マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》

マクラーレンのスポーツシリーズに、新たに『600LT』が投入された。スポーツシリーズで“LT”の名称を使うのは初めて。そこで、そのほかのシリーズとの関係や、ビジネスプラン、Track25について関係者に話を聞いた。

■今後18モデルを投入

----:7月12日に開催されたグッドウッドフェスティバルオブスピードにおいて、マクラーレンは、会社設立から15周年を迎える2025年までのビジネスプラン「Track25」を発表しました。

これは、2016年のジュネーブモーターショーで発表された「Track22」の発展形であり、重要な数々の新しいマイルストーンを含む最新のビジネスプランだと聞いています。内容は、12億ポンドを投資するプランで、2025年までに18の新モデルを導入することを掲げています。具体的にはどういうモデルが考えられているのでしょうか。

マクラーレン・オートモーティブグローバル・ヘッド・オブ・プロダクトのアレックス・ロング氏(以下敬称略):派生モデルを含めて18モデルを考えています。現在あるスポーツ、スーパー、アルティメットシリーズという性格や価格で分けている戦略そのものは変わりません。

Track25は折り返し地点での戦略です。そう、我々は会社をスタートさせて7年が経過しました。そして、2025年まで再び7年あるのです。

今後7年間の自動車業界においては大きな変化が起きるでしょう。我々も内燃エンジンのみからハイブリッドになるという大きな事象を起こします。我々はそういった中の最先端にいるのです。競争相手に先んじるスーパーカーメーカーという観点からも技術を持ち合わせていますので、ハイブリッドと軽量という強みを活かして先頭に立って進んでいきます。

----:スポーツ、スーパー、アルティメットという3つのラインに変化はないということですが、この18モデルをどのように分けて投入していくのでしょう。

ロング:この3つのどれにもモデルは投入します。まずは『P1』の後継車を考えています。P1というのは技術的にも画期的な優れたクルマでしたので、次世代P1においても、第1世代が出た10年後ぐらいに、また画期的なブレークスルーとなるモデルを出す予定です。

スポーツとスーパーにおいては、ここのラインは安定して確立されたライフサイクルがあります。まずクーペをローンチし、次にスパイダーを出し、そしてLTが出ます。LTはライフサイクルの最後に出すというイメージです。

これはマーケットのお客様に、いつ出るのかというタイミングを明らかに示せるということです。これによって需要も、そして中古車の残存価値もしっかり安定化するということにもつながるのです。


■SUVはない!!

----:現在、スーパーカーや超高価格帯に進出しているメーカーは、こぞってSUVを出してきています。マクラーレンはどのようにお考えですか。

ロング:それはありません!! 我々は設立されてからまだ7年しか経っていません。この短期間に、マクラーレンは何を体現するのかということを、しっかり確立してきました。それは軽量でありハイパフォーマンス、2シーターでミッドエンジンというもので、これらをしっかりと打ち出してきたのです。その結果、我々は、スーパーカーマーケットでの“トゥルードライバーカー”だという評判を確立したのです。そしてこれからもこのことをしっかりと守っていきたいと考えています。

なので、別の要素の入ったクルマを出すことで、これまで確立したものを弱めたくありません。他社がそれをやるのは一向に構いませんが、我々はこの戦略を一貫して進めていきます。

また工場のキャパシティにおいてもSUVが入る余地はないということもあります。

■6000台を上限に

----:そのキャパシティを含めてですが、Track25では2025年頃までに年間6000台ほどへ規模拡大を考えているとのことです。その一方で希少性ということもマクラーレンとしては重要視しています。マクラーレンが考える希少性の台数の上限は何台ぐらいなのでしょうか。

ロング:6000台がそのぐらいだと思っています。この台数は2024年頃に到達できると考えている台数で、Track25の終わり頃を目指しています。この間に我々はレンジを構築して、ブランドのイメージをさらに向上させていきます。

今年の上半期では売上を倍増させましたので、高い成長率を誇っています。これを今後安定化させ、ロイヤルカスタマーのベースとなる層を出来る限り構築し、そうすることで徐々に成長も上乗せしていきたいのです。それらを踏まえても6000台というのが希少性をしっかり保て、高い需要も保てる台数なのです。また、需要より1台少ない水準で希少性を保てる台数でもあるのですね。

一方競合他社は特にSUVが投入されることもありますから、状況が少し異なってくるように思います。そこで我々は世界で一番希少性の高いスーパーカーメーカーになると思っています。これが我々にもお客様にも重要だということで、我々は他社とは違うのです。


