
自動車内外装部品で画期的な新素材が登場した。その名は「改質リグニン」。スギから抽出した成分を使ったもので、自動車部品に利用するのは世界初。これから約1年かけて実車に搭載して試験を行うという。
これは10月23日、産業技術研究所(産総研)と森林研究・整備機構森林総合研究所(森林総研)、宮城化成、光岡自動車が共同会見をして明らかにしたもので、温度変化や降雨、紫外線などの影響を調べて2022年の実用化を目指す。
「改質リグニンは日本固有のスギを原料にして製造できる新しい素材として注目されている。しかも改質リグニンを製造するシステムは環境負荷が少なく、中山間地域でも容易に製造できる。そのため林業の振興や地方創生にも質する」と森林総研の沢田治雄理事長は期待を寄せる。
リグニンは木材成分の3割を占める成分で、植物の細胞壁を固くしっかりとして構造にする性質を持ち、これを元にした素材は強度や耐熱性に優れる。しかし、樹木の種類や生育環境などで性質がバラバラなため、安定品質の求められる工業材料化は困難とされてきた。
「私たちはスギのリグニンの安定性に着目し、ポリエチレングリコール(PEG)の作用を最大限に生かして加工性の高い改質リグニンを安定的に製造プロセスを開発した」と森林総研新素材研究拠点長の山田竜彦氏は話す。今回の自動車部品ではその改質リグニンをガラス繊維強化プラスチック(GFRP)に使用した。
その結果、従来のGRFPに比べて強度性能が向上し、吸水率も低下。そのうえ、加熱硬化後の収縮率がゼロといいことずくめ。「現時点では材料的に問題点は見当たらない。改質リグニンを足すと、FRPの強度が1〜2割強化でき、それによって部品を薄くすることもできる」と産総研主席研究員の蛯名武雄氏は太鼓判を押す。
今回はその新素材を外装部品としてボンネット、内装部品としてドアトリムやアームレスト、スピーカーボックスに試作した。塗装にも問題ないということで、実車に取り付け評価試験をすることになった。そこで、成形などを担当する宮城化成と取引のある光岡自動車に声を掛け、実車搭載試験を開始することになった。
「自動車にも環境性能や人に優しいということが求められる時代になっており、こういった取り組みに参加できることは喜びである」と光岡自動車ミツオカ事業部企画開発課長の青木孝憲氏話し、良い検証結果が得られれば採用しくそうだ。
コストは従来のFRPと同等とのことだが、スギは国内で最も多い樹木で安定供給が可能なので、コストが下がっていく可能性もある。逆にそうならなければ、需要は大きく増えず、沢田理事長が言うような林業の振興や地方創生につなげることは難しいだろう。





