三菱 eKクロス 新型《撮影 中野英幸》

◆「eKカスタム」の後継として登場


三菱『eKワゴン』は、日産の『デイズ』と兄弟関係にある軽ハイトワゴンだ。前作は三菱が開発プロジェクトを主導したが、最新作は日産がリーダーを務め、基本デザインも日産が中心となって進めている。

が、フロントマスクは大きく異なっており、ちょっと見ただけでは兄弟車と分かりにくい。ベースモデルのeKワゴンは先代のイメージを残したすっきりとした顔立ちだ。クセがなく、万人受けするデザインを狙った。

これに対し『eKカスタム』の後継として登場したeKクロスは、超のつく個性的な顔立ちを売りにする。ミニバンの『デリカD:5』を思わせるダイナミックなフロントマスクは、遠くからでも目立つ。とくに2トーンのボディカラーは個性豊かで、強烈な印象を残している。

また、ルーフレールをオプション設定しているのも、三菱らしいところだ。インテリアも上級クラスを凌ぐほど上質感があり、見栄えがいい。前方の視界がいいのも、美点のひとつだ。また、収納スペースが多いのも嬉しい配慮と言える。

◆自然吸気とターボともにスマートハイブリッドを搭載


日産のデイズと同様にプラットフォームを刷新し、パワートレインなども新設計とした。エンジンは659ccのBR06型直列3気筒DOHCだ。自然吸気エンジンとインタークーラー付きターボを設定するが、eKクロスは両方ともモーターとリチウムイオンバッテリーを組み合わせたスマートハイブリッドとした。トランスミッションはステップ変速を追加した無段変速機のCVTだ。

一般的にはマイルドハイブリッドと呼ばれるものだが、ドライバビリティは優秀だった。注目のDOHCターボは47kW(64ps)/ 5600rpm、100Nm(10.2kg-m)/ 2400〜4000rpmを発生する。ターボは2000回転を超えたあたりからパンチを増し、加速すると気持ちよくスピードを上げていく。再加速したときの応答レスポンスも鋭いから追い越しはラクだ。だが、流れに乗って走ると、CVTは回転数の変動を抑えながらトルクの出やすい回転域を選ぶ。後追い感が薄く、意思通りにスピードを乗せていくのがいい。

売りのひとつは、アクセルを強く踏み込むと多段ATのように擬似変速を行うDステップ変速を採用していることである。ダイレクト感のある加速フィールが気持ちいい。停止するときにアイドリングストップの作動も違和感がなかった。10km/hくらいまで減速するとエンジンを停止させるのだが、なかなかいい仕上がりだ。エコモーターの恩恵で、再始動も上手だった。遮音材と吸音材を最適に配置したこともあり、静粛性は上級クラスと互角以上の実力と感じられる。

◆良好なドライバビリティと洗練された追従の「マイパイロット」


自然吸気エンジンは最高出力38kW(52ps)/ 6400rpm、最大トルクは60Nm(6.1kg-m)/ 3600rpmのスペックだ。こちらもモーターアシストが加わるから俊敏な発進加速を見せつけた。先代より実用域のトルクは厚みがあり、CVTの制御が巧みだからドライバビリティは良好だ。モーターアシストの恩恵で、初期の加速は思いのほかパンチがある。そこから先の伸び感はターボにかなわないが、流れをリードすることは難しくない。

快適装備と安全装備も充実している。デイズに設定のSOSコールは装備されないが、デイズにはないデジタルルームミラーを用意した。また、eKクロスとeKワゴンは、先進安全/運転支援システムのマイパイロットを装備している。これも嬉しい。運転支援技術のマイパイロット装備車は、ターボ車と同じように前輪がベンチレーテッドディスクになるから安定した制動能力を披露した。

単眼カメラを採用し、前走車の後ろで追従クルーズを行うマイパイロットは、上級クラス以上に洗練された追従を見せ、安心感も絶大だ。常に車間距離を自動で保つだけでなく、ステアリングの操舵アシストも行ってくれるから疲労は大幅に減った。車線認識は正確だし、修正もうまい。高速道路だけでなく渋滞した道路でも使えるだろう。

◆シティコミューターの域を超えた軽ハイトワゴン


プラットフォームとサスペンションは新設計だからボディ剛性は高く、ハンドリングも正確だった。腰高なハイトワゴンだが、スタビリティ能力は高く、コーナーではリアのサスペンションが踏ん張ってくれる。電動パワーステアリングは低速域で少し頼りなく感じるが、先代よりはるかに扱いやすい。フラットな路面での乗り心地もよくなっていた。リアサスペンションを3リンク式とした4WDモデルのステアリングも握ったが、ハンドリングと乗り心地の妥協点が高く、静粛性でも一歩上をいくのはFF車だ。

eKクロスはホイールベースを先代より65mmも延ばしている。だからキャビンは広く、種姓だけでなく足元も余裕たっぷりの広さだ。快適性も大きく向上した。シートは座り心地がよく、スイッチなどの操作性も優れている。前席は大柄な人でも最適な運転姿勢を取ることができ、後席はスライド機構を後方にセットすれば足元は余裕の空間だ。居心地がいい。

小さいが、シティコミューターの域を超えたトータル性能の高い軽ハイトワゴンが三菱のeKワゴンとeKクロスである。ファーストカーとして通用する高い実力を秘めていた。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア(居住性):★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

片岡英明|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

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