■LTという究極のレシピ

----:600LTについてお伺いします。以前、『675LT』がスーパーシリーズで導入されましたが、LTという名称をスポーツシリーズで使うのは初めてです。なぜLTをスポーツシリーズにも導入したのでしょう。

ロング:スーパーシリーズの675LTは大成功でした。2週間で売り切れたということだけではなく、ブランドの観点からも、精緻であるだけではなく、高揚感があり、楽しくワイルドな側面も構築できた。だからこそ成功だと呼べるのです。ドライバーが、ステアリング、シート、そして耳からもクルマと一体感を感じることができるという、スポーツカーのエキサイティングな形を作ることができました。

一方スポーツシリーズの『570S』は一番楽しいクルマということで、ドライビング性能が高く、細かく機微に触れる所までこだわったクルマで、これもスポーツシリーズの中で確立されたクルマといっていいでしょう。

そしてLTです。「LT」と名乗るクルマは、パワーもダウンフォースもあり、そして軽量化という良い“レシピ”で、それとスポーツシリーズとは良いコンビネーションだと思います。マクラーレンで究極の高揚感を生み出す『720S』や『セナ』とは違う特徴を持ったクルマですから、乗ってすぐに100%にっこり笑えるようなそういうクルマに仕上がっていると思います。つまり、スポーツシリーズとLTの融合がエキサイティング、高揚感を生むと判断してのラインナップなのです。

----:LTという名称は、よりハイパフォーマンスなものだけにしか使われないのかと思っていました。

ロング:それぞれのシリーズの役割や特徴を考えると、どのシリーズであっても、LTというレシピを究極の形で組入れることができます。600LTにおいてもエンジニアリングがディープで、本物ということです。

例えば100kgという減量は非常に重要です。これはパワーよりも重要な要素だったかもしれません。それからラップタイムが速いということ。技術がどんどん進化していますので675LTよりも600LTの方がラップタイムは速いのです。これはピレリのタイヤも貢献しています。サスペンションやダウンフォースコントロールもできており、本当にスーパーハイパフォーマンスに仕上がりました。

このようにテクノロジーもどんどん進化しており、LTと名乗るクルマのそれぞれが必ずスペシャルなものに仕上がっているのです。


■シリーズの差はより明確に

----:今の話を伺うと、スーパーシリーズとスポーツシリーズがすごく近くなった印象を受けてしまったのですが。

ロング:スポーツシリーズはこのLTによってステップアップしました。一方720Sでスーパーシリーズは大きく前進しています。

実はこのレンジの定義はこれまでよりもより明確になってきているのです。2年前の570S、『650S』の頃は少しパフォーマンスが近づいていた時期でもありました。しかし720をスーパーシリーズで出した時にはアクティブなエアロダイナミクスやキネティックサスペンションのほか、これまでよりも120psもパワーもアップしました。それによりしっかりと差別化ができるようになったのです。

600LTはよりエキサイティングなクルマになっていますが、スーパーシリーズは必ず技術的にもパフォーマンス的にもこれからも高くあり続けますので、ギャップはさらに広がり続けると思いますよ。求められるものがはっきりと違いますからね。

■600LTにも追加車種

----:675LTにはスパイダーが出ましたが、600LTモデルにも出るのでしょうか。

ロング:はい、出ます。1年より少し先の話になるでしょうが。現在工場では5車種、720S、570S、『570スパイダー』、600LT、セナを作っています。600LTは1年間限定、その後スパイダーを1年間限定で作ります。いずれにせよ来年(2019年)以降の話です。クーペとスパイダーの差は、675LTと同様に、カーボンシャシーは同じで、ルーフだけが違うものになるでしょう。

----:そのスパイダーは18のモデルに入っているのですか。

ロング:その通りです。18のモデルには完全に新しいものと派生モデルの両方が含まれており、この600LTスパイダー(仮称)は派生モデルと位置付けます。

マクラーレン・オートモーティブグローバル・ヘッド・オブ・プロダクトのアレックス・ロング氏《マクラーレンオートモーティブ提供》 マクラーレン・オートモーティブグローバル・ヘッド・オブ・プロダクトのアレックス・ロング氏《マクラーレンオートモーティブ提供》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 マクラーレン600LT《撮影  内田俊一》 600LT(橙)と675LT(黄緑)《撮影  内田俊一》 600LT(橙)と675LT(黄緑)《撮影  内田俊一》