埼玉工業大学 自動運転AIバスによる「塩尻型次世代モビリティサービス実証プロジェクト」(2020年11月24〜27日)《写真撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》

自動運転むけマッピングを、ママたちがシフト制アルバイト感覚で、テレワーク感覚で更新していく時代がやってきた。長野県塩尻市で11月24日から始まった、自動運転AIバス(埼玉工業大学所有)の実証実験で、その現場を目の当たりにした。

実験名「塩尻型次世代モビリティサービス実証プロジェクト」(11月24〜27日開催)。塩尻市振興公社、長野県塩尻市、アルピコホールディングス、アイサンテクノロジー、ティアフォー、損害保険ジャパン、KDDI の7者が、埼玉工業大学所有の自動運転AIバスを塩尻市街で走らせ、走行データを集めていく。

この“塩尻型実証実験”は、自動運転バスの走行データ収集のほかに、“国内初”“国内唯一”の試みがある。それが、自動運転に必要な高精度3Dマッピングの“地産地消化”。実はこの自動運転バスの実証実験にあたり、塩尻市振興公社が設置したテレワークセンターのなかで、「地元のママさんやパソコン初心者の女性たちが、時短労働者として自動運転用マッピングデータを作成している」(塩尻市振興公社)と。

◆アイサンテクノロジー「データの地産地消、コスト削減と確実性・展開性の追求」

長野県塩尻市は、労働力人口確保が地域経済維持に不可欠と考え、時短就労者の自営型テレワークをいちはやく採用。テレワークに着目し、好きな時間に好きなだけ働く環境を、積極的に整備してきた。

その象徴的な例が、この「塩尻型次世代モビリティサービス実証プロジェクト」の自動運転マッピング現場。塩尻駅前にあるもとイトーヨーカドーを塩尻市が取得し、同市振興公社が複合ビルとして運営。ビル内に塩尻テレワークセンターを設置し、パソコン150セットを配置。高速ネットワークと大容量サーバで、自動運転マッピング現場をつくりあげた。

驚くのは、自動運転マッピング作成スタッフの横顔。「パソコンに触ったことがない」という人から、「地図が大好き」という人まで、エントリー動機は多種多様。しかもパートタイマーということで20〜40代の女性がほとんど。埼玉工業大学の自動運転AIバスを走らせるマッピングデータは、パソコン初心者ママや地図好き女性たちがつくっていたのだ。

ここにアイサンテクノロジーの狙いがある。アイサンテクノロジーは、「自前で自動運転マッピングデータをつくるとコストがかさむ。そこを自治体と協業し、データを地産地消することで、コストを削減できる。行政と民間が手をつないで、クラウドソーシングで自動運転マッピングするのは国内唯一」という。

「塩尻市の主要道路をほとんどマッピングしている。塩尻市内の横断歩道や信号についても情報を集めてデータ化している。自動運転車両が信号の色をとらえるときに重要な情報もある。今後はここ塩尻だけでなく全国エリアで、クルマから常時アップロードされる情報を含め、自動運転マッピンデータを“地産地消”で高度化していきたい」(アイサンテクノロジー佐藤直人取締役)

◆塩尻実験コースでみつかった課題、下り坂と路面環境

いっぽう、今回の実証実験に駆り出された自動運転AIバスを開発する埼玉工業大学も、新たな課題に直面している。それは、急坂と路面環境。

日野『リエッセII』に後付け自動運転システムを搭載する埼玉工業大学自動運転AIバスは、これまで埼玉県加須市、兵庫県 播磨科学公園都市、愛知県日間賀島、神奈川県 横須賀リサーチパーク(YRP)などで走行実験を重ねてきたなか、「この塩尻でも初めての課題が出てきた」と埼玉工業大学工学部情報システム学科 渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)はいう。

まず試乗した人たちが気になったのが、下り坂。今回の実証実験コースのなかには、JR中央線を上から越える跨線橋がある。線路を上から越えるとあって、上る・下るの傾斜が意外にも急で、「この急坂を埼玉工業大学自動運転AIバスはどう上り下りするか」に注目が集まった。

上りは自動運転AIがアクセルを絶妙にコントロールし、人間が運転しているかのようにスムーズに登っていく。問題は下りだった。「下り坂は、安全を優先し、自動運転AIで積極的にブレーキを入れている」とアイサンテクノロジー。そのとおりに、ややぎこちない感じのブレーキが、ずん、ずん、と下り坂で入る。

「現状の埼玉工業大学自動運転AIバスであれば、排気ブレーキだけで下り坂を行けた。本番前のテスト走行時は、排気ブレーキで行けることを確認していた。でも、3日間のコース取り(マッピング)ではステアリングのブレと排気ブレーキのマッチングがうまくあわないことがわかった」と埼工大 渡部教授はいう。

◆埼玉工業大学「路面環境にあわせて安定走行するパラメータも探れた」

そしてもうひとつみえてきた課題が、路面環境に応じた自動運転。「今回の実験コースで、大型車がつくったアスファルトの輪だちに、斜めに入っていくポイントがある。この輪だちに斜めに入ると、舵角が左右に小刻みに振れる。この振れを自動運転AIがもとに戻そうと働く」と埼工大 渡部教授。

「輪だちのような段差を斜めに入ると、バスが左右にバンプしちゃう。ということはハンドルも左右に振れる。そこへ自動運転AIシステムが揺れをもとへ戻そうとすると、モデル予想制御とリアル路面のギャップが生じてうまく直進してくれない」

「埼工大の自動運転バスはいま、ハンドル舵角と速度から7秒後までを計算して、70のモードから最適なステップを選択して自動制御する。いずれにしても、ハンドル舵角が振れだすと、自動運転AIはそれを抑える方向に動き出す。そこにまだチューニングの余地がある。今回は、そうしたシーンにあわせて安定走行させるパラメータも探れた」(埼工大 渡部教授)

リアル学習教材としての面もある埼玉工業大学の自動運転AIバス。埼玉工業大学工学 渡部大志教授は、「こうした実証実験の場で、『あっ、ここでもできそうだな』と思ったら、すぐに学生にオンラインで声をかけて、オンラインゼミをやってみる」とも話していた。

塩尻市の自動運転バス走行実証実験は、11月27日まで実施。走行距離4.9km、所要時間20分、試乗定員9人。塩尻駅を発着地とし、10・11・13・14・15時ちょうど発で1日5回走る。

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