新型ロンドンタクシーTX《写真提供 LEVCジャパン》

「ロンドンタクシー」と聞いて思い浮かべるのは、背が高くて丸く、黒いボディの“あのクルマ”だろう。では今、その最新のロンドンタクシーを日本でも正規に購入できることをご存知だろうか。

LEVCジャパンが今年2月より新型ロンドンタクシー『TX』の日本での販売を開始した。その実車に日本で試乗することができたのでレポートをお届けしたい。電気自動車として生まれた最新のロンドンタクシーの実力とは。

◆中国ジーリー傘下のLEVC


ロンドンタクシーを生産するLEVC(London Electric Vehicle Company)は2013年より中国のジーリー・ホールディンググループ傘下となっており、2018年に欧州でレンジエクステンダーEVタクシー「TX」を発売。以来、ロンドンをはじめ13か国に4500台以上を販売している。2022年までには、英国コベントリーの工場で、TXタクシーやTXシャトルなど年間2万台の生産を予定しているという。

ロンドンでは約2万台のロンドンタクシーが走っているというが、そのパワートレインは環境負荷の高いディーゼルエンジン。英国では2035年までにエンジン車の販売を禁止するなど、環境対策を強めているが、ロンドンタクシーの電動化も急務というわけだ。

LEVCの新型ロンドンタクシーは、発電用のエンジンを搭載するEV(電気自動車)で、電気のみで130km(カタログ値)を走行することができる。さらにエンジンを使うことで航続距離は500kmまで伸びる。もちろん外部からの充電も可能なので、環境への負荷を抑えつつ日々の運行をおこなうことができる。ロンドンのタクシーが変わりつつあるのだ。

◆驚きのサイズ感と広い室内


新型ロンドンタクシーTXの実車を前にしてまず驚くのはそのサイズだ。3サイズは全長4855mm、全幅2036mm、全高1880mmと、トヨタ『アルファード』に近く、全幅では20cm近くも広い。親しみやすいデザインからは想像できないサイズ感だ。ただこのたっぷりとしたサイズが広い室内空間と使い勝手に直結している。

観音開きのドアを開ければ広がる客室空間には、前後対面式のシートが6席設けられている。2列目シートは跳ね上げ式で、畳まれている状態ならば3列目シートのレッグルームは最大70cm以上。176cmの筆者がめいっぱい足を伸ばしても2列目に足がぶつかることはないほど広い。タクシーというよりもリムジンのイメージだ。

走り出せば、モーターで走行するEVだけあって静粛性は高い。ほのかなモーター音を聴きながら広い車窓を流れる風景を眺めていると、まるで新幹線のグリーン車でくつろいでいるよう。また大きく開口したガラスルーフのおかげで開放感は抜群。東京タワーの真下を通ってみると、車内に居ながら東京タワーのてっぺんまでも見上げることができた。プライベートな東京観光にはもってこいだ。



◆ウィズ・コロナ時代の快適な移動手段

運転席と客室は標準装備のプロテクションスクリーンで完全に仕切られている。運転手との会話は、手元にあるインターフォンでおこなうことができるため聞き取りやすく、また対面するリスクもない。非接触決済が可能なので、ソーシャルディスタンスを保ったまま利用できるのもウィズ・コロナ時代において嬉しいポイントだ。


また、アクセシビリティの高さも注目。観音開きドアの下部には、車椅子用の引き出し式スロープが収められている。スロープを引き出して、固定するまでにかかる時間はわずか10秒程度。90度開く観音開きドアのおかげで開口幅は857mmあるので、車椅子を押してそのまま乗車することが可能だ。広い室内空間のおかげで、乗り込んでから方向転換をすることも容易い。あとは車内の固定具に車椅子をセットするだけだ。

ミニバンを改造した介護タクシーやジャパンタクシーなど、車椅子に対応したタクシーはある。ただそれらの多くは、スロープの設置や車椅子の固定に時間を要したり、荷室部分に乗車するため「特別感」を感じさせてしまったりと、車椅子利用者にとってストレスになる部分も少なくない。TXでは乗車までの時間が短く、また車内でも他の乗客と同じ空間を共有できるのがメリットだ。全ての乗員が等しく、TXでの快適な移動を楽しむことができる。

◆軽自動車以上に小回りが利く


LEVCジャパンの担当者とドライバー交代をして、実際にステアリングを握ってみた。プロテクションスクリーンで仕切られた個室のような運転席に座ると、まず目に入るのは見覚えのあるコックピットだ。ステアリング、タブレットPCのような縦型ディスプレイ、操作ボタン、始動スイッチ…などなど、見たまんま最新の「ボルボ車」だ。

ジーリーと聞いてピンと来た人も居ると思うが、LEVCの親会社であるジーリーはボルボもその傘下に収めている。目に見える部分から内部にいたるまで、様々な部分をボルボ車と共用して作られているのだという。そのお陰もあってか操作系は非常にわかりやすく使いやすい。シートもボルボ車並み、とまではいかないがたっぷりとして長時間の運行でも疲れにくそうだという印象。背後にスクリーンがあるが特別窮屈には感じなかった。

走り出す前に担当者が「ここでUターンしてみてください」という。車2台がすれ違うことができる程度の駐車スペースだ。4.8mを超えるボディで何度切り返せば良いのか…と不安になりながらステアリングを切ると、なんと一度も切り返すことなくUターンできてしまった。Uターン時の感覚はキャブオーバーのトラックを運転しているようで、気持ち悪いくらい曲がる。


それもそのはず、TXの最小回転半径は約4m(4012mm)。アルファードハイブリッドで5.6m、日本で一番売れている軽自動車『N-BOX』でも4.5mだ。つまり軽自動車以上に小回りが利くということ。第一印象で「日本には大きすぎる」と感じたが、これなら都心でも難なく活躍できそうだ。

走り出せばEVそのもの。2.3トンもの車重もモーターの力で静かにぐいぐいと走ってくれる。最高出力110kW、最大トルク255Nm(定格トルク150Nm)だからお世辞にも軽快とはいえないが、ラグジュアリーな空間を運んでいると思えば必要十分以上だと感じた。ハンドリングも素直で、欧州車であることを感じさせるもの。

ただタイヤは要改善かもしれない。試乗車はアジアンタイヤのMAXXISを履いていた(取材時点)が、ロードノイズや路面のザラザラ感が伝わりやすいと感じた。ブレーキ性能や右左折時の滑らかさも、用途を考えればもう1〜2クラス上のコンフォートまたはラグジュアリータイヤを履くのが良さそうだ。

◆ホテル送迎や都心遊覧などに活路


環境性能はもちろん、コロナ禍で注目されているプライベートな移動も快適にこなすロンドンタクシーTX。価格は税込で1120万円と高額だが、各種補助金などの適用により700万円台で購入できる(取材時点)という。ジャパンタクシーのようにすべてのタクシー車両が置き換わる、というものではなく、ホテルの送迎やハイヤーでの都心遊覧など、限定的かつラグジュアリーな用途での活用が最適だろう。

LEVCジャパンは「世界一優れたタクシー」と胸を張る。東京の街を、クリーンなロンドンタクシーが行き来する未来はもうすぐそこまで来ている。

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