セバスチャン・オジェの勝利を喜ぶトヨタ陣営(中央後方、右がオジェ。左はコ・ドライバーのJ.イングラシア)。最前列には2位となった勝田貴元の姿も見える。《Photo by TOYOTA》

世界ラリー選手権(WRC)第6戦「サファリラリー・ケニア」が現地27日にフィニッシュし、トヨタの前年王者セバスチャン・オジェが優勝を飾った。オジェは今季4勝目、トヨタは同5勝目。2位には勝田貴元が入り、自身初の表彰台ゲットとなっている。

日本でラリーといえば、おそらくラリーレイド最高峰の大会「ダカールラリー」と並んで有名な存在が、アフリカ大陸を走る「サファリラリー」だろう。そのサファリがWRCの一戦として開催されるのは2002年以来、実に19年ぶりということになった。今季全12戦の予定の6戦目ということも含めて、シリーズの中間クライマックスともいえる注目ラウンドだ。

ケニアの首都ナイロビの北西約100kmに位置するナイバシャ湖畔に設定されたサービスパークを中心にしたグラベル(未舗装路)戦、久々の“WRCサファリ”は現地木曜(24日)に短いスーパーSS(SSはスペシャルステージ=競技区間の略)を1本走ってから、金曜に本格的な意味での競技初日を迎えた。この日はトップカテゴリーの「WRカー」で真っ向勝負を演じるトヨタ・ヤリスWRC勢とヒュンダイi20クーペWRC勢、双方の有力どころにデイリタイアが出るなど、復活のWRCサファリはいきなりサバイバルな展開を見せる。

金曜を終えての首位はヒュンダイの#11 ティエリー・ヌービル、2番手にはトヨタの#18 勝田貴元がつけた。以下、3番手にヒュンダイの#8 オット・タナク、4番手にトヨタの#1 セバスチャン・オジェ。

土曜も#11 ヌービルは首位を守り、#18 勝田も2番手を維持した。#8 タナクはこの日最後のSSで急な雨に対する車内の曇りへの対応を強いられてタイムロスしたとされ、4番手に後退。3番手には#1 オジェが浮上してくる。

そして最終日の日曜、この日はSS14〜SS18の5本のSSが残されていたが、最初のSS14で首位#11 ヌービルにアクシデント発生。彼はSS14を総合首位キープで走り終えるが、その後リタイアとなってしまう。これで実質の首位は#18 勝田ということに。ただし、続くSS15を終えた時点で#1 オジェに対するリードは4.6秒から0.8秒にまで縮まった。

SS16を終えて、#18 勝田と#1 オジェは同タイムで並ぶ。そして次のSS17で#1 オジェが8.3秒先行、単独トップで最後のSS18へ。最終的なラリー総合のタイム差は21.8秒、#1 オジェが2連勝で今季4勝目を飾り、トヨタは4連勝で今季5勝目とした。#18 勝田は大健闘の2位、自身初のWRC総合順位における表彰台奪取を成し遂げている。3位はヒュンダイの#8 タナク。

#1 オジェは「サファリで優勝することができて素晴らしい気分だよ」と、自身のWRC優勝ラリーコレクションに新たなひとつ、それも伝統あるサファリを加えられたことを喜んだ。そして勝田貴元に対しては「素晴らしい結果を残したタカ(勝田)を祝福したい。最後に彼をつかまえるのは、それほど簡単なことではなかった」との賛辞を述べている。

これで#1 オジェはドライバーズポイントランキングでトップ抜け出し気味になってきた。昨季移籍したトヨタで奪還に成功した王座、その2年連続8度目の獲得に向けて、ランキング2位の僚友 #33 エルフィン・エバンス(今回デイリタイアがありラリー総合10位)に34点差をつけている(133対99)。#18 勝田は今季全6戦で6位以内に入っており、ランキングでは5位(66点)。

マニュファクチャラーズポイントではランキング首位のトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team=TGR-WRT)が、ヒュンダイ(HYUNDAI SHELL MOBIS World Rally Team)との差を59点に開いた(273対214)。なお、#18 勝田はTGR-WRTのマニュファクチャラーズポイント登録ドライバーではないので、今回3位の#8 タナク(ヒュンダイ)がラリー総合のマニュファクチャラーズポイントに関しては2位相当のポイントを得ている。

勝田貴元(かつた たかもと/現在28歳)は日本人ドライバーとして篠塚建次郎以来27年ぶりとなるWRCでの(ラリー総合順位における)表彰台登壇を果たした。WRCで1991〜92年に計2勝している篠塚が94年のサファリで2位になって以来の快挙である。勝田の喜びのコメントは以下の通り。

「表彰台に立つことができて、とても嬉しいです。今週末は本当に長く、いろいろなことが起こりました。誰もが問題をいくつか抱えていましたが、僕たちはなんとか切り抜け、この順位でフィニッシュすることができました」

「今回の結果には満足しています。このラリーはかなり特殊ですし、トップレベルの選手はみな経験豊富なので、サファリで表彰台に上がれるとは思っていませんでした。もっと厳しい週末になると予想していたので、本当に嬉しいですね。とはいえ、まだまだ改善できると思いますし、将来的にはセブ(オジェ)と競って勝てるようになりたいです」

「もしWRCチャレンジプログラムがなかったら、自分はここにいないと思います。ゼロに近い状態から成長を支え続けてくれたトヨタ自動車、チームオーナーの豊田章男社長、そしてチームのみなさん全員に心から感謝しています」

豊田社長は勝田に対し、「初めて走る厳しい道で、世界最高のドライバーとトップ争いをしながら走り切る…。タカ(勝田)はこの一戦だけで今までの何倍も成長したと思います」などの祝辞を贈っている。

トヨタの育成計画「TGR WRCチャレンジプログラム」のドライバーとして、今季はトップカテゴリーのマシン(ヤリスWRC)でWRC全戦参戦という大きなチャンスを勝田は得ている(コ・ドライバーはダニエル・バリット)。開幕戦から3戦連続6位、そのあとは2戦連続4位と安定した成績を残してはいたが、勝田より若い世代の海外のドライバーたちが輝きを放つことも幾度かあり、トップカテゴリーマシンでの全戦参戦という絶好機にして日本戦復活予定のシーズンでもあるだけに、重圧はかなりのものであっただろうと想像する。

そんな状況下で見事に、勝田は2位という煌めく結果を出した。久々のWRC開催となったサファリで、並み居る強豪の多くがまともにラリーを走り切れないなかを一時首位、最終的に2位でフィニッシュしたことは高く評価されるだろう。今回の2位は、勝田貴元というラリードライバーのキャリアにおけるターニングポイントとなる可能性もありそうだ。

次なる目標、WRC優勝に向かっての勝田のさらなる邁進に期待したい。

WRCの次戦、第7戦はエストニアが舞台。7月15〜18日開催予定となっている。

(本稿の順位、開催予定等は日本時間28日午後6時の時点でのWRC公式サイトの表示等に基づくもの)

優勝を飾った#1 セバスチャン・オジェ(トヨタ)。《Photo by TOYOTA》 2位となった#18 勝田貴元(トヨタ)。《Photo by TOYOTA》 3位の#8 オット・タナク(ヒュンダイ)。《Photo by Red Bull》 WRC第6戦サファリの表彰式。《Photo by TOYOTA》 左から2位のバリット、勝田、優勝のイングラシア、オジェ(バリットとイングラシアはコ・ドライバー)。《Photo by TOYOTA》 自己最高の2位を喜ぶ勝田貴元。《Photo by TOYOTA》 勝田貴元の素顔。次なる目標は、優勝だ(写真は前戦サルディニア)。《Photo by TOYOTA》