ラリージャパンのウェルカムセレモニーが開催され、ドライバーの勝田貴元らが出席。《写真撮影 遠藤俊幸》

世界ラリー選手権(WRC)今季最終戦ラリージャパンの開催を前にした「ウェルカムセレモニー」が15日、東京の衆議院第一議員会館にて、実施された。母国戦を迎える勝田貴元(トヨタ)らが翌週に迫った戦いに向けて意気込みなどを語っている。

◆愛知・岐阜でのラリージャパン新生復活開催も3年目
かつては北海道を舞台に開催されていたWRCの日本戦。2010年を最後にしばらく開催が途絶えていたが、2022年から愛知・岐阜を舞台に新たな大会としてラリージャパン再開が現実のものとなった。3年目となる今季、「フォーラムエイト・ラリージャパン 2024」は11月21〜24日(競技日程)に開催される。

10月末の段階でエントリー総数44台、うち8台が最高格付けのタイトルを争えるトップカテゴリー(Rally 1 規定)のマシンたちである。トヨタ「GRヤリス Rally1 HYBRID」が3台、ヒョンデ「i20 N Rally 1 HYBRID」も3台、フォード「プーマ Rally 1 HYBRID」が2台だ。

今季WRC全13戦の最終戦という位置付けのラリージャパンを翌週に控えた11月15日、大会開催関係者やトップカテゴリーの選手・チーム代表ら数名、国際大会らしく衆議院議員やベルギー、エストニアの駐日大使らが都内・衆議院第一議員会館での「ウェルカムセレモニー」に参集。ラリージャパンに向けての想いや期待、意気込みなどが語られた。

◆ドライバーズタイトル争いはティエリー・ヌービルがリード
悲願ともいえる自身初のWRC王座(WRCドライバーズタイトル)獲得に目前まで迫っているのが、ヒョンデの#11 ティエリー・ヌービルである(最終戦を前に僚友の#8 オィット・タナックを25点リード。今季のWRCポイントスコア方式は昨季までのものよりも複雑化しているが、1戦あたりの個人最大得点は30のまま)。

2022年の新生ラリージャパン初回大会の優勝者でもあるヌービルは、相棒のコ・ドライバー、マーティン・ヴィーデガ(コ・ドライバー王座最有力)とともにセレモニーに出席。ヌービルは以下のように語っている。

「(今季の)チャンピオンシップに向けての最後の走りだ。やるべきことは明確にわかっている。集中して、いつも通りのことをして、タイトルを獲得したいね」

まともに走り切りさえすれば王座獲得濃厚、というところではあるが、ヌービルは「ラリーというものは最後までどうなるかわからない」とも話しており、WRC初勝利が2014年というベテランは、油断することなく、確実にことを進めて初戴冠を果たす構えだ。リードが大きくても最終戦で初王座がかかる状況はプレッシャーも大きいと思うが、そこを乗り越えて、念願の世界ナンバーワンとなることを目指す(ヌービルは過去にシリーズ2位が5回あり、直近は3年連続で3位)。

◆勝田貴元「プレッシャーは、いいエネルギーにもなっています」
そして現在のWRCトップカテゴリーで唯一の日本人選手、母国戦を迎える#18 勝田貴元にも大きなプレッシャーがかかるだろう。しかし勝田は、世界トップ戦線で戦うアスリートらしい覚悟を語る。

「プレッシャーはもちろんあります。でも、それがモチベーションや、いいエネルギーにもなっています」

重圧を力に変換することができなければ、大舞台で戦い続けることはできない、ということなのだろう。大会開催関係者や関連自治体、協賛社への感謝を最初に語るなど、そうした面でも日本代表としての気構えが整っていることを示した勝田。2022年には3位表彰台にも立っている母国戦で目指すことについては、こう語っている(勝田のWRC最高位は2位)。

「チームにとってタイトルがかかった重要なラリーですし、ベストなパフォーマンスを出し切って戦いたいですね。(個人の)目標としては一昨年の3位以上の結果というところがありますし、ひとりのドライバーとしてチームのタイトル獲得に貢献できるように頑張りたいです」

◆トヨタ、逆転でマニュファクチャラーズタイトルV4なるか?
さて、勝田のコメントにもあるように、トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team=TGR-WRT)はこの最終戦にマニュファクチャラーズタイトル獲得の可能性を残しているのだが、今季ここまでの戦況はトヨタにとって望ましいものではない。

2019年から続いてきたトヨタによるドライバーズチャンピオン輩出に関しては最終戦を前に可能性が消滅(ヒョンデ勢の争いに絞られた)。“団体戦”であるマニュファクチャラーズタイトルに関しては逆転4連覇の可能性が残っているが、点数的な状況は4年ぶりの王座に向かって逃げるヒョンデ(HYUNDAI SHELL MOBIS World Rally Team)が優位だ。

トヨタ(TGR-WRT)は今季、かなり異例といえるラインアップ編成で戦ってきた。2022、2023年とドライバーズタイトル2連覇の若き王カッレ・ロバンペラが、今季は休息および他のモータースポーツ活動への多角的参加を目的にWRCはパートタイム参戦というかたちを採ったのだ。これは自身の3連覇の可能性を実質的にほぼ放棄する決断であった。

トヨタには通算8冠で既にパートタイム参戦に切りかえている#17 セバスチャン・オジエもいる。今季は、ともにパートタイム参戦のロバンペラとオジエが合計10冠の豪華な3台目“原則シェア参戦”という格好になった(今季ここまでロバンペラ4勝、オジエ3勝と、出ればさすがの成績。ジャパンにはオジエが参戦)。レギュラー参戦1、2台目の任は、昨季のジャパン勝者でシリーズランキング2位3回の実績がある#33 エルフィン・エバンスと#18 勝田が原則的に務めてきた。

今季の勝利数的にはトヨタが上(7対5)ながら、ポイント争いではヒョンデの後塵を拝している現在の厳しい戦況。ただ、マニュファクチャラーズタイトル4連覇の可能性は、まだあるのだ。それだけに、今季初めて“2台目”という地位に就いた勝田としては、その重責を果たし切るためにも前記したような目標内容の設定になるのは頷けるところ。

TGR-WRTを率いるチーム代表、ヤリ-マティ・ラトバラも、「とても重要な週末になる。ヒョンデと15点差。もちろん簡単ではないだろう。でも、皆がモチベーション高く準備を進めている。いい週末にしたい」と、最終戦決着を前にした決意を述べている。

ラリーウイークの天候を気にする意も#13 グレゴワール・ミュンスター(M-SPORT FORD World Rally Team)らが語っていたが、雨の味つけが加わったりすると、ラリーの流れが意外な方向へと転がっていく可能性が出てくるかもしれない。とにもかくにも、11月21〜24日の「フォーラムエイト・ラリージャパン 2024」が王座の行方を決める熱戦となることは間違いないだろう。

紹介を受ける勝田貴元。《写真撮影 遠藤俊幸》 勝田貴元は母国戦での“目標内容”を語った。《写真撮影 遠藤俊幸》 トヨタのチーム代表、J-M.ラトバラも展望と決意を語っている。《写真撮影 遠藤俊幸》 今季WRC第12戦セントラル・ヨーロピアンの表彰台。向かって右、3位の段に乗るヌービル&ヴィーデガ(ヒョンデ)は王座獲得最有力。《写真提供 TOYOTA》 #11 ヌービル(ヒョンデ) (c) Red Bull Content Pool《photo by Red Bull》 #18 勝田貴元(トヨタ) (c) Red Bull Content Pool《photo by Red Bull》 #13 ミュンスター(Mスポーツ・フォード) (c) Red Bull Content Pool《photo by Red Bull》 2023年のWRCラリージャパン。 (c) Red Bull Content Pool《photo by Red Bull》 2023年のWRCラリージャパン。 (c) Red Bull Content Pool《photo by Red Bull》 2023年のWRCラリージャパン。 (c) Red Bull Content Pool《photo by Red Bull》 勝田貴元はラリージャパンでは2度目となる表彰台を目指す(写真は今季WRC第12戦セントラル・ヨーロピアン)。《写真提供 TOYOTA》