ルノー ルーテシア 新型《写真撮影 小林岳夫》

インポートカーの世界では相も変わらずドイツ勢が幅を利かせているけど、その一方で嬉しくなるくらいにフランス車が元気だ。プジョー『208』とEV版の『e208』は、昨年の日本カー・オブ・ザ・イヤーのインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したほど評価が高いし、e208と同じEVコンポーネントを使った『DS3クロスバック E-テンス』の出来映えも素晴らしい。MPVのシトロエン『ベルランゴ』もプジョー『リフター』も、本格導入がはじまって以来、高い人気を保ってる。プジョーのSUV『2008』も、なかなかいい味を出していて見過ごせない。

◆先代との共通備品がほとんどない完全な新設計

では競合のルノーはどうかといえば、昨年秋に上陸した『ルーテシア』が、実はまたニンマリしちゃうようなクルマに仕上がっていた。208のライバルと目されることの多いモデルだが、そもそも欧州、とりわけフランスではコンパクトなハッチバックが乗用車の圧倒的なメインストリーム。当然このクラスのクルマ作りには少しも手が抜けないわけで、ルーテシアも代々、彼の地の人達を納得させてきた。先代である4代目ルーテシアは、6年続けて欧州Bセグメントのベストセラーの座をキープし続けてきた実績がある。

4代目の成功は、スタイリングが魅力的だったことが大きいという。そのため後継となった新型の姿カタチは、共通備品がほとんどない完全な新設計なのに、先代のイメージをそのまま上手に受け継いだものとされている。一方でインテリアはガラッと変わり、デザイン性、質感、装備などが大幅に向上しているように感じられた。


◆スペック値よりも明らかに速い感覚

けれど、もっとも「おっ?」と思わされたのは、その走り。グッと…いや、ググッとスポーティさを増した印象なのだ。ホットハッチに近づいてるような気すらしたくらい。

新型ルーテシアは見た目から想像するのと違って、中身は全面的に新しい。プラットフォームはいずれ日産や三菱のクルマにも使われることになる、軽量・高剛性の"CMF-B"という新設計のもの。サスペンションは形式こそ踏襲するものの、ジオメトリーなどは当然変わってる。ステアリングギア比も先代のRSモデル並みの14.4対1へと早められている。エンジンも先代の1.2リッターをベースに1.3リッターへと排気量を拡大した直4ターボ。本国には3気筒ユニットもあるが、日本仕様は現時点では従来型より+13psと+35Nmのパワーとトルクを得た131ps/5000rpmと240Nm/1600rpmのこのエンジンと、ギアを1段増やした7速デュアルクラッチ式の組み合わせのみ、となる。

それらの相乗効果は、先代を走らせたことがある人にはちょっとした驚きとともに、走らせたことのない人には素直に楽しさとして、伝わってくる。新しいエンジンはほとんど発進直後の段階から豊かなトルクを発生させ、そこからのトルクバンドも広いから、力強さを感じながらゆっくり穏やかに走るのも得意技だ。が、扱いやすいだけの実用エンジンかといえば、そういうわけでもない。レスポンスは全域に渡って思いのほかシャープだし、アクセルペダルをグッと踏み込んで回転計の針が2500rpmを越えた辺りからパワーを膨らませて1.2トンの車体を爽快に加速させる様は、はっきりスポーティといえる部類。先代はもとより、スペックの数値よりも感覚的には明らかに速い。

◆ルーテシアのパフォーマンスはもはや"RS"

ステアリング操作に対するクルマの動きはどうかといえば、過ぎない程度にクイックで、何より正確。適度なロールを許しながらタイヤをしっかり路面に押し付けてコーナーをトレースし、不安感などナシに気持ちよく曲がっていく。曲がることそのものが、なかなか楽しい。フットワークのよさは結構なレベルで、ちょっとしたスポーツカーを走らせてるような気分にさせられる。

これまでのルーテシアには、モータースポーツ部門といえる『ルノースポール』がエンジンやシャシーなどほぼ全面的に手を入れた『ルーテシアRS』がラインナップされていた。が、新型ではルーテシアRSの開発予定がないことが明らかにされている。だからルーテシアそのものをそちらの方向に少し振ったんじゃないか?とすら思えてくる。そんな感覚なのだ。

反面、乗り心地は硬めだ。低速域ではコツコツとしたモノが伝わってきて、ちょっと気になる人もいるかも知れない。けれど脚そのものは素早く滑らかに動いていて、不快を感じさせたりはしない。中速域、さらに高速域と速度域が上がるにつれて、快適といって良いフラットなフィールへと移行していく。ギュッと引き締まった中にしなやかさがある。そんな感じ。ルノースポール系によく似た味つけ、といっていいだろう。

◆クルマの反応をよりダイレクトに味わいたいなら、まずはルーテシア

おもしろいなと感じたのは、プジョー208と対照的に思えるところ。208は低速域からしなやかにして穏やかな、優しい乗り心地を味わわせてくれる。峠道などでは、もちろんそれなりのロールを感じさせる。が、曲がるにつれて次第に芯の存在のようなものも感じられるようになっていくのだ。そして危なげなしにスイッと気持ちよく曲がってくれる。そう、柔らかさの中に芯が隠されてるような感じなのだ。

おそらくどちらも目指したところはスポーティさと快適さの両立。どちらもしっかり両立できてるといえる範疇にあるが、そこに至るまでの考え方とアプローチが異なるのだ。スポーティさから入っていくルノーか、快適さから入っていくプジョーか。どちらが良いとか悪いとかそういうことじゃなく、そこはもう好みの世界。

あえて強調しておくけれど、クルマを操縦する楽しさやクルマが伝えてくる反応をよりダイレクトに、よりストレートに味わいたいなら、まずはルーテシアを試乗してみるべきだ。208だけじゃなく、このクラスの他のライバル達を並べても、その辺りはピカイチだと思うから。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

嶋田智之|モータージャーナリスト
幼い頃からのクルマ好きが高じ、まずは自動車雑誌の編集者としてメディアの世界に。「CAR MAGAZINE」「Tipo」「ROSSO」の編集者として活動をし、Tipoでは約10年編集長を、ROSSO時代は姉妹誌も含めた総編集長を務める。2011年からフリーランスの自動車ライターとしての活動を開始し、様々な専門誌誌や一般誌、WEBメディアなどに寄稿。また自動車イベントでのトークショーのゲストとして声がかかることも多く、コロナ禍以前には年間20〜30本ほど出演していた。編集者時代から一貫して「クルマの楽しさ」を伝え「クルマとともに過ごす人生」を提案することをポリシーとし、誌面やモニター、ステージの上からだけでなく、SNSやイベントの現場でも活発にユーザーと交流を図っている。

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