ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》

16歳の誕生日と共に原付免許を取り、でも、20代はクルマに夢中。アラサーでリターンライダーになるも、40代は仕事に忙殺される。そしてアラフィフで2輪に再々入門。そんな浦島ライダーが、最新のバイクをチェックしていきます!

◆「ナナハン」へのノスタルジーもキレイさっぱり

「ナナハン」。一定の年齢以上の人にとって、特別な響きを持つ言葉ではないでしょうか。一般的なライダーは「400ccが実質的な排気量の上限」という時代、長かったですから。

ナナハン。憧れと根性と挫折。青春の輝きとともに、どこか「ワル」な匂いもあって…と、そんな“ちょっと古い”バイク乗りのノスタルジーをキレイさっぱり払拭してくれるモデルが、ホンダ『NC750S』です。

2012年の登場時には700(669cc)だったので、“生粋のナナハン”というわけではないのですが、2年後に晴れてナナハン(745cc)になりました。「いまさら」ではありますが、NC750Sの何に驚くかって、タンクに見える部分が空洞になっていて、荷室として使えること。スクーター並の容量21リッター。こぶりなフルフェイスヘルメットなら入る大きさです。

同様の機構を持ったバイクに、みんな面白がって、感心して、でも買わなかった(泣)スズキ「アクロス」がありましたが、アレ、「スポーツ」の代名詞たるフルカウルなのに「メットインかよ…」という気持ちがどこかにあったと思うんです。

NC750Sも、ボディ左サイドの鍵穴に差し込んだキーを回して、タンク(じゃないけど)上部のフタをパカッと開けるときに、なぜか「ナナハンなのに…」と戸惑ったりします。「これは便利!」と頭では理解しているのですが、どこからか「蛇道だ」という声が聞こえてくるようなこないような…。

◆こりゃあ、教習車として使われるわけだ


NC750Sに接して最初に感じるのが、「取り回しが意外にラク」ということ。車重218kgと特に軽量ではないけれど、車体が安定しているので、押し引きしていて不安がない。バイクを横から見るとよくわかりますが、ラゲッジスペースに押し出されるカタチで燃料タンクはリアシートの下に移動し、エンジンはびっくりするほど前に倒されている。重量物が天地を低くしてパイプフレームの底に置かれているので、なるほど、安定してるはず。おかげでバイクを押しやすいとは、意外なメリットがあるものです。

シート高は790mm。またがって走り始めると、ネイキッドとしてまさに模範的なライディングポジション。足を自然に曲げたところにステップがあり、うっすらと前傾して腕を軽く伸ばすとグリップがある。こりゃあ、教習車として使われるわけだ。

水冷4ストロークの2気筒エンジンは、最高出力54ps、最大トルク68Nm。スペックだけ聞くと、「えっ!? そんなものなの?」と思う人(含む自分)がいるかもしれませんが、実力は十分。低回転域からトルクが厚くて、力強い。ピークパワーの発生回転数は6250rpm、最大トルクにいたっては4750rpmですから、徹底的に常用域に重点が置かれていることがわかります。スロットルを大きく開ければ、ライダーをその場に置き去りにせんばかりの、強烈な加速を見せる。「ドン!」と腹にこたえるダッシュ力は、気筒あたりの排気量が大きい2気筒エンジンならではです。

シリンダーレイアウトは並列(直列)ですが、ちょっとVツインのようなビートを刻んでライダーを運んで行く。エグゾーストノートは、音量控えめだけど、低音がよく響いて、いい感じ。街なか、高速とも、NC750Sのライドフィールは穏やかで、乗り手を急き立てることがない。それでいて動力性能に十分な余裕があるから、淡々と速い。バイクのハミングを聞きながら気分よく走っていると、「アレッ!? もうこんなトコまで来たの!?」と驚くこともしばしばです。

◆邪道だなんて、とんでもない!


現行のNC750Sは、2016年に仕様変更を受けたモデル。ヘッドランプやテールランプがLED化され、足まわりが改良されました(フロントに「デュアルベンディングバルブ」採用。リアにプリロード調整機能追加)。

価格は、今回の試乗車だったグラファイトブラック(ツートーン)の6MTモデルが75万7080円、キャンディークロモスフィアレッドが74万0880円。DCTことデュアルクラッチトランスミッションを搭載したモデルが、同じく82万2960円と80万6760円。ナナハンとして大変リーズナブルなうえ、なんとETCとグリップヒーターが標準で装備されます!

NC750Sの2気筒エンジンは、28.3km/リッター(WMTCモード値)と燃費良好。タイヤは、前:120/70ZR17、後:160/60ZR17と一般的なサイズなので、交換時の費用もある程度予想がつく。乗りやすくて、経済的で、便利。ホント、新世代の万能バイクですね。邪道だなんて、とんでもない!

試乗する前は「趣味性が薄いのでは?」と心配しましたが、杞憂でした。まあ、「バイクに乗る」ということ自体、趣味性の塊ですが。NC750Sは、肩肘張らず、気楽にツーリングを楽しめる。ライディングを、余裕を持って堪能できる。それゆえ、バードウォッチ、鉄道撮影、キャンプ、美味しいモノ探し…、そんなバイクを相棒にした趣味やアクティビティも、きっと捗ることでしょう。

革ジャン、リーゼントで突っ張っていたアイツが、すっかりハナシのわかる大人になっていて、なんなら貫禄まで漂わせている…。21世紀のナナハンに乗って、そんなしょうもない感想を抱きました。昭和は遠く、なりにけり。

ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》 ホンダ NC750S《撮影 ダン・アオキ》