
◆FTR1200はバイクの進化に一石を投じたのか
「バイクは進化の過程において、ある一つの機能性能を高度化させることで、狙った用途しか許さない単能化が進み、それに伴って多様化を見せてきた。だが、将来的にはそれを様々な用途に適応させる万能化の流れが生まれて然りである」。これは、私自身が30余年前に著した「バイク進化論」の下りである。
昨今、アドベンチャーツアラーやストリートスクランブラーが人気を博しているのは、昔の普通のバイクの何にでも使えた万能性が今日的な高次元水準でパッケージングされているからではないか。特にアドベンチャー系は、電子制御によって車輛性格をアレンジすることが可能になり、万能性を高めている。
とは言え、アドベンチャーにピュアスポーツとして魅力や街乗りバイクとしての機敏性を求めるには限界があるし、スクランブラーが快適なクルージングを追求しているわけではない。
そうした視点で、新しくインディアンから登場した『FTR1200』に注目してみると、このFTRは近年のバイクにはない万能性を備え、それぞれの要素が高次元化されていることに気が付く。その意味で、バイクの進化にとってエポックとなる存在だと思えてくるのだ。
◆長脚と大径ホイール、そしてトルク型ビッグVツイン
FTR1200の万能性に大きく貢献している要素に考えられるのは、まず、排気量を1200ccとしながら最高出力を120psに抑えたトルク型特性のエンジンだろう。
極低回転からマイルドで、変なゴツゴツ感がないので、トルクフルさによる高揚感とともに安堵感に包まれる。多くの人を受け入れてくれる特性だ。
3500rpm辺りにトルクの山を感じさせ、エモーショナルにクルージングでき、その領域でスポーティにコーナリングを楽しめる。そして、日常性に富みながら、高回転域にはしっかりパンチがある。それでもレッドゾーンは8000rpmからで、回してパワーを絞り出すのではなく、平穏な気分を保てる。
つまり、このエンジンは、日常域はもちろんクルージングでのストレスのない扱いやすさ、クルーザーのような味わい、スポーティさを併せ持っているわけだ。
そして、ハンドリング面では、150mmという大きめの前後サスストロークと、フロント19インチ、リヤ18インチのホイール径が有機的にマッチング。条件と乗り手を問わない走りを見せてくれる。
サスストローク120mm程度、前後17インチで、ホイールベースもFTRより100mm程度短い純粋なロードスポーツのほうが、コーナリング性能が高いことは言うまでもない。だが、その潜在能力を誰もが場所を問わず発揮させられるわけではない。
ところが、このFTRときたら、マシンに気後れすることなく、あくまでも主役の自分がマシンをリードしていくことができる。試乗したロサンゼルス北部の山間部は路面がひどく荒れているのだが、長脚のサスが路面の不整を吸収してくれ、ホイールが大径なので、とにかく寛容である。コントロールに繊細に応えながらも、いい意味でおおらかなのである。
◆万能であること、それは即ち、使えるということ
サスが長脚でホイールが大径であることが、大きな恩恵をもたらしているのだが、そのネガがないわけではない。必然的に車高が高くなり、実際、足着き性は決して良いとは言えず、アドベンチャー並みと言ったところである。
ところが、たとえそうであっても、足着き時の不安感は極めて少ない。燃料タンクをタンクカバー後部からシート下に配置し、低重心化とマスの集中化が図られたことの効果が大きいようだ。また、車体がスリムで身体のバランス取りの動きを妨げない。それに、身長161cmの私でも、跨ったままサイドスタンドを操作でき、乗り降りの不安もない。
さらに、ハンドル切れ角がネイキッドモデルとして大きめなこともバランス取りを助けてくれる。このことが、足着き性を補ってくれるばかりか、機動性にも大きく貢献しているわけだ。ただ、その分、燃料タンク容量は13リットルとツアラーとしては小さいものの、インディンによると200kmの航続は可能とのことで、深刻な問題にはならない。
この上なくスポーティなだけでなく、万能化を具現化したFTR1200は現実的に使えるバイクでもあったのだ。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
コンフォート:★★★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★★
和歌山利宏|二輪ジャーナリスト
1954年生まれ、1975年にヤマハ発動機に入社し、様々なロードスポーツバイクの開発に携わり、テストライダーも務める。また、自らレース活動も行ない、鈴鹿8耐第5回大会では4位入賞の成績を持つ。現在は二輪ジャーナリストとして執筆活動、ライディングインストラクターなど多方面で活躍中。














