ドゥカティ デザートX《写真撮影 ドゥカティジャパン》

◆従来モデルとは一線を画す、新しいチャレンジ
ドゥカティが手掛けた初のオフロードモデル『デザートX』のデリバリーが順調に進んでいる。

『スクランブラー』や『ムルティストラーダ』などもダート走行を許容するが、デザートXは飛んだり跳ねたりも想定した本格仕様として登場。従来モデルとは一線を画す、新しいチャレンジと言える。

もっとも、ドゥカティがまったくオフロードに縁が無かったのかと言えば、そんなことはない。カジバ(イタリア)のマシン「エレファント」が、パリ・ダカールラリーを制覇したのは1990年と1994年のことだが、その車体にはドゥカティの空冷Lツインエンジンが搭載されていたからだ。

80年代から90年代にかけてのパリ・ダカールラリーは、地上波でもたびたび中継されたり、特集が組まれるなど、大きなムーブメントを迎えていた。それゆえ、エレファントの活躍を目にしたことがある人なら、デザートXにその面影を見つけられるに違いない。ある意味、ちょっとしたネオクラシックでもあるわけだが、もちろん中身は最新のコンポーネントで固められている。

先頃、その発表試乗会が群馬県で開催された。焚火のできる宿泊型ミーティング施設「TAKIVIVA」(タキビバ)と周辺のワインディング、そしてオフロードコース「浅間レースウェイ」を舞台とし、メディア関係者のみならず、全国のディーラースタッフやドゥカティオーナーも参加。オンロードモデルでもなかなかない、大規模なイベントが組まれた。

我々をアテンドするため、国際ラリーに60回以上、パリ・ダカールラリーの出場経験も10回を超えるレジェンド、ベッペ・グアリーニさんがイタリアから来日。日本からは2輪と4輪の両方で幾度となくパリ・ダカールラリー(後のダカールラリーも含む)に参戦し、4輪では5度のクラス優勝を誇る三橋淳さんがインストラクターを務めるなど、これ以上ない布陣で走れることになった。

技術説明にはたっぷりと時間が掛けられ、いよいよ試乗が始まった。まずは車両に慣れるため、参加者は浅間レースウェイに設けられた広場で簡単なトレーニングを受けることができた。グアリーニさん主導の元、スラロームや急制動といったメニューが用意され、ビッグオフローダーを操る上で必要な身体の使い方や荷重の掛け方、ライディングフォームを確認。ライダーの心身と同時に、バイクのウォーミングアップも済ませ、コースに出ることになった。

◆ビギナーでもベテランでもコントロールしやすい車体
装備重量223kg、シート高875mm(日本仕様は順次ローシートに切り換わっていく予定)の車体を、雨含みの火山礫で走らせるのには少々コツが必要だ。とはいえ、スタンディングありきで作られたであろう車体は、股下でコントロールしやすく、しなやかに大きくストロークするサスペンションが乗り手のスキルをフォロー。車体の挙動が感じ取りやすく、スロットルを不用意に閉じたりしなければ、極低回転域でも前へ前へと進んでいく。

以前、オンロード試乗の時に、スロットル微開域でレスポンスが鈍い領域がある、と報告した。微妙なタイムラグがダートでの扱いやすさに繋がるのでは?と予想したわけだが、果たしてその通りだった。たとえばギャップや轍の影響で、右手がライダーの想定以上に動いてもパワーが過度に盛り上がらず、ビギナーには安心を提供。スキルのあるライダーならそこからひと開けし、トラクションを自在に制御することができるはずだ。

また、それをさりげなくサポートしてくれているのが各種電子デバイスだ。ライディングモードには、スポーツ/ツーリング/アーバン/ウェット/エンデューロ/ラリーの6パターンが設定され、このうち、エンデューロとラリーがダート走行を前提としたプログラムとなる。この2パターンの違いは、主に最高出力で、ラリーだとフルパワーの110hpに達するのに対し、エンデューロを選択すれば、75hpに抑制。トラクションコントロールとABSの介入度も増し、より穏やかな特性を得ることができる。

トラクションコントロールは、単に安全側に設定されているわけではない。深く柔らかい砂地や、ぬかるんだ場所でスロットルを開けると、意図的にホイールスピンさせることができる。そうすることで駆動力に邪魔な砂や泥を跳ね飛ばし、その下の硬い路面をタイヤが捉えてくれるのだ。

アスファルトを前提にしたトラクションコントロールをダートに持ち込むと、これができない。多くの場合、ホイールスピンを検知した時点で即座にそれを抑制しようとするため(=駆動力が途切れる)、前にまったく進まなくなるだけでなく、その場で立ちゴケする可能性も増す。

ABSも同様で、ロックを検知した時に問答無用で液圧をリリースするのではなく、ギリギリまで制動方向で粘ってくれる。もちろん限度はあるものの、加速するにしても、減速するにしても、より積極的な操作を促してくれるスポーツ性が好印象だ。

◆ドゥカティに縁のなかったユーザーも取り込んでいく
オフロードを楽しんだ感覚のまま、今度はワインディングを走ってみたが、まったく違和感なく、コーナリングに没頭することができた。フロント21インチなりの大らかさはありながらも、ピレリのブロックタイヤ「スコーピオン・ラリーSTR」は高い接地感とグリップ力を発揮。ここでもやはり、よくストロークするサスペンション(特にフロントフォーク)が機能し、スポーツツアラーのように優雅なハンドリングと、上質な乗り心地を提供してくれた。

スクランブラーにはないロングラン性能と、ムルティストラーダにはない軽快感を持ち、なおかつ本格的なオフロード走破性を備えるオールラウンダー。それがデザートXである。オプションのサブタンクを選択すれば、ガソリンに8リットルの余裕ができる実用性のみならず、ラリーマシンさながらのフォルムを手に入れられるため、気分も盛り上がるはず。デザートXによって、これまでドゥカティに縁の無かったユーザーも取り込んでいくことになりそうだ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★
足着き:★★
オススメ度:★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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