ヤマハ XSR900 & カワサキ Z900RS《撮影 中野英幸》

◆ファン唸る普遍的スタイルに最新技術が融合

バイクファンらの間で人気沸騰中の“ネオレトロ”(ネオクラシック)。70〜80年代にあった名車のスタイルを取り入れつつ、シャシーやエンジンは最新技術によるもので、ライディング性能や安全性は一線級と、聞いただけでヒットするのも頷ける。

そもそも昔からバイクファンらの間では、往年のモデルに対する憧憬の念があった。80年代、各メーカーが絶対性能を競い合ったレーサーレプリカブームの最中でも、「あいつとララバイ」(講談社週刊少年マガジン1981年〜)や「バリバリ伝説」(講談社週刊少年マガジン1983年〜)、「湘南爆走族」(少年画報社1982年〜)など大ヒットしたバイク漫画の主人公らが乗るのは時代の先端を行くレーサーレプリカではなく、ZやCB、GSなど、70年代の名車たちであったし、中古車市場でも人気を示しており、こうした機種の価格高騰は抑えが効かなかった。

ひとつ言えることは、バイク乗りの多くは普遍的なスタイルを好む傾向にあるということ。欧州に端を発したこのネオクラ人気も、日本のバイクファンからすれば、いつの時代も根強く支持されているスタイルであり、広く受け入れられて至極当然と言っても過言ではないのかもしれない。

ヤマハ『XSR900』とカワサキ『Z900RS』を並べて見ても、このスタイルは「好きに決まっている」と、文句の付けようがない。パッと見て「ヤマハだ」「カワサキだ」とすぐにわかる、過去から現在へと脈々と続く伝統のデザイン要素が色濃く反映されている。


しかし昔を懐かしむだけではなく、現代風のエッセンスも巧みに採り入れられているのもまたネオクラの大きな魅力だろう。ツインショックをモノサスに進化させ、足まわりも最新の前後17インチに倒立フォーク、ラジアルマウントキャリパーと抜け目ない。ABSはもちろん、トラクションコントロールも搭載し、ライダーサポートも万全を期しているのだ。

◆乗ってすぐわかるそれぞれの“らしさ”


XSR900で走り出すと、900ccもの排気量があるビッグバイクとは思えぬ軽快性を強く感じる。ハンドルはワイド気味だが、車体がなんたってスリム。腰高でシートは少し高めの印象、ハンドリングも軽快で応答性がいい。スレンダーでスタイリッシュな車体、軽い操作感もまたヤマハらしさと言えよう。

足まわりは硬めで、ハードに攻め込むのをバイクが期待しているかのよう。入力していくほどに前後サスは踏ん張りを効かせ、アクセルをさらにもっと開けたくなる。


Z900RSは往年のZたちと比較すれば圧倒的に軽く、身のこなしも俊敏だが、こうしてXSR900と比較試乗するとどっしりと落ち着いた印象。それは堂々と起き上がった上半身や、より幅の広いハンドル、シートの厚みであったり、視線を下げたときに視界を埋め尽くすボリューミーな燃料タンクなどから感じるもので、カワサキらしさ、大型バイクらしさを開発陣が意識していることが伝わってくる。

足着き性はほぼ互角だが、甲乙つけなければならないのならZ900RSに軍配が上がる。ただし車体重量はXSR900が195kgなのに対し、Z900RSは215kgと20kgの差がある。ちなみに燃料タンク容量とシート高はXSR900が14リットル/830mm、Z900RSは17リットル/800mmだ。

◆俊敏な3発か、トルクフルな4発か

XSR900の身のこなしの軽さは、845cc並列3気筒DOHC4バルブの心臓部がもたらすところも大きい。最高出力116ps/10,000rpmとパワフルなうえ、低中速域でのピックアップが鋭くどこからでも自在に操れる。


スロットルレスポンスは、D-MODE(走行モード切替システム)を「Aモード」に設定するとよりシャープでダイレクト。過激すぎるなら「STDモード」、マイルドにしたいなら「Bモード」と好みや状況によって選べるのが嬉しい。

ツインの扱いやすさ、4発の伸び上がり、両方を兼ね備えるトリプルエンジンが、XSR900のオールマイティさ、器用さ、全方位死角なしといったキャラクターを決定づけているが、Z900RSはこれぞ“直4”といったダイナミックさ、ワイルドさを秘めている。

Z900RSのエンジンは低中速重視に味付けされ、気難しさは一切ないものの、パワーの盛り上がりは豪快。948cc並列4気筒DOHC4バルブは111ps/8,500rpmを発揮する。スペック上はXSR900が5ps上だが、最大トルクは98Nm(10.0kg-m)/6,500rpmとXSR900の87Nm(8.9kg-m)/8,500rpmを凌ぐ。


Z900RSには出力特性を切り替えるライダーモードは搭載されておらず、あるのはトラクションコントロールのみ。加速を最優先する「モード1」、滑りやすい路面で介入度を強める「モード2」、そしてシステム解除の「OFF」も選べる。XSR900ではスロットルレスポンスを変更できるD-MODEはありがたいと感じるが、Z900RSにはなくても不満は感じない。扱いやすくもダルくもない万人受けする味付けにされているからだ。

◆どちらに軍配を上げるかはアナタ次第

さぁ、どちらを選ぶかだが、こればかりは好みでしかないだろう。見た目、乗り味にも、ヤマハらしさ、カワサキらしさがあり、それはファンなら乗っていて飽きない。スタイルだけでなく、ライドフィールも個性際立つ両モデル。これが新車で買える2020年、バイク好きは幸せかもしれない。

ヤマハ XSR900 ABS/106万1500円
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★★

カワサキ Z900RS/135万3000円
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★★


青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

ヤマハ XSR900 & カワサキ Z900RS モーターサイクルジャーナリスト青木タカオ《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900(奥) & カワサキ Z900RS(手前)《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900(奥) & カワサキ Z900RS(手前)《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900(手前) & カワサキ Z900RS(奥)《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900(左) & カワサキ Z900RS(右)《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 ヤマハ XSR900《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》 カワサキZ900RS《撮影 中野英幸》