MIHの生産拠点《写真撮影 佐藤耕一》

CES 2023では、新興のEVメーカーの出展をいくつか見ることができた。しかもそれは、いわゆる完成車メーカーの形ではなく、分業体制でクルマを開発生産する企業や、商用車EV専門のメーカー、EVのスケートボード(バッテリーと動力が一体化した車台)メーカーなどだ。

これは、エンジン時代には無かったEVならではの産業構造が生まれる兆しであり、ぜひとも注視しておくべき事象だ。本稿では、CESにおけるEVならではの新しい形態の自動車メーカーたちを紹介する。

◆数十年続いた完成車メーカーの概念が変わる兆し
本題の前に、なぜこれが注視すべきことなのかを解説しておきたい。

エンジン時代の自動車産業は、エンジンを作ること(開発、調達、サプライチェーン含め)自体がとても難しいため、参入障壁が非常に高く、事実、世界の完成車メーカーの顔ぶれは数十年もの間変わってこなかった。

しかしこの前提がEVとなると変わってくる。エンジンという独占的な知見が不要となれば、部品メーカーから部品を買ってきて組み立てればEVができる、ということだ。もちろん実際にはそんなに簡単な話ではないが、そうやってEVを企画・開発し販売している企業はすでにいくつかある。

例えば中国のNIOは、企画開発は自分でやるが、部品は世界中から必要なものを買い集め、組み立てはJAC(*1)に依頼してクルマを作った。いわばNIOはファブレス(*2)であり、分業体制でクルマを仕立て上げたということだ。

*1 安徽江淮汽車。安徽省合肥を拠点とする中国の中堅国有自動車メーカー。
*2 現在では自社工場での生産を開始している。そして分業体制になると、それぞれの得意分野で力を持つ企業が出てくる。スマホの性能は、メーカーではなくクアルコムが決めるように、生産量はフォックスコンが決めるように、そしてEVにおいても、CATLが性能や価格、生産量に大きな影響を与えるようになりつつある。つまり、分業体制が成立するということは、完成車メーカーを頂点とするピラミッド型の産業構造が変わるということだ。

ではその分業体制によってどのような自動車メーカーが出てきたのか、具体的な事例を見ていこう。

◆EV製造コンソーシアム「MIH」
EV時代の分業メーカーを象徴するのがMIH(Mobility in Harmony)だ。iPhoneの生産で知られる台湾フォックスコンが仕掛けるEV製造コンソーシアムである。

EVになって分業体制が可能になったと説明したが、このフォックスコンは分業化されたスマートフォン製造において世界一の企業である。そのことを少し考察してみたい。

フォックスコンはiPhoneの約8割を生産している。アップルのそれはそれはキビシイ品質の要求に応えながら、何千万台ものiPhoneを納期に合わせてきっちり作る能力がある企業だ。ということは、サプライチェーンの構築やロジスティクス、生産のノウハウなどなど、膨大な知見を持っているはずだ。そうした知見を、分業化が進むEV製造に応用しようと思うのは、むしろ自然なことだろう。

そのフォックスコンが、「ウチの生産ノウハウを使ってEVを作るから、部品やソフトウェアを提供してくれる会社は集まれー」と呼びかけ、世界中から2500社を超える企業が集まった。そうして結成されたのがMIHコンソーシアムだ。

MIHにEVの生産を依頼すると、この2000社の中から必要なパーツやソフトウェアを選び、車両の仕様を伝えると、必要な台数を作ってくれるということだ。

CESのプレスカンファレンスで、同社CEOのジャック・チェン氏は、世界各地に製造拠点の準備を進めており、アメリカ、中東、東南アジアの生産工場を紹介するとともに、Project Xという取り組みにも言及した。

それによると、Aセグメントの小型3人乗りEVコンセプトカーを2023年末に発表する予定だという。MIHに参加する企業のワーキンググループで開発したパワートレインなどを取り入れる。東南アジアやインド、日本市場を主なターゲットとする方針だ。価格は2万米ドル(約293万円)以下に設定し、以降6人乗りまで大型化しラインナップを広げていくとしている。

そしてCESの会場には、MIHに4輪ホイールハブモーターを搭載したEVピックアップ『エンデュランス』の製造を委託したLordstown Motorsと、ハイパワーなコンピューターを車載したINDI(ともにアメリカ企業)の車両が展示された。Loadstown Motors の担当者に聞いたところ、同社は500台を発注し、すでに31台が納車されたとのこと。少量生産でも低コストで委託でき、納車も早いのでビジネス展開を早くできる、と説明した。

◆ホワイトレーベルEVメーカー CENNTRO
CENNTROは2013年創業のアメリカのベンチャー企業で、商用車EVの専業メーカー。電動アシスト自転車から軽自動車、小型トラック、大型トラックまで幅広いラインナップを持つ。

2021年にはNASDAQに上場を果たしており、本社機能はフロリダ州ジャクソンビルにある。またドイツや中国に開発センターがあり、その他の拠点も欧州に6カ所、中国には2つの工場、南米コロンビアにも販売支社があるというグローバル企業だ。そして、メキシコ・モンテレイにバッテリー工場を建設中とのこと。

そして、CENNTROの車両はホワイトレーベルとして他社にも提供されており、日本にも入ってきている。『Metro』『Logistar 260』の2モデルが、日本のHWエレクトロが提供するELEMOシリーズの車両として導入されている。

そのほかにもCESの展示では、軽トラックのようなEV『Logistar 100』から、FCとバッテリーのハイブリッドを搭載した新型のトレーラーヘッド『LM864H』、タイの港でコンテナ運搬用として自律稼働しているという自律移動の大型スケートボード『iChassis 1000』など、幅広い電動車ソリューションが展示された。

担当者いわく、同社では今後、自社販売とともに他社への提供も進めるほか、EVパーツの外販を計画中とのことだ。EVのパーツのうち60〜70%は汎用品であり、流用が容易なため、CENNTROが世界中に展開しているサービス拠点と物流ネットワークを利用して展開していく計画だと説明した。

◆EVスケートボードで日本メーカーと提携するREEとApplied EV
EVスケートボード関連のベンチャー企業として、REEとApplied EV の2社を紹介しよう。

REEはイスラエルのベンチャー企業で、日野と業務提携をする企業だ。今回のCESでは、REEcornerと呼ばれる電動ホイールハブを出展した。このモジュール4基をホイールハブの位置に装着し、REEcenterと呼ばれるモーションドメインコントローラーと連携させることで、インホイールモーターのように動作する。

日野自動車はこのREEcornerを利用し、FlatFormerというスケートボードのコンセプトを作っている。

一方のApplied EVは、オーストラリアのベンチャーで、昨年スズキより出資を受けた企業だ。CESでは、EVスケートボードに箱型ボディやロボットアームなどを組み合わせ、用途に応じて利用する『Blanc Robot』をメインに展示した。

また同社はソフトウェア企業としての側面もあり、スズキは同社に出資した目的として、「次世代モビリティ用ソフトウェア関連技術の共同開発の推進や事業シナジーの実現」を挙げている。

NIOはJACの生産ラインを間借りする形で生産をスタート《写真提供 NIO》 MIH プロジェクトX《写真提供 MIH》 MIH プロジェクトXのロードマップ《写真撮影 佐藤耕一》 MIHにEV生産を依頼するメリットをLordstown Motors が挙げている。低コストや生産まで早いこと、少量生産に対応することなど。《写真撮影 佐藤耕一》 CENNTRO LS100《写真撮影 佐藤耕一》 CENNTRO LS260《写真撮影 佐藤耕一》 CENNTRO iChassis 1000《写真撮影 佐藤耕一》 日野 FlatFormer《写真提供 日野自動車》 REE corner《写真撮影 佐藤耕一》 REE corner《写真撮影 佐藤耕一》 AppliedEVのスケートボード《写真撮影 佐藤耕一》 AppliedEVのスケートボードにロボットアームを装着した例《写真撮影 佐藤耕一》 AppliedEVのパートナーとしてスズキのロゴが見える《写真撮影 佐藤耕一》