インディアン FTR1200ラリー《写真撮影 雪岡直樹》

新生インディアンは決して過去の遺産にしがみつくブランドではない。

もちろん、往年のイメージを大切にしてはいるものの、現在進行形でさまざまなアイデアが盛り込まれ、スポーティさも兼ね備えるマシンをリリースしている。

アメリカで根強い人気を誇るフラットトラックレース…しかも、ハーレーの独壇場でもあったそのフィールドに殴りこみをかけ、あっさりと全米選手権を3連覇してしまったというエピソードも、非常に興味深いものだ。そのレースモデルのレプリカマシンが『FTR1200』である。

◆フラットトラッカーから変貌を遂げた『FTR1200ラリー』


FTRはすでにいくつかのバリエーションがラインナップされているが、今回新たに加わったのが『ラリー』である。FTR1200をベースにホイールをワイヤースポークタイプに換装。タイヤをブロックタイプのものとし、ハンドルをアップライズ。メーターバイザーを装着し、カラーリングもスペシャルなものとするなど、フラットトラックレプリカから、スクランブラー。あるいはアドベンチャーマシンの雰囲気を纏った車両への変貌を遂げている。

実際のフラットトラックマシンは低シート高となるのが普通であるが、これは平坦なオーバルコースをフロントブレーキを装着しないで走るという特殊な環境によるもの。実際のFTRは様々な走行状況を想定することでサスペンションのストローク量を稼ぎ、想像以上にシート高が高めという印象をもったのであるが、これが『ラリー』となると納得のシート高&ライディングポジションになったといえるだろう。

◆アメリカンとイタリアンにジャパニーズを足した贅沢なエンジンフィーリング


このマシン。まず、エンジンが秀逸である。FTRをハーレーのスポーツスターに類似したものと思われる方もいるかもしれないが、そのフィーリング。そしてパワフルさは全く異なる。

低回転域では拍子抜けするほどのスムーズさ。それでいて、しっかり燃焼効率を引き出していると思われる力強さとリニアさ。ドコドコした鼓動感を楽しむというハーレー的なものではないが、あまり回さなくとも楽しいと思えるエンジンキャラクターだ。しかし、そのまま回転を上げていくと、モリモリとトルクが増すと同時に路面を掴むかのような鼓動感が湧き上がってくる。しかも想像以上に吹けあがりが軽く、実際の速度の乗りも速いというスポーティさが痛快だ。

見た目からは想像出来ないほどのパワフルなエンジンは、スポーツバイクに載せても面白いだろうな。と思わせるもので、アメリカンとイタリアン。そしてジャパニーズの融合とも思える贅沢なフィーリングを持っている。

そして『ラリー』は、そのパワフルさを気軽に味わえるのが特徴でもある。クルマの流れをちょっとリードしたい時や追い越し加速等、スマートに速さを取り出すことが可能だ。よりアップライトなポジションで、市街地ではスイスイと軽快な身のこなし。エンジンと車体のバランスも良い感じで、やや長めのホイールベースながら…いや、だからこその安定感で、自信を持ってマシンを操作していくことが出来る。

◆操っている感が非常に高いというキャラクター


『ラリー』の特徴でもあるブロックパターンの前後タイヤであるが、見た目にそぐわず、高いオンロード性能を持っている。スタイリング重視の採用で乗り易さや安全面がスポイルされるというマシンもあるなかで、ハンドリングの違和感やグリップ不足は全く感じられないのが嬉しい。

19インチのフロントホイールはフラットトラックの定番サイズではあるが、他方、アドベンチャーマシンでも主流となるサイズ。ロードモデルの主流となる17インチモデルに対し、旋回性やグリップ性能が劣りがちではあるが、手応えがわかりやすく、穏やかな挙動となるのが特徴でもある。そんな長所が随所に感じられる『ラリー』は、神経質さのないリニアなハンドリングを得ている。アップライトなポジションと相まって、操っている感が非常に高いというキャラクターは非常に魅力的だ。


いっぽう、『ラリー』というネーミングではあるが、いわゆる本格的なアドベンチャーマシンのように、山に分け入っていくような走りはさほど得意ではないように思われる。もちろん、フラットダートを不安なく走れるくらいの汎用性はあるだろう。フラットトラックマシンにならって、ハンドル切れ角がしっかり備わっていることも安心材料といえる。

パワフルなマシンではあるが、開けろ開けろと急かされたりすることもなく、スピード域の低い領域でも満足感高いフィーリング。その気になれば、ビックリするほどパワフルでスポーティ。それも、気構えることなく取り出せるパフォーマンスというのが魅力でもある。

『ラリー』の独自性という意味では、さほど大きなインパクトは感じられなかったが、バリエーションが増えたことによって選択肢が拡がったことは素直に喜ばしいことである。シンプルな上質マシンをシンプルにイメージチェンジ。素材の良さを生かしたマシンに、あらためてFTR1200の素性の良さを感じさせたのだ。


■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★
足着き:★★★
オススメ:★★★★

鈴木大五郎|モーターサイクルジャーナリスト
AMAスーパーバイクや鈴鹿8耐参戦など、レース畑のバックボーンをもつモーターサイクルジャーナリスト。1998年よりテスター業を開始し、これまで数百台に渡るマシンをテスト。現在はBMWモトラッドの公認インストラクターをはじめ、様々なメーカーやイベントでスクールを行なう。スポーツライディングの基礎の習得を目指すBKライディングスクール、ダートトラックの技術をベースにスキルアップを目指すBKスライディングスクールを主宰。

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