ホンダNSXをベースとした『LEGAVELO』。《写真撮影 関口敬文》

ARTA MECHANICS初の旗艦店『ARTA MECHANICS&INSPIRATIONS』が5月12日、東京・新木場にオープンした。

ARTAの正式名称は『AUTOBACS RACING TEAM AGURI』。元レーシングドライバーの鈴木亜久里氏とオートバックスが1997年に設立したモータースポーツプロジェクトだが、現在では『レース』と『スポーツ』を軸にしたレーシングスポーツブランドとしても展開している。

そんな中、TOUGH & HIGH RESPONSEをコンセプトに、2022年にカスタマイズブランドとしてデビューしたのが、ARTA MECHANICSだ。モータースポーツの発展に大きく関わってきたARTAだからこそできる、これまでにないカスタムカーが特徴で、とくに車体デザインは、これまでのカスタムカーの概念を覆すような造形となっている。ARTA MECHANICSの第1弾モデルはホンダ『NSX』をベースとした『LEGAVELO』。第2弾はトヨタ『GR86』をベースとした『VIGALE』だ。

カスタマイズモデルとは言え、ARTA MECHANICSの手がけるモデルにはポリシーがある。それが“Tough & High Response“だ。レース用マシンにはカーボンやチタンといった素材が数多く使われているため、カスタムカーにもこれらの素材をふんだんに使えばレース仕様に近づけたモデルは完成する。しかしそれでは日常使いには扱いづらいクルマとなってしまう可能性がある。そこでARTA MECHANICSは、使用部位に合わせ適切な素材を選定し “Tough&High Response”を具現化することで、紳士的で、かつ日常での使用も可能な唯一無二のクルマへと昇華させている。

そんなこだわりの塊でもあるARTA MECHANICSが、旗艦店をオープンするということは、旗艦店にもなにか秘密があるはず。そこで今回は実際に店舗を訪れ、広報の宇留間氏にお話をうかがった。

◆お客様に見てもらって、乗ってもらえる空間を用意したいと考えていた
そもそも5年ほど前に、ARTAはレースブランドからレーシングスポーツブランドにリブランディングを行っている。

ファッション性を持たせて、強く格好いいスポーツブランドを目指すということで、最初にスイスの時計ブランドCVSTOS(クストス)とコラボして、ARTA CVSTOSというブランドを立ち上げている。続けてアパレルも展開をスタートし、エグゼクティブ層に向けた『移動時に着心地がよくディテールもキレイ』といったコンセプトでTシャツ、ブレザー、パンツなどを販売している。そして2022年、カスタムカーブランドとして満を持した形で、ホンダNSXをベースとしたLEGAVELOを、2023年にはトヨタGR86をベースとしたVIGALEをリリースした。

実際に店舗を構えることになったいきさつや、店舗のコンセプトについて宇留間氏は以下のように語った。

「アパレル、カスタマイズカーとリリースしたものの、表現する場所はどうしてもECしかない。ARTA MECHANICSとしては、お客様に実際に手にとって見てもらって乗ってもらえるといった空間を用意したいとつねづね考えていた。長年の構想が本日やっと実を結んだ」

「そして『手に取ってもらう』、『乗ってもらう』といったキーワードからも想像していただけると思うが、コンセプトとして、ただのクルマ販売、アパレル販売で終わりではなく、それらがミックスしたライフスタイルとして、クルマ・スポーツカーをもっとファッションとして捉えていきたいと考えている」

「また店名にもなっている『インスピレーションズ』は、コンセプトとして重要な意味があると考えている。お店に来ていただいた方が買い物だけではなくて、なにかここに来て感じ取れるようなもの、なにか創造力が上がるような、そういうワクワクした空間として、もっと表現していきたい。そのためにイベントなどの開催も考えていて、すでに試乗会は先行して行ったが、元レーシングドライバーの土屋圭市氏がサプライズで試乗会に登場するとか、物を売り買いするだけじゃない空間にしたいというところが、この店の目指すところだ。店内イベントとしてパブリックビューイングの企画を立てていたりとか、夜はパーティの空間にしたりとか、枠にとらわれない展開で、お客様の心を揺さぶっていきたいなという気持ちを持っている」

◆商業地として成熟していない場所を狙っていた
旗艦店として初出店した場所が新木場という場所はなぜなのか? 高級外国車のディーラーなどは、南青山や六本木、芝など都心に近いところのイメージがあるが、あえて新木場を選んだ理由について話を聞いてみた。

