スバル レヴォーグ GT-H(プロトタイプ)《写真撮影 雪岡直樹》

◆レヴォーグ 新型プロトタイプにサーキット試乗

8月上旬、日本自動車研究所の城里テストコースで、新型スバル『レヴォーグ』のプロトタイプに試乗した。このときは高度運転支援機能のアイサイトXと進化したアイサイトを中心に、法定速度の範囲内で試乗を行っている。

テストコースでは新型レヴォーグの卓越した実力の一端を垣間見ることができた。が、限られた条件下の試乗であったため、レヴォーグの魅力のなかで大きなウエイトを占めている「走りの愉しさ」のチェックは少ししかできていない。


2回目の試乗の舞台として設定されたのは、レヴォーグの実力をフルに引き出せるサーキットだ。千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイで、トップグレードの「STI Sport」と中間グレードの「GT-H」のステアリングを握ることができた。

エクステリアは、誰が見てもレヴォーグと分かるデザインである。が、スポーツワゴン的な味わいを強め、より伸びやかなシルエットに生まれ変わった。全幅は1800mmをわずかに切っている。狭い道でも持て余さないギリギリのサイズだ。

◆絶対的なパンチ力はFA20型直噴ターボに一歩譲るが


まずはもっとも売れるであろうGT-Hのステアリングを握った。心臓は新設計のCB18型水平対向4気筒DOHC直噴ターボを搭載する。ロングストロークタイプで、大量のEGRを使い、希薄燃焼のリーンバーンとした。レギュラーガソリンを指定し、最高出力は130kW(177ps)/5200〜5600rpm、最大トルクは300Nm(30.6kg-m)/1600〜3600rpmだ。トランスミッションは改良型のリニアトロニック(8速マニュアルモード付きCVT)を組み合わせた。チェーン幅を変更し、変速比をワイドレンジにするなど、大幅に手を入れている。

パワースペックは先代の1.6リットルターボより少し高いだけだ。が、比較に持ち込んだ先代の1.6リットルターボ車を大きく引き離す洗練された走りを見せつけた。先代では物足りなく感じた低回転域のパワーとトルクは厚みがあり、ターボの過給も素早い。気持ちよい盛り上がり感を肌で感じ取ることができ、軽やかに加速する。FB16型エンジンとは200ccの排気量差だが、走らせてみると400ccくらい違うように感じられた。ピットレーンからの発進では応答レスポンスの鋭い、伸びのある加速を披露する。

絶対的なパンチ力は従来のFA20型直噴ターボに一歩譲るが、軽やかな加速を見せてくれた。スピードを上げていくときの爽快感は一歩上を行っている。エンジニアが狙ったのは、絶対的な速さではなく、気持ちいいパワーフィール、バランス感覚なのだろう。CVTは制御が巧みになり、パワーとトルクの立ち上がりが早くなったからスピードをコントロールしやすい。Sモードもあるが、公道ならIモードでも動力性能に大きな不満を感じることはないと思う。従来の1.6リットルターボと比べ、これは大きな進化だ。

◆エンジン以上に進化を感じた、ハンドリングと乗り心地


サーキットでは標準装備されているパドルシフトが重宝した。コーナー入り口と出口ではステアリングから手を離すことなく瞬時に変速が可能だ。高回転の伸びもよく、その気になれば5500回転まで加速が続き、俊敏な加速を引き出すことができる。驚かされたのは、クルージング時の静粛性が高かったことだ。遮音が行き届き、ボディの空力性能がよくなったから風切り音やタイヤのパターンノイズも大幅に低く感じる。快適性は大きく向上した。

もうひとつ、サーキットを走ってよくなっていると感じたのが、ホールド性を向上させたフロントシートである。新設計のドライバーズシートは電動で、最適なドライビングポジションを取りやすいし、微調整も簡単に行うことができた。シートサイズはほとんど同じだが、背中と腰まわりの形状と硬度を変えたようで、大きな横Gがかかったときでも身体をしっかりと支えてくれる。先代のレヴォーグでは身体が揺すられたり、ずれてしまうコーナーでも、しっかりとホールドして身体が動かない。当然、視線のブレもなくなった。

メーターも見やすくなっている。アイサイトXを搭載する「EX」グレードは12.3インチのフル液晶タイプで、アナログのスピードメーターとタコメーターを配した表示のほか、地図画面やアイサイト画面にもなる。瞬時の判読性に優れ、情報を見落とすことがなかった。新しいDシェイプステアリングも握りがよくなり、連続するコーナーのステアリング操作もしやすい。ステアリングに組み込まれたスイッチも走行中に操作しやすかった。


エンジン以上に進化が感じ取れたのがハンドリングと乗り心地だ。最新のスバルグローバルプラットフォーム(SGP)を採用し、電動ステアリングはスバルとしては初めて2ピニオン式を採用している。サスペンションは先代と同じストラットとダブルウイッシュボーンの組み合わせだが、ジオメトリーの最適化などの変更を行った。また、STI SportはZF製の電子制御ダンパーを採用する。ステアリング右側にあるドライブモードセレクトスイッチを押すことで、5つのモードを瞬時に変えることが可能だ。

タイヤはGT-H、STI Sportともに18インチのヨコハマ製ブルーアースGT AE51を履いている。サイズも225/45 R18と、先代の1.6 STI Sportと同じだ。



◆「GT-H」はオールマイティで粋な4WDスポーツワゴン


最初にステアリングを握ったGT-Hで感激したのは、強靭なボディによる絶大な安心感とサスペンションのしなやかな動き、そして良好な乗り心地である。電動ステアリングは精緻な操舵フィーリングに加え、路面からの情報のフィードバックも正確だ。先代ではちょっと物足りなく感じた操舵初期の鈍い応答フィールが影を潜め、スッキリとした。操舵するのが楽しい。

ハイスピードコーナーや逆バンクの入力が抜けるコーナーでのしたたかな接地フィールも特筆できるところだ。先代のSTI Sportよりアンダーステアも軽微で、ロールも抑えられている。だから狙ったラインにピタリと寄せることができ、修正舵も少ないから運転がうまくなったように感じられた。意のままにライン取りできる素直なハンドリングで、扱いやすい。しかも剛性は上がっているのに、しなやかさを失っていないのが先代との大きな違いだ。

リニアリティあふれる走りに加え、乗り心地も上質な印象を受けた。凹凸のほとんどない路面のいいサーキットであることを差し引いても、乗り心地はよく、ハードな走りでも頭部や身体の揺れは小さく抑えられていた。継ぎ目などを駆け抜けたときもショックを上手に受け流す。後席に座っても、先代よりはるかに乗り心地がよく感じられるはずである。

GT-Hはファミリーでのドライブから仲間とのサーキット走行まで余裕でこなす、オールマイティで粋な4WDスポーツワゴンだ。

◆先代が可哀想になるくらい、意のままに操れる「STI Sport」


STI Sportの魅力は、スイッチ操作によって走りの性格を大きく変えられる点にある。最新の電子制御ダンパーを搭載し、走るステージに関わらず、最高の走りを1台だけで楽しむことが可能だ。「コンフォート」は快適性を重視したモードで、ステアリングの操舵フィールは軽いがスッキリとしている。サーキットも走ったが、初期ロールはそれなりに大きいもののコントローラブルだった。路面からの突き上げもマイルドだ。

「ノーマル」も似た印象だが、パワーステアリングの操舵フィールとロールの出方が違う。コンフォートより舵を切っていったときの精度が上がり、切り返しのあるコーナーなどのトレース性と追従性も向上している。狙ったラインに乗せやすくなっているが、乗り心地に荒さはない。「スポーツ」モードも快適性が高く、拍子抜けするほど上質な乗り味だ。ノーマルと同様に連続するコーナーでも軽やかな身のこなしを見せるなど、挙動の素直さが光っている。


違いがハッキリしているのはエンジンで、高回転まで積極的に使う味付けになっていた。路面に関わらずリニアリティあふれるオン・ザ・レールの走りを見せ、コントロールできる領域も広いのがスポーツモードの売りである。

もっとも振れ幅が大きいのは「スポーツ+」だ。さらに高回転を好むエンジン制御となり、パワーステアリングは重めに、ダンパーも引き締められている。速いスピードのコーナリングでもロールは抑えられ、狙ったラインに正確に乗せることができた。アクセルを抜いてもリアがしっかりと付いてきて、気持ちよくクルマが向きを変える。操る楽しさは格別で、他のモードとの違いも明快。サーキットでは文句なしにおすすめのモードだ。先代のSTI Sportが可哀想になるくらい、意のままに操れる。

2台目になり、走りのDNAはさらに強化されたが、快適性も大きく向上した。懐が深く、走りの奥行きも増したのが2代目レヴォーグだ。



片岡英明|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

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