ポルシェ タイカンをCHAdeMOで充電してみた《写真撮影 中尾真二》

日本自動車輸入組合(JAIA)が主催する試乗会でポルシェ『タイカン』に乗ることができたので、CHAdeMOによる急速充電への対応や効率について調べてみた。

EVオーナーなら気になる経路上の充電器情報
ポルシェは有明のショールームや一部の正規代理店に90kWの急速充電器を配備しており、22年前半には150kWの充電器も導入するという。各地のディーラーや販売代理店にも急速充電器の設置を勧めている。80kWh前後の大容量バッテリーを搭載するポルシェは、オーナー向けの独自充電インフラの整備の必要性を認識しているからだ。

しかし、記者というのは天邪鬼というか、疑問を持つことも仕事のうちだ。その裏返しは「専用の充電器以外だと効率が良くないのではないか?」といういじわるな疑問も湧く。したがって、タイカンをCHAdeMOで充電するとどうなるか試すことにした。試乗会場には電灯線(AC100〜200V)がきているので、ケーブルがあれば普通充電が可能だ。会場にも数口の普通充電ポートが設置されていたが、やはり経路上の急速充電器の情報は興味がある。

EVオーナーなら、充電器との相性や充電時の条件(バッテリー温度や天候その他)で、充電効率が変わることを知っていると思う。稀に充電器か車両側のソフトウェアの問題で、エラーになったり、使えるはずの充電器が使えないこともある。

実際の車両と特定の充電スポットでの充電データ、および「あの充電スポットでタイカンが充電できた」という情報は参考になるはずだ。

大磯町役場のDC急速充電器を試す
試乗会は「大磯プリンスホテル」(神奈川県)の駐車場を拠点に、コースは特に設定されず制限時間だけ決められていた。急速充電器は、会場から3kmほどの距離に「大磯町役場本庁舎」があり、そこに50kWのDC急速充電器があるという。充電スポットはナビ画面から簡単に検索可能だ。メニューから「充電スポット」をタップするだけで最寄りの急速充電器のリストが現れる。

平日ということもあり、充電器は空いていた。タイカンはフロント左右のフェンダーに充電ポートが設置されている。通常、このタイプのEVは、運転席側(右ハンドルなら右)が普通充電のポートだ。助手席側(同左)がDC急速充電ポート(CHAdeMO)になる。

なお余談だが、自宅にAC200Vのコンセントがあれば、付属ケーブルで充電可能だ。ほとんどの住宅で1万円前後で工事ができる3kW(AC200V)のコンセントはタイカンには力不足だ。ディーラー指定の11kWコンセントを設置しないと、一晩の充電では足りないということが起きやすい。

大磯町役場の充電器の利用は、庁舎受付に申請して鍵をもらう必要がある。訪問したときは、コロナ禍で不必要な対面接触を避けるため、鍵は解放され利用簿に自分で記載する方式になっていた。こういった利用手順は設置場所によって細かい違いがあるが、マナーの問題でもあり必ず守るようにしたい。

よくある間違いは「おかわり充電」だ。リチウムイオンバッテリーと充電の原理を理解していれば、続けて充電することのバカらしさを知っているだろう。充電器は充電が進むほど効率が落ちる。バッテリーの電力が増えるほど、充電にはそれより大きな電圧、電流が必要になる。充電ソフトウェアの制御は、バッテリーの負荷や温度をみながら出力を調整している。50%前後までは最大効率で充電を行うが、60%を超えるあたりから出力をさげていく。

充電結果:バッテリー残量が多く最大効率だせず
といったものの、試乗したタイカンは思っていたよりバッテリーの残量が残っていた。充電開始時で88%くらいだった。これでは、最大効率での充電テストにはならないが、せっかくなのでテストを続行することにした。

結果は以下のとおりだ。

充電開始:408V 82A 33.456kW
10分経過:413V 71A 29.323kW
20分経過:415V 55A 22.825kW
停止直前:415V 43A 17.845kW

最終電力量(目安)10.22kWh
バッテリー残量:96%
バッテリー温度:29度

充電器は30分のタイマーが設定されたが、今回はタイマーによる自動終了を待たず、20分を経過した時点でストップボタンを押して中断した。結果をみてわかるように、50kWの充電器だが、残量が80%を超えていると最大でも30kW前後しかで出力がでない。開始数分後をピークにあとは出力を下げながらの充電だ。これは充電器として正しい動作だ。

約20分の充電で車両側の表示で88%が96%まで回復したことになる。航続距離を360kmとすると約29km分となる。バッテリーの残量が50%前後からなら、同じ20分でももっと距離を伸ばせるはずだ。

CHAdeMOの大出力化にも期待
現行のCHAdeMOは25〜50kWのものが主流で90kWの充電器はまだ少ない。日本で販売されるタイカンはCHAdeMOに対応するようにソケット形状や充電制御ソフトウェアが調整されている。当然、高速道路や道の駅の急速充電器を利用することができる。

タイカンは、搭載バッテリーの容量、モデルや駆動方式によって航続距離は変わるが、試乗したスポーツセダンタイプは79.2kWhのバッテリーを搭載し、航続距離364km(ポルシェジャパンのサイト表記)とされる。同じくポルシェジャパンのサイトで360km表記の「タイカンターボ」が、EPAで約320kmという値もある。一般にEPAの計測条件はWLTC他より実測に近いとされている。平均的な走行条件なら300kmを目安にしておくとよいだろう。

タイカンの充電性能は、直流電圧(DC)800V、最大270kWまでの充電出力に対応するという。EU圏で充電サービスを展開しているIONITYは最大350kWの急速充電器を持っている。EUのすべてのEV充電器がこの仕様というわけではないが、このスペックがあれば、残り5%から80%までの急速充電が最短で22.5分で終わる。

CHAdeMOの充電電圧は400V。出力は90kWの充電器が最大となっている。高速道路のSA/PAに設置されているものは50kWが多く、90kWへの切り替えが始まっている。道の駅やコンビニなどは20kW前後のものが多い。

規格としては150kWにも対応可能だが、電圧を400Vとしているので出力を上げるとケーブルの太さや冷却を考えると150kWでも厳しい(ケーブルが太く重くなり取りまわしが悪くなる)。日本も電柱の電線にかけられている電圧は6600Vあるので、800V、900V、出力300〜500kWの充電器を作ることは可能だが、CHAdeMOが整備された2010年ごろの需要や負荷を考えてこのようになっている。

輸入車は、タイカンやアウディ『e-tron』のように大出力急速充電器を想定した大容量EVが多く、今後は日産『アリア』やトヨタ『bZ4X』など国産EVでもバッテリー容量が70kWh以上のものが見込まれている。中型トラックや商用バンのEV化も始まっているので、CHAdeMOの高出力化が期待されるところだ。

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