ロールスロイス カリナン

◆最高級のSUV、カリナンに試乗する

キャデラック『エスカレード』のロングボディ(日本未導入)やメルセデスベンツ『Gクラス』の6輪車といった特殊なモデルを除けば、ロールスロイス(RR)のニューモデル『カリナン』は今、世界最大にして最長のSUVであろう。なにせ、レンジローバーのロングボディよりも長いのだから。

もっとも、世界最大のサルーン・RR『ファントム』よりはさすがにひと回り小さい。フラッグシップモデルとしてのファントムの地位に揺るぎはないという意思表示でもある。もっと言うとRR『ゴースト』よりもまだ少しだけ短いのだ。ただし、ホイールベースはゴーストのSWB(ショートホイールベース)とまったく同じ数値。

それだけカリナンの4輪は、SUVらしく悪路でのアプローチ&デパーチャーアングルを考慮して四隅に配置されているということ。オフロードで有効であることはもちろん、オンロードにおける使い勝手の良さにも効いてくるはず。

◆抑えられたパワーの真相に納得


現行のファントムから利用の始まったRRブランド専用のアルミニウム製スペースフレーム骨格“アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリィ”に搭載されているのは6.5リットルV12ツインターボエンジンで、ファントム用と同じ最高出力(571ps/5000rpm)とした一方で、最大トルクは850Nm/1600rpmとファントム用よりも50Nmも抑えられた。カリナンは、ファントムのノーマルボディより100kg、EWB仕様(ロングホイールベース)よりもまだ50kg、それぞれ重いというにも関わらず、だ。

数字だけを見れば実に不可解であったが、居合わせたエンジニアにその真相を聞いて納得する。ロールスロイス初となるSUVに4WDシステムも初めて搭載するにあたり、できるだけ低回転域から大きなトルクをフラットに供給したかったのだという。つまり、より実用的なSUVらしく、人や荷物をめいっぱい積んだ状態においても必要十分なトラクションを得るため、なるたけ長い時間、最大トルクを供給したかったというわけだ。

エクステリアデザインは写真を見ていただければ一目瞭然、モダンRRらしいデザイン&クォリティである。どこからどうみてもロールスロイスに見えるということは、SUVというスタイルもまたRRにはお似合いだったということ。もっとも、ファントムでも既にちょっとしたSUVくらいのハイトはあったわけだけれども。

◆ガラスで3ボックス化された4シーター


贅を尽くしたインテリアも同様で、改めて強調しておくべきポイントはただひとつ。ランボルギーニの新SUV『ウルス』もそうだったが、カリナンも後席セパレート仕様の4シーターもしくは後席ベンチシートの5シーターを選ぶことができる。

王族実用気分のファミリィユースであれば5座のほうを奨めるが、ゴージャスな4座に注目しておきたい。なんと荷室との区切りとしてガラス製パーテーションが備わっており、ラゲッジスペースがキャビン空間から完全にセパレートされている。つまり完全に3ボックス化されているのだ。高級SUVモデルのウィークポイントである静粛性に効く(ガラスがなくても実は静か)こともさることながら、ハッチゲートの頻繁な開閉による室温の変化を抑えるために有効だという。

ドアを開けようとすると、車高が40mm下がった(キーアンロックでも同じ作用が働く)。苦労なくドライバーシートへと乗り込み、レザーダッシュボードのひさしの下にあるボタンを押してドアを閉めた。前後ともに内側からのクローザーボタンのみならず、外側からのクローズ機能(ドアノブのボタンに軽く触れるだけ)も備わる。重いドアが大きく開き、観音開きでもあるからだ。

◆どんなサルーンと比べても圧倒的に静か(ファントムを除く)


赤いエンジンスターターボタンを押すと、12個のピストンを備えた精密機械がしずしずと目を覚ました。同時に、さきほど下がった車高も回復する。

アクセルペダルを軽く踏みつけると、じわりと巨体が動きだし、一瞬だけ重量を感じさせたものの、思いのほか軽やかに走り始めた。フラットな大トルクが四肢へとスムースに伝えってからだろう、これほど大きなSUVであるにも関わらず、ボディとシャシーが一体となって動いている感覚がある。

大人4人乗車のドライブでも、豊かなトルクの波にのって胸の空く加速をみせた。ファントムのときとまったく同様、前方ずっと向こうで12気筒エンジンが心地よくまわる音が聞こえてきた。

最も印象的だったのは、やはり静粛性の高さだ。SUVはもちろんのこと、ファントムを除くどんなサルーンと比べても圧倒的に静かである。エアコンの吹き出し音さえもかなり抑え込まれている。逆に気になったのはパワーウィンドウのモーター音。音消しはもぐらたたきに似ている。

ファントムもそうだったから驚きはしなかったけれども、ワインディングロードでも存分にドライビングを楽しめた。常にフラットなライドフィールをキープし、一体感があって、キャビンやノーズが遅れて動くようなこともない。大きさを感じないライドフィールは見事というほかなかった。

◆2.6トンの塊がロードスターのように駆け抜ける


オフロードも体験した。車内では“どこでもボタン”というニックネームをもつオフロードボタンを押せば準備も万端だ。岩や草に砂利、ぬかるみの混じったスキーリゾートのサービスロードをカリナンは粛々と登っていく。ドライバーのテクニックなどまったく関係なし。ただただクルマを信じてフツウに操ればいいだけ。

ヘアピンのような上りのキツいコーナーにもでくわしたけれど、後輪操舵が装備されているため難なく曲がっていく。あまりに坦々と仕事をこなしてくれるから、できるだけフラットな場所を選んで走ってやろうと思った自分が、途中からばからしくなってきたほどだった。

頂上から再び来た道を戻る。上りも辛いが下りは怖い。オフロードボタンの上にあるヒルディセントコントロールボタンを押し、クルコンを7km/hあたりにセット。ブレーキ制御の無粋な音などまるで聞こえてこない。上りと同様、いとも簡単に下っていく。

グラベル(砂利道)もけっこうな速度で攻めてみたけれど、2.6トンの塊をいとも簡単に制御してくれるため、まるで滑り易いサーキットを背の高いロードスターでも操っている気分で駆けぬけた。

ちなみに、後席の乗り心地、というか座り心地も上等で、ファントムよりも包まれ感があるためかえって寛げたほど。

この値段のSUVを“万能実用車”と呼んでしまうことには抵抗があるけれど、乗用車として最高レベルであることは間違いない。これから少なくとも10年間くらいは、ブランドの主力モデルとして君臨することだろう。


西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。

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