡船に乗り換え“北へ帰る”(北海道のことだ)のだが、青森駅は港に隣接していて、列車から降りた乗客がすぐに船に乗り換えることができたのだという。かつて青森駅は東北本線の終着駅であり、津軽海峡を隔てた北海道、函館本線の起点である函館駅を結ぶ連絡船は国鉄が管轄していた。つまり“海の鉄道”という扱いだったのである(すべて鉄道マニアのKカメラマンの受け売り)。
竜飛崎はその歌の中にも登場する「北のはずれ」だ。歌謡曲マニア(僕)としてはぜひ訪れてみたい所だった。青森から竜飛崎へは国道280号線で海沿いを北へ向かう。この時期の青森は雪が深く降り積もり、さらにこの日はときおり目の前が真っ白にホワイトアウトするほどの風と雪だった。考えようによっては、スノードライブにはこれ以上ない!というコンディションだ。

◆気象条件が厳しいほど増す頼もしさ


レヴォーグは、北米市場のニーズに合わせてモデルチェンジ毎に大型化した『レガシィ ツーリングワゴン』の後を継ぐモデルとして、日本向けに登場したスポーツワゴンである。そのためサイズは全幅1800mm以下(1795mm)、全高1500mmに抑えられている。雪道を走り始めて感じたのは、この大きさによる安心感だった。背の高いSUVはアイポイントの高さによる見晴らしの良さというメリットがあるが、こと雪道ではワゴンの目線の低さ、そして物理的な重心の低さが安心につながる。加えてスバルの専売特許といえるボクサーエンジン+シンメトリカルAWDという低重心かつ安定志向の構造がもたらす“しっかり地に足が着いた感じ”は、気象条件が厳しいほど頼もしく感じられる。

試乗したクルマはヨコハマタイヤのスタッドレス「アイスガード6」を履いていた。このタイヤのスノーグリップ性能もかなり優れていて、レヴォーグとの組み合わせだと不安がなく、次第に雪道ドライブの緊張感が解けていく。すると身体もリラックスし、結果としてより安全に走れるようになり、そして運転が楽しい。むしろ気をつけなくてはいけないのは、調子に乗ってオーバーペースになることだ…。そう自分に言い聞かせながら、真っ白い路面を見据え、ドドーンと押し寄せる東映映画のオープニングのような荒波を横目に、気持ちいいペースでレヴォーグを走らせた。

◆日本唯一の「階段国道」


竜飛崎へと向かう国道280号線は東津軽郡外ヶ浜町で一旦途絶え、津軽海峡の海上区間によって北海道に至り、函館市に通じるというユニークな道路だ。280号線が途絶えたあとは国道339号線につながるのだが、こちらも竜飛崎付近で階段と歩道だけになる区間が現れる、日本唯一の「階段国道」として知られる道である。

夏場は津軽海峡から北海道を望む絶景ルートであろう399号線だが、冬はひたすら狭く曲がりくねった雪道である。だがレヴォーグのスポーティではあるが神経質すぎないハンドリング、低回転から厚いトルクのある1.8リットルターボ・エンジンに助けられ、さらに最新の運転支援システム「アイサイトX」に見守られている安心感も手伝ってか、思ったより早く竜飛崎に着くことができた。

◆石川さゆりのあの名曲を聴きながら


岬の突端でクルマを降りると、ゴーゴーと立っていられないほどの激しい突風が吹きつけ呼吸もままならないほど。常に海からの強い風が吹く竜飛崎は、風で雪が吹き飛ばされるため深く積雪することがないのだという。360度パノラマに広がる海峡を見渡しながら、ここをわたる連絡船から見る風景はどんなふうだったのか、と想像する。1988年の青函トンネル開通により連絡船は廃止され、今は北海道新幹線が人々を運んでいる。

海峡を望む高台には「津軽海峡・冬景色」の歌碑が建っていた。大きな碑の前にある赤いボタンを押すと、「ごらんあれが竜飛岬 北のはずれと〜♪」と歌声が(石川さゆりさんの声で!)大きく響き渡る。歌謡曲好きにとってはとてもありがたいモニュメントである。来た甲斐があったというものだ。

とはいえ往年のスバル・レオーネならいざしらず、このバッキバキな最新レヴォーグに似合うのは演歌よりJポップだろう(レヴォーグのCMソングはMISIAの「アイノカタチ」)。機会があれば、こんどは青い空と海を望みつつ、レヴォーグで津軽海峡・夏景色をドライブしてみたい、と思うのだった。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

河西啓介|編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターなどとしても活動する。

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