2021年のインディカー王者、#10 アレックス・パロウ。《Photo by INDYCAR》

2021年NTTインディカー・シリーズの最終戦(第16戦)決勝レースが現地26日、米カリフォルニア州のロングビーチ市街地コースであり、参戦2年目のアレックス・パロウが初のタイトル獲得を成し遂げた。最終戦の優勝はコルトン・ハータで2連勝、佐藤琢磨は9位。

迎えた2021年最終戦、ロングビーチ市街地コース戦にドライバーズチャンピオン獲得の可能性を残して臨む者は3人だった。予選でポールポジションを獲得したのは、そのなかのひとり、ランキング3位のジョセフ・ニューガーデン(#2 Team Penske/シボレー)。ポール獲得で1点追加である。

とはいえ、ニューガーデンの逆転王座の可能性は実質的にはかなり厳しいものだ。ポールの1点を加えて、目下通算470点、ランキングトップで517点のアレックス・パロウ(#10 Chip Ganassi Racing/ホンダ)とは47点差。パロウは決勝出走で最低でも5点を獲得できるため、ニューガーデンが決勝でのフルマーク53点獲得(最多トップ周回での優勝)を成し遂げても、パロウが出走28台中24位以下にならないと逆転は叶わない(王座獲得条件、同点想定時の優劣等はすべて手元計算。以下同)。

ランキング2位のパトリシオ・オワード(#5 Arrow McLaren SP/シボレー)は482点で首位パロウとは35点差。ニューガーデンに比べれば逆転王座の可能性に現実味があるものの、前戦終了時点でパロウには決勝11位で自力王座という条件が出ていた。今回、オワードがポールを獲れなかったことで、パロウの自力戴冠へのハードルは決勝12位に下がっている。最終戦の予選はパロウが10位、オワードは8位。パロウ圧倒的優位は間違いない。

ドライ路面での決勝1周目、チャンピオン争いにも影響を及ぼすアクシデントシーンが展開された。タイトなコーナーで連鎖的な接触が起き、その渦中にオワードとパロウがいたのだ。まずオワードがエド・ジョーンズ(#18 Dale Coyne Racing with Vasser-Sullivan/ホンダ)に当てられる格好でスピンを喫し、ほぼ最後方へと下がることに(ジョーンズにペナルティ)。

ジョーンズがオワードに当たった直後、背後で密集したマシンのなかではパロウもマシンの前後が他車に(前はジョーンズ)当たったようで影響が心配されたが、大きな問題は生じなかった模様。ここでパロウが消えたりしていたら、ニューガーデンの超奇跡的な逆転シナリオが現実味を帯びてくる可能性もあったが、そうはならなかった。むしろオワードの後退で、パロウ戴冠の可能性はさらに高まることとなっている。

やがてオワードは1周目の件が原因と見られるトラブルが発生し、マシンストップ。ほぼ完全な終戦を迎えた。その後、一時的にコース復帰したものの結局はリタイア、27位というリザルトに終わる。彼にとっては極めて残念な最終戦になってしまった。

レースはフルコースコーションとピット戦略が絡み合いつつ進んでいった。ニューガーデンには依然、わずかな逆転戴冠の可能性が残る。ただ、85周レースの終盤、ニューガーデンは2番手、パロウは4番手という状況になっており、もはやパロウの王座は確定的だ。あとは、レースを続けているマシンの台数等との兼ね合いによるパロウの“落ち得る最低順位”の状況、もしくはニューガーデンが最多トップ周回のボーナス2点を獲れる可能性がなくなること、これら次第でタイトル争い完全決着のタイミングが来ることになる。

そして残り10周近くになった頃、ニューガーデンがこのレースの最多トップ周回となる可能性が消えたところで、パロウの王座獲得が決まったのであった。

アレックス・パロウはスペインの24歳(1997年4月1日生まれ)。大きなチャンスに恵まれ続けたとはいえないキャリアのなかでも、努力を重ねつつ才能を発揮してきた若手気鋭だ。日本でも2019年にスーパーフォーミュラでシリーズ3位となるなどの活躍を見せている。

2020年にインディカー・シリーズへのフル参戦をスタートさせると、2年目の今季はトップチームのChip Ganassi Racingに移籍。開幕戦でインディカー初優勝を飾り、インディ500で2位になるなど躍進、同じく若手のオワードらと王座戦線を争ってきた。第14戦で年間3勝目をあげて3度目のシリーズ首位返り咲き(4度目のトップ就位)を果たすと、第15戦で2位となり、最終戦には王座獲得濃厚な状況で臨んでいた(最終戦は4位)。

2021年インディカー王者 アレックス・パロウのコメント
「信じられない。すごいレースだった。そして、本当に素晴らしい一年になったよ。このチームは最高だ。他に言葉が見つからない。Chip Ganassi Racing、そしてホンダの一員であることを大きな誇りと感じている。他の多くのパートナーについても、同様に誇りに思う」

「チャンピオンになることができ、とてもハッピーだ。この達成に関わってくれた人たち全員に、感謝してもしきれないよ。チームオーナーのチップ・ガナッシ(Chip Ganassi)には特に感謝したいと思う。これで自分はひとつの夢を叶えることができた。これからは次なる目標達成を目指す」

若くして大輪の花を咲かせたアレックス・パロウ。これからもその活躍に大きな期待がかかる。

最終戦の優勝はコルトン・ハータ(#26 Andretti Autosport w/ Curb-Agajanian/ホンダ)。予選14位からの優勝で、前戦に続く2連勝、今季3勝目となった。2位はニューガーデン。2017、19年に続く3度目の王座獲得は果たせなかったが、今季最終ランキングではオワードを抜いて2位に上がっている。

最終戦の3位はスコット・ディクソン(#9 Chip Ganassi Racing/ホンダ)。昨季に続く7度目の戴冠はならなかったディクソンだが(前戦で可能性消滅)、彼は6度も戴冠しているのに、なぜか2連覇がない。今回の挑戦でもジンクスは覆せなかった。

佐藤琢磨(#30 Rahal Letterman Lanigan Racing/ホンダ)は最終戦を予選16位、決勝はそこから7ポジションアップになる9位でフィニッシュした。ロングビーチは2013年に自身のインディカー初優勝を飾った地だったが、今季初優勝はここでも叶わず。これで2017年から続いていた連続シーズン勝利は「4」で途切れることとなった。

#30 佐藤琢磨のコメント
「厳しく、長いレースでしたが、9位でのゴール、トップ10フィニッシュとなりました。ピットクルーが素晴らしい作業を施してくれましたし、今日はいいスタートを切ることもでき、(レース展開的にも)とてもいい状況で戦えていました。しかし、3回目のフルコースコーションが自分たちにとって最良のものではなく、多くのポジションを失うことになりました」

「そこからは、できる限りのリカバリーをしようと懸命に戦いました。今日のマシンは空気抵抗を小さくするセッティングにしており、(ダウンフォースを削っているため)コーナーでは苦しい面もありましたが、レースを通してハードなファイトを続けました。今シーズンも応援をしてくださったみなさん、本当にありがとうございました」

琢磨の今季シリーズランキングは11位。来季についてはチーム移籍の噂などもあるようだが、再び勝利する姿を、それもできればインディ500で2年ぶり3度目の制覇を成し遂げる姿が見られることを期待したい。

来季2022年のインディカー・シリーズは2月末に開幕する予定となっている。

2021年のインディカー王者、#10 アレックス・パロウ。《Photo by INDYCAR》 2021年のインディカー王者、#10 アレックス・パロウ。《Photo by INDYCAR》 2021年のインディカー王者、#10 アレックス・パロウ。《Photo by INDYCAR》 最終戦を制し、2連勝となった#26 コルトン・ハータ(シーズン3勝目)。《Photo by INDYCAR》 最終戦2位の#2 ニューガーデン。ミラクル大逆転での王座獲得はならず(最終ランキングでは3位から2位に浮上)。《Photo by INDYCAR》 ランキング2位で最終戦に逆転王座の可能性を残していた#5 オワード。彼には辛い一戦になってしまった(最終的にはランキング3位)。《Photo by INDYCAR》 #30 佐藤琢磨は最終戦を決勝9位で終えている。年間最終ランキングは11位。《Photo by INDYCAR》