「そもそもインダストリアル空間というところで、工業とか工場感みたいなイメージが欲しいということで、倉庫物件をまず探してみた。そしてもうひとつ、商業地として成熟していない土地をあえて狙ったという理由もある。このふたつを考慮すると、地方にはいくらでもあるが、都心でアクセスもよい場所となるとなかなかない。しかし唯一実現できそうなのが、この新木場だった。都心から電車でも短時間でアクセスでき、車でもアクセスがいい。そして店舗にするための広い土地があって、商業地としてはとくに成熟していない。この成熟していないというのは大事なポイントで、ARTAのコンセプトを打ち出して、しっかりとお客様に認知されることによって、『新木場に行った』イコール『ARTA MECHANICS&INSPIRATIONSに行ったな』という認識になることも狙っている」と教えてくれた。

◆2台のカスタマイズカーの反響はすごい
LEGAVELO、VIGALEと2台のカスタマイズカーを発表し、客からの反響は結構感じられているとのこと。VIGALEについてはオートサロンでローンチして今日までで、数千件のカタログ請求があった。また試乗をしたいという要望も多かったので、クローズドではあるが、カタログ請求していただいたお客様向けの試乗会を行ったところ、ほとんどの人が実車はウェブで見るのと迫力が全然違うという意見を持っていた。デザインテーマである「Sharp & Toughness」を表現した「鏡面シルバー」を採用したJAPANESE SWORDカラーについては、塗装のディテール感が非常に特徴的。しかし表面のディテール感は実際の写り込みなどを体験しないとわからない部分でもあり、実車を見ることで興味を引かれる方が多かったようだ。

◆リブランディングを決定した鈴木亜久里氏の言葉
ARTAがリブランディングするきっかけについては鈴木亜久里氏の言葉が大きく影響したとのこと。鈴木氏が「レースは格好よくないと!」と発したことが大きな転機となったようだ。

宇留間氏によると、この「格好よく」というシンプルな言葉には、いろいろな思いが集約されていると言う。言葉通り、レースを格好よく戦うということは大前提だが、その戦う姿や、SUPER GTにエントリーしているクルマのデザイン、さらには突き詰めれば、レースに関わるメカニックのユニフォームなど、すべてを一新することで「格好よく」を具現化したという。

このリブランディングには、クリエイティブディレクターをひとり就任させ、さまざまなジャンルのエキスパートを5〜6人集めてスタートしている。現在は店舗の運営やクルマの開発などのスタッフもいるため増えているとはいえ、約15名ほどの少数先鋭でプロジェクトを動かしている。クルマの開発については現在2台のカスタマイズカーがリリースされているが、今後リリースされる予定のクルマについても、明確なポリシーがあると宇留間氏は語る。

「クルマを選ぶ基準は基本的には国産車に限っている。その理由として、やはりオートバックスという会社は国産車メーカーがクルマを世の中に出し続けてくれたことによって、そのアフターマーケットのビジネスで成り立っている。クルマを買った人がメンテナンスをしたり、車内のインテリアにこだわってみたいといった要望を叶えるときに、オートバックスがお役に立っていると考えている。こういった理由からも、私たちは国産車のメーカーに対して非常に強いリスペクトを持っている」

「スポーツカーというと、国産スポーツカーと輸入車があるが、とくにエグゼクティブ層は輸入車へと興味がいってしまうことが多いように思える。フェラーリやランボルギーニ、ポルシェへと流れてしまうところに、わたしたちの力も使いつつ、国産車も選択肢のひとつとなるように盛り上げられないかと考えている。いずれは国産車、輸入車だけではない、第3極の立ち位置としての認知を狙っていきたい」

◆誰でも気軽に来て楽しんでいただける店舗でありたい
ARTA MECHANICS&INSPIRATIONSは、商品の特性上、エグゼクティブ層のショップのように思われている方も多いかもしれないが、宇留間氏はもっとフランクに利用してもらいたいと話してくれた。

「私たちとしては、本当に商品を購入していただくターゲット層だけでなく、レースが好き、スポーツカーが好きという方、クルマになんとなく興味がある方など、どんな方にも楽しんでいただけるような店舗にしたいと考えている。販売販売と売り上げばかり考えるのではなく、スポーツカーとかレースとか、クルマ全体の社会を盛り上げるひとつの場所になってくれるといいなという思いがある。一般的な外国車などの高級ディーラーに、ふらっと立ち寄ることはできないと思うので、そんな風にはしたくないと思っている」

ARTA MECHANICS&INSPIRATIONS外観。《写真撮影 関口敬文》 倉庫っぽいあえて無骨な作りになっているのも特徴。《写真撮影 関口敬文》 店内は奥行きが広く、天井も高く開放感がある。《写真撮影 関口敬文》 店内入ってすぐの場所にあるLEGAVELO。《写真撮影 関口敬文》 ハーフマットな塗装が独特な高級感を醸し出す。《写真撮影 関口敬文》 テールランプ形状はNSXだとわかる。《写真撮影 関口敬文》 カーボンが多用された運転席周り。《写真撮影 関口敬文》 ドアハンドルもカーボンだ。《写真撮影 関口敬文》 サイドシルには ARTA  MECHANICSのロゴがある。《写真撮影 関口敬文》 こちらはトヨタGR86をベースとしたVIGALE。《写真撮影 関口敬文》 光沢感が抜群によいJAPANESE SWORDカラー。《写真撮影 関口敬文》 リアビューだとGR86の面影はほぼない。《写真撮影 関口敬文》 光沢感が際立っているのがおわかりいただけるだろうか。《写真撮影 関口敬文》 ヘッドライト形状がGR86の面影を残す。《写真撮影 関口敬文》 シートは交換されているが、運転席周りに大きな変更はない。《写真撮影 関口敬文》 シートはブリッドの『STRADIAIII』をベースにデザインや生地をカスタマイズ。オリジナルロゴも入っている。《写真撮影 関口敬文》 フロントタイヤ後ろのフェンダーダクトはダミーではない。《写真撮影 関口敬文》 リアフェンダーダクト。《写真撮影 関口敬文》 セミバケットシート、ホイール、サスペンションなどVIGALEのカスタムパーツを展示。《写真撮影 関口敬文》 セミバケットシートは、シート生地、糸にまでこだわりを持ってカスタムが施されている。《写真撮影 関口敬文》 オリジナルロゴが刻まれている。《写真撮影 関口敬文》 職人が手作りしているこだわりよう。《写真撮影 関口敬文》 展示されていたホイールには、ARTA GALSの沢すみれさんのサインが入っていた。《写真撮影 関口敬文》 ARTA MECHANICSのカタログ。実際に手に取って見られるのは店舗ならでは。《写真撮影 関口敬文》 中面ではLEGAVELO、VIGALEが紹介されている。《写真撮影 関口敬文》 クルマのカタログでありながら、ちょっとした読み物ページもあり、クルマ雑誌のような作りが特徴。《写真撮影 関口敬文》 スーパーアグリSA07。《写真撮影 関口敬文》 スペインGPだけでなく、カナダGPでは6位入賞を果たした。《写真撮影 関口敬文》 スーパーアグリSA07。《写真撮影 関口敬文》 スーパーアグリSA07。《写真撮影 関口敬文》 スーパーアグリSA07。《写真撮影 関口敬文》 こちらはJESUS CANOVAS(ヘススカノヴァス)の靴。スペインのブランドだ。《写真撮影 関口敬文》 本は代官山蔦屋書店のセレクトによる、クルマ関連書籍やインスピレーションを刺激する本が置かれている。こちらは売り物ではなく、自由に読んでよいとのこと。《写真撮影 関口敬文》 キャップや時計、ルームフレグランスなども販売。《写真撮影 関口敬文》 洋書も多いが見ているだけでワクワクするような書籍が多い。《写真撮影 関口敬文》 テーブルとして使っている黒い物体はフォークリフトで使うパレットというのも面白い。《写真撮影 関口敬文》 立てられている『CURVES』は、フランス国内にある道のコーナーばかりを集めた写真本だった。《写真撮影 関口敬文》 和書のクルマ本。旧車好きにはたまらない『日本懐かしのクルマ大全』なんてものも。《写真撮影 関口敬文》 イスとしておかれていたのは、廃材を利用したもの。エコにも配慮された空間に。《写真撮影 関口敬文》 夏のドライビングには欠かせないサングラスなども販売。《写真撮影 関口敬文》 アパレルはズラリと並べられ、自由に見られるのが印象的。ECでは不可能な質感などを確かめてから購入できる。《写真撮影 関口敬文》 Tシャツ1枚とっても、上質な質感を感じられた。《写真撮影 関口敬文》 スイスの時計ブランドCVSTOS(クストス)とコラボした時計。《写真撮影 関口敬